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<GAMBA CHOICE16>矢島慎也の苛立ちに見る危機感。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
ベガルタ仙台戦では2得点に絡み、気を吐いた。 写真提供/ガンバ大阪

 J1リーグ28節・ベガルタ仙台戦後、矢島慎也は苛立ちを隠せない様子で言葉を吐き出した。

「大阪ダービーでああいう負け方をしましたが、気持ちとか、戦う姿勢はみんな持っているものだと思うんです。それは最低限の土台になるところで、(ルヴァンカップ準々決勝の)ダービーで0-4で敗れた時も、今日の試合も、僕は同じ気持ちで戦っていたけれど、今日の仙台戦は(途中から)入って点を取ることができた。つまり、結果が出ないのは、気持ちとか、戦う姿勢だけで解決できる問題ではないと思っています。なぜ、失点したのか、それも、失点シーンだけを見て『ここをこうしよう』ということではなく、どうしてボールを失ってしまったのか、そこで誰が正確にサポートしなければいけなかったのか。そこはチーム全体で見直さなければいけないと思っています」

 いや、敢えて苛立ちを隠さなかったという方が正解かもしれない。勝つことの難しさ、1勝の重みを知っているからこそ、厳しい言葉で『変化』の必要を説いた。

「(相手の)クロスボールに対して、中の対応だけじゃなくて、その前のボールのつなぎのところの対応はどうたったのか。フリーキックを与えたところも、その局面の対応だけじゃなくて、なぜそこまでボールが運ばれてしまったのか。それを1つ1つ解決して、チームとして共有していかないと『戦い方』には繋がっていかないと思う。勝っても負けても課題は出るものだけど、負ければなおさら課題が出て当然なので、そういうところを選手各々でも試合を見返して考えられるし、スタッフと話すこともできるし、チーム全体でミーティングだってできる。そうやって1つ1つ正していかないと、厳しい状況のままシーズンが終わるというか、順位としてもどんどん難しい状況になっていくと僕は思っています」

 矢島の言うとおり、プロフェッショナルとしてピッチに立つ選手に、闘う気持ちがないとか、勝ちたい欲がない選手はいない。彼らにとってのサッカーは『仕事』だ。シビアな話、そこで結果を出せなければ、彼ら自身の報酬やキャリアにも影響を及ぼすのだから当然だろう。

 だが、それは相手チーム、選手も同じように備えている。だからこそ『結果』を導き出すには、理由がいる。

 得点をするためにも、失点しないためにも。

 思い出されるのは、遠藤保仁がよく口にしていた言葉だ。

「サッカーは11人でするもの」

 Jリーグで初優勝を飾った05年も。『三冠』を手にした14年も。Jリーグアウォーズで自身初のJリーグMVPに輝いた時も個人の名誉以上に、チームの結果を喜んだ。

「サッカーは個人でするスポーツではなく、みんなの力が揃って初めて結果が得られる。それを高い温度で保ち続けることができなければ『タイトル』には届かない。それをこの1年で実現できたことが何よりも嬉しい(遠藤)」

 察するに、矢島が言いたいことも、おそらくは遠藤と同じではなかったか。ただ頑張る、ただ走る、ではなく、個人という『点』を『線』につなげて11人で戦えるか。そのために、自身を犠牲にしてでもチームとしての戦いに徹することができるか。そして、たとえそれがうまくいかなくても全員が諦めずに『継続』できるか。

 もちろん『点』を『線』につなげるには、日々の練習でチーム戦術を成熟させることも不可欠だ。対戦相手に応じた戦略も必要だろう。だが同時に、試合中、状況に応じて瞬時にプレーを判断し、動きに変えるのは選手自身であるからこそ、個々が能動的に『意識』と『意図』を持ってプレーすることも不可欠であるはずだ。矢島が奪った仙台戦の先制点のシーンがそれを示している。

「僕が点を取ったシーン。ああやってあの場所に誰かが走るとか、ニアに潰れにいくという動きが今のガンバには少ない。だから僕は、自分がシャドーのポジションにいて、ハルくんがクロスボールをあげるときは、必ずあそこに入って行こうと決めていた。実際、トレーニングの後にも新さん(児玉コーチ)とずっとその練習をしていた中で、あのシーンでは成果が出たと思っています」

 これはおそらく、過去の試合を振り返る中で矢島自身が「負ければなおさら課題が出るので、そういうところを選手各々でも試合を見返して考えられるし、スタッフと話すこともできる」ということを実践してきた結果だろう。チームのために何が必要か。どんな変化を与えるのが効果的か。そして、自分は何ができるか。そうして彼自身がチーム戦術のもとに能動的に作り出した『意識』と『意図』を持った動きが、チームに変化を与え、得点チャンスを作り出した。仮にあの動きが得点に繋がらなかったとしても、相手の選手に「あのゾーンに入ってくるかもしれない」という心理的プレッシャーを与えていたはずで、それは、その後の『攻撃』を作り上げる上でも『ジャブ』として効いていたに違いない。そしてそれこそが「11人で戦う」ということでもあるだろう。

 そうした個人の『意識』と『意図』を持ったシーンが、ピッチのあちこちで見られるようになれば、きっとそれも11人を『線』で結びつけていく力になる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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