任天堂ゲーム機向けのソフトの販売動向推移をさぐる
積み上げグラフで経年変化
家庭用ゲーム機業界では今なお絶大な威厳と実力を誇る任天堂。その任天堂発のゲーム機に関し、同社の公開資料をもとに、その販売動向の精査を試みることにする。今回は「ソフト編」とし、同社のハード向けとして発売されているソフトにスポットライトを当てることにしよう。
まずはタイトル数動向の年単位での動き。2001年3月末期(2000年4月から2001年3月、以下同)以降の年次販売タイトル数について、任天堂自社のみの本数と、任天堂発に加えて他社(OEM:Original Equipment Manufacturer。他社ブランドの製品を製造。この場合は任天堂以外の会社製として、任天堂ハード向けタイトルを発売すること)まで含めた本数を見ていくことにする。なお今回記事のグラフでは、基本的に青系統が携帯ゲーム機、赤系統が据置型ゲーム機。原則として色が薄いほど昔の、濃いほど新しいハード(向けソフト)を指している。
「色々と」難儀したことが推測される(実際その通りなのだが)ゲームキューブ向けに、任天堂は一定数ソフトを供給し続けていたことが分かる。それがWiiの登場でぴたりと止み、以降はWii向けタイトルが一定数出され続けている。この世代交代はニンテンドウ64からゲームキューブに移行する際にも起きているので、驚くにはあたらない。
さらにこの世代交代は、2014年で携帯ゲーム機・据え置き型ゲーム機双方で起きている。前者はDSから3DSへの、後者はWiiからWii Uへの完全な移行である。任天堂のみの年間販売総タイトル数はこの数年大きな変化を示していないことから、任天堂は半ば総力戦で3DSとWii Uの活性化に望んでいたことが分かる。
もっとも直近年では3DSタイトルの任天堂発タイトル数は前年からほぼ相変わらずだが、Wii U向けは半減。多分に据置型ゲーム機の最新機種であるNintendo Switchへとシフトしたものと考えられる。
一方携帯ゲーム機向けでは2006年3月末期以降3年間に渡り、大規模なニンテンドーDS向け攻勢をかけ、ハードの躍進に一役買ったことが確認できる。
任天堂発タイトルの躍進で大きくハード数が伸び、それに伴い2007年3月末期あたりから他社OEMタイトルものび、全体数においてもニンテンドーDS向けタイトルが飛躍的に伸びて行く。「任天堂発」のタイトル数動向と、「全体」のタイトル数動向では1年から2年のずれがあり、「任天堂タイトルでハード数の底上げを行い市場を創り、他社が大きな市場でソフト展開を楽しむ」形に、ニンテンドーDSはズバリはまったことになる。
一方、似たような「3年プッシュ」の動きが3DSでも確認できる……のだが、肝心のタイトル数がDSの時と比べて約半分の11本から12本/年に留まっている。他にも要因は多々あるが、この「任天堂の後方支援的タイトル」数の少なさが、3DSがDSほどには伸びなかった一因として考えられる。ただし2016年3月末期から2017年3月末期では、単なる偶然かあるいは市場に活力を入れるためか、任天堂発のタイトル数は本体発売後よりもむしろ多い本数を計上している。これがラストスパートなのか、起死回生のための策の結果によるものなのかは、来年以降の動向で明らかになるはず。
任天堂オリジナル作の比率
任天堂のソフト開発の思惑に係わる動きが良く分かるのが、毎年の販売タイトル数について、任天堂発の割合を計算した次のグラフ。例えば2017年3月末期のニンテンドー3DSにおける自社タイトル数比率は19.7%。この期に発売された3DS向けタイトル71本のうち、任天堂発は14本なので、14÷71=19.7%となる次第。
このグラフからはいくつかの法則が見受けられる。つまり「赤(据置型)が高め、青(携帯型)が低め」「ハードの発売当初は高く、じきに下がり、最後にまた上がる」。それぞれ、
・「赤(据置型)が高め、青(携帯型)が低め」
据置型ゲームは開発ハードルが高く、参入他社数・タイトル数が少なめになり、必然的に任天堂発タイトルの比率が上がってしまう。
・「ハードの発売当初は高く、じきに下がり、最後にまた上がる」
ハードの発売当初は任天堂発のタイトルを多めに出して他社タイトルの準備期間を創ると共に、ハード市場の拡大を目論み、他社参入がしやすいようにする。ハードの寿命が近付くと最後のテコ入れを行う(&他社は腰が引ける)
と読めば道理は通る。
この規則性が正しいとすれば、ニンテンドーDSは実質的に商品寿命は終わったことになる(最後のピークが2013年3月末期に起き、2014年3月末期はゼロ)。DSはすでに後継機種の3DSが発売中のため、ソフト開発上の世代交代がなされても何ら不思議では無い。また、同様のパターンがWiiとWii Uとの間でも同時期に起きている。
前世代機とだぶる形で任天堂が双方機種にタイトルを出すのは長くて3年(ゲームボーイアドバンスとニンテンドーDSが良い事例となる)。この法則が継承され、DSから3DSへのバトンタッチは行われた。一方WiiとWii Uとの間では重複期間は正味1年しかない。それだけWii Uへのテコ入れが前倒しされたことを意味する。
また、Wii Uとニンテンドー3DSは共に、末期における自社タイトル比率上昇の場面に突入しているとも解釈できる。少なくともWii UはNintendo Switchへのシフトによるものだろう。Nintendo Switchは携帯もできる据置型ゲーム機とのコンセプトであることから、あるいはニンテンドー3DSからのシフトの意味合いも合わせ持っているとも読める(実際に任天堂では携帯型と据置型のプラットフォーム統合・一体化を目指している)。
現在進行年度(2018年3月末期)における3DSの世界全体での年間販売目標台数は600万台、Wii Uはゼロ、Nintendo Switchは1000万台。Wii UからNintendo Switchへのシフトは間違いない。一方、3DSは終了期では全世界で727万台の販売を計上しており、前年比で8割強のセールスを期待している計算になる。見通しとしてはやや楽観視している感はあるものの、まだまだ現役のハードとして後押しをしていく様子がうかがえる。
遊びの本質すら変わりつつある昨今において、現行世代機たるNintendo Switchと3DSがどのような世界を提案し、見せてくれるのか。これから数年の間、任天堂にとってはまさに正念場となるに違いない。
■関連記事:
ソフトハード合わせて国内市場規模は3302億円、プラスダウンロードが131億円…CESA、2015年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表(2016年)(最新)