ロッキード・マーティン、元SpaceXエンジニアのロケット企業から58機のロケット調達を契約
2021年4月5日、米ロッキード・マーティンは小型ロケット開発企業のABL Space Systems(ABLスペース)から58機のロケットを調達する契約を発表した。ABLスペースが開発中の「RS1」を2025年までに26機打ち上げ、2026年から2029年まで32機打ち上げる計画。米国内でフロリダ州、カリフォルニア州の射場から衛星打ち上げを実施するほか、イギリスで建設中のスコットランドの射場でも運用する。
ABLスペースは2017年に設立されたカリフォルニア州のロケット開発企業。CEOのハリー・オヘンリー氏は、SpaceXの主力ロケット「Falcon 9」の第1段開発に関わったエンジニアで、スペースX退職後にABLスペースを設立し、衛星打ち上げロケットの開発を開始した。米空軍研究所と空軍による民間航空宇宙技術支援イニシアチブ「AFWERX」から開発資金を調達し、2021年の第3四半期以降にカリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から実証機打ち上げを目指している。
RS1ロケットは、全長約27メートルでケロシン/液体酸素を推進剤とする2段型ロケット。第1段に自社開発によるE2エンジンを9基備え、地球低軌道(LEO)に1350キログラム、高度500キロメートル程度の太陽同期軌道(SSO)に1000キログラムを投入することができる。1回の打ち上げ価格は1200万ドル(約13億円)を打ち出している。
大型の主衛星に加えて3Uまたは6Uのキューブサット型の超小型衛星の放出に対応し、ペイロード室内にキューブサット放出機構を備えている。衛星打ち上げ契約は最短で10カ月前までに契約し、主衛星は1カ月前、副衛星は最短で打ち上げ5日前の射場搬入に対応するという。
RS1ロケットは、「展開型打ち上げシステム」と呼ばれるモバイル管制設備を利用する打ち上げに対応している。第1・第2段、フェアリングといったロケット各部はすべて輸送コンテナに収納できるよう設計され、海路、陸路だけでなく空路での輸送も可能になっているという。フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地といった従来から衛星打ち上げロケットを運用している5カ所の射場からの打ち上げが可能で、トレーラーに搭載されたモバイル打ち上げ管制センター「GS0」は射点から約1キロメートルの距離で発射管制が可能だという。
ロッキード・マーティンは2019年からABLスペースに出資しており、RS1ロケットをイギリスで打ち上げる計画を持っている。現在、スコットランドのシェトランド諸島アンスト島には「シェトランド宇宙センター」が建設され、ロッキード・マーティンはこの射場でロケットを運用する事業者となっている。2022年にはRS1実証機に6Uキューブサット6機を搭載して打ち上げを実施する予定だ。
RS1ロケットの打ち上げ能力は、SSOへの打ち上げ能力で比較すると、日本のイプシロン(590キログラム以上)と欧州のVEGA(1430キログラム)の間に位置する。競合するロケットは今後登場する米ファイアフライ・エアロスペース(600キログラム)やレラティビティ・スペース(700キログラム)と見られている。衛星打ち上げロケット運用では長い経験を持つロッキード・マーティンと長期の契約を結ぶことで、ABLスペースは新興ロケット企業の中で高い競争力を持つ可能性がある。