21億円でFA移籍してきたメジャー通算108勝投手よりも『格上』なチーム・マスコット
プロスポーツの世界では、『格上』の選手が入団してきたときに、その選手が愛着を持っている背番号を着けている『格下』選手が、背番号を譲るケースがよくある。
今月、タンパベイ・バッカニアーズを移籍1年目でスーパーボウルに導いたトム・ブレイディはクリス・ゴッドウィンから背番号12番を譲り受けたし、NBAでも2019年にメンフィス・グリズリーズでプレーしていた渡邊雄太がドラフト1巡目で入団してきたスーパールーキーのジャ・モラントに12番を譲った。
メジャーリーグでは、昨オフに前田健太がロサンゼルス・ドジャースからミネソタ・ツインズに移籍した際に、捕手のミッチ・ガーバーから「エース番号」の18番を譲り受けた。
2019年に31本塁打を放ったガーバーは、メジャーでの4年間全てをツインズ一球団で過ごしながらも、毎シーズンを異なった背番号でプレーした珍しい経歴の持ち主だ。
ガーバーが2017年にメジャー・デビューしたときにもらった背番号は43番。17年のオフにツインズへ移籍してきたのが、それまでにメジャーでの7年間、所属した4チーム全てで43番を背負ってきたアディソン・リード。リードから43番を要求され、ガーバーは23番を着けて18年シーズンをプレー。
18年のオフにはオールスターに6度も選ばれている強打者のネルソン・クルーズがツインズにFA移籍。クルーズに23番を譲ったガーバーは、背番号を18番に変えて19年シーズンをプレー。この背番号が良かったのか、19年には31本塁打と大爆発してシルバー・スラッガーにも選ばれたが、このオフにマエケンがトレードで移籍してきて、またしても背番号を変更するはめに。昨季はガーバーは8番を着けてプレーした。
現役選手で、明らかにガーバーよりも『格上』の選手で8番を着けている選手は、ライアン・ブラウン(ミルウォーキー・ブリュワーズ)とイアン・ハップ(シカゴ・カブス)がいるが、幸いにもこのオフに背番号8番を欲しがる選手はツインズに移籍してきてはいない。
前置きが長くなったが、本題に入りたい。
今オフに2年総額2000万ドル(約21億円)でニューヨーク・メッツにFA移籍したタイワン・ウォーカーの話だ。
子供の頃は44番を着けてきたウォーカーが、メジャーリーグに昇格したのは20歳だった2013年のこと。そのときは中継ぎ投手のルーカス・リットキーが44番を着けており、ウォーカーには空き番だった27番が渡された。
2015年を最後にリットキーがマリナーズを退団すると、ウォーカーは背番号を44番に変更したいと球団に頼みこみ、念願の44番のユニフォームを手にした。
しかし、16年のオフにウォーカーはアリゾナ・ダイヤモンドバックスにトレードされてしまう。ダイヤモンドバックスの44番はチームの顔的存在のポール・ゴールドシュミットが着けており、「もう2度と44番を着ることはないだろう」とウォーカーは諦めた。
「他の選手と被ることが少ない番号」としてウォーカーが新たに選んだ番号は99番。
「ヤンキースにトレードされない限り、安泰なはずなので、これからは99番を背負っていく」
ニューヨーク・ヤンキースの99番は、2016年からアーロン・ジャッジが着けているが、長いメジャーリーグの歴史の中で背番号99番を着けた選手は21人しかいない。
ちなみにメジャーで最も長く99番を着けた選手は、セントルイス・カージナルス、フィラデルフィア・フィリーズとシカゴ・カブスでの合計8シーズン、99番を背負った田口壮だ。
「99番は安泰」と思っていたウォーカーだが、ジャッジの他にもう一人の選手の存在を忘れていた。
韓国出身の左腕、柳賢振だ。
昨季途中にウォーカーは、トロント・ブルージェイズにトレードされた。トレード先で待っていたのは、他でもない柳だった。
「ブルージェイズに行ったら、柳が99番を着けている。安泰だと思っていた99番もダメになったので、今度は絶対に大丈夫な数字として00番を選んだ」
昨季に0番を着けた選手は9人いたが、00番は誰もいない「絶対に安泰」な数字。メジャーの歴史の中でもウォーカーが20人目で、ウォーカーの前に00番を着けたのはブライアン・ウィルソン(2013年と14年にドジャースで着用)が最後。メジャーでは5年間も00番を選ぶ選手はいなかった。
そして、今オフにウォーカーが移籍したメッツには、「絶対的に安泰」である00番を着けた選手はいなかった。
しかし、ウォーカーは00番を着けてプレーすることはできない。
それは、メッツのチーム・マスコット、『ミスター・メッツ』が背番号00の持ち主だからだ。
ウォーカーは『ミスター・メッツ』から背番号00番を奪うことは諦め、99番を選んだ。