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韓国大統領選を中国はどう見ているか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2017年韓国大統領選挙で遊説する文在寅候補(写真:ロイター/アフロ)

文在寅候補の支持率が安哲秀候補を遥かに上回った理由として、中国はTHAAD配備の可否および対北朝鮮政策が深く関係していると見ている。シリア攻撃が裏目に出たと分析。韓国の国民感情を使って米国に抗議か?

◆文在寅候補と安哲秀候補の支持率の開きの原因を強調

韓国の有力世論調査会社REALMETER(リアルメーター)社が5月1日および2日に行なった調査によれば、左派系野党「共に民主党」のムン・ジェイン(文在寅)氏が42.2%で、中道左派の「国民の党」のアン・チョルス(安哲秀)氏18.6%を圧倒的な差で引き離していると、中国は盛んに報道している。

その差は、韓国民がTHAAD(サード。終末高高度防衛ミサイル)の配備に反対しているからで、トランプ大統領によるシリア攻撃以来、北朝鮮問題が一触即発の状況にあり、韓国民が戦争に巻き込まれるのを怖がっていることの、何よりの表れだと中国は分析している。

 3月12日付の本コラム「パク大統領罷免とTHAAD配備に中国は?」で書いたように、中国はムン氏を「親中、親北朝鮮(対話促進、融和策)、反日、THAAD配備反対」派と位置付け歓迎している。 トランプ大統領のシリア攻撃以来の韓国選挙民の心理的変化を考慮してか、ムン氏のトーンも最近では「親北朝鮮、THAAD配備反対」に関して微妙に調整しているものの、アン氏との間には明らかな違いがある。

アン氏は選挙戦術上、ムン氏との差をつけるためにTHAAD配備に関して慎重派から賛成派に回り、米韓同盟を重視し、少なくとも北朝鮮融和派ではない。

だから中国は、韓国庶民の「THAAD配備反対運動」を大きく取り上げ、いかにTHAADを韓国に配備すべきではないかを強調しているわけだ。

◆THAAD配備戦略が韓国では失敗していると言いたい中国

特に4月27日、トランプ米大統領は「韓国は、THAAD配備の費用、10億ドル(約1100億円)を支払うべきだ」と語っている。これに関して韓国民だけでなく、韓国外務省も「韓国政府が土地や基盤施設を提供し、THAADの展開と運用にかかる費用は米国が負担するというのが韓米の合意だ」と反発。  

4月28日に行われた大統領選候補者のテレビ討論会で、ムン氏は早速、このトランプ発言を使ってアン氏を攻撃した。

アン氏に対して「韓国が10億ドルを負担するようなことになっても、THAAD配備に賛成するのか」と質問すると、アン氏は「われわれが負担することはない。そうしないことは既に米韓で合意されている」と反論した。するとムン氏は「THAAD配備を積極的に歓迎したりするから、アメリカに足元を見られ、費用も出せというようなことになったのだ。韓国の交渉力を損ねている」と追い打ちをかけ、アン氏を戸惑わせた。

この戸惑いがアン氏の人気を一気に下落させ、支持率に反映されてしまったようだ。

だからアメリカのTHAAD戦略が裏目に出たと中国は分析しているのである。

この一連の動きに関して、中国の中央テレビ局CCTVは特集を組んだほどである。

◆シリア攻撃で韓国大統領選を左右しようとしたと中国は分析

トランプ戦略が裏目に出たのはTHAADの経費要求を韓国にしてきたことだけではない。

そもそもシリア攻撃を発端として北朝鮮包囲網を形成すべく動いたトランプ大統領の戦略は、実は韓国大統領選に影響を与えようとしたのだと、中国は見ている。

つまりTHAAD配備に反対あるいは慎重であるムン候補が当選しないように、シリア攻撃をきっかけとして北朝鮮を追い込み、朝鮮半島情勢を緊迫化させることによってTHAAD配備を肯定せざるを得ない方向に持っていこうとした。結果、大統領選においてTHAAD配備に慎重なムン氏の当選可能性を下落させようと試みたと、中国は見ているのである。

ところが、戦争となったら最大の被害を受けることが明らかな韓国民は、「戦争状態に入ることに恐怖を抱き、戦争反対の方に動いた」。それがムン氏の支持率を高めたので、シリア攻撃で韓国大統領選を左右させようとしたトランプ大統領の試みは失敗に終わったというのが韓国大統領選に対する中国の分析だ。

トランプ大統領の計算は逆効果を生み、THAADの経費をこの時点で韓国に要求したことは、トランプ流「ビッグ・ディール」としては大失敗だったと、中国は「喜んで(?)」いる。

◆アメリカに直接抗議できなくなってしまった中国のジレンマ

韓国におけるテレビ討論後の候補者支持率の劇的変化に関する中国の反応は素早かった。中央テレビ局CCTVは1時間後ごとの全国ニュースでこの結果を流したり、韓国庶民の「THAAD配備反対運動」に関する場面を何度も映し出し、特集を組んだりしている。

特に中国自身が韓国へのTHAAD配備に対して、中国の軍事配置が丸見えになるとして強烈な不満を持ちながらも、米中首脳会談以降、トランプ大統領と習近平国家主席による米中蜜月を演じているために、以前のように激しく対米抗議ができなくなっている。

そのため、韓国民の不満を用いて、アメリカへの抗議を代弁してもらっているという格好だ。

トランプ大統領の褒め殺しにより、北朝鮮包囲網を縮める方向で動いている中国だが、何と言っても中国が望む着地点は、米朝会談であって、全面戦争だけは絶対に反対。

したがって好戦派よりも北朝鮮融和派の当選を願っているのが本音だ。

9日にはいよいよ投票が始まる。

結果はどう出るのか。いずれにせよ、9日の結果が待たれる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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