Yahoo!ニュース

ガソリン小売価格、消費増税後の値上がり幅は8.4円

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

資源エネルギー庁が6月25日に発表した石油製品価格調査によると、6月23日時点でのレギュラーガソリン店頭小売価格(全国平均)は1リットル当りで前週比+0.4円の167.4円となった。これで9週連続の値上がりとなり、4月1日の消費増税後では累計8.4円の急騰となる。前年同期比だと15.4円高に達している。

最高値は鹿児島県の175.2円であり、他に長崎県(173.0円)、大分県(171.3円)、長野県(171.0円)、和歌山県(170.5円)、京都府(170.5円)、佐賀県(170.1円)の7府県が170円台に乗せている。一方、最安値は埼玉県の163.2円となっている。

引き続き、原油調達コストをガソリン価格に転嫁する動きが強く、原油価格主導で「ガソリン卸値→小売価格」と値上げ圧力が波及している。為替相場に目立った動きが見られない中、海外のドル建て原油価格の高騰が、素直に国内ガソリン価格に反映されている。

ドバイ原油相場は、前週の1バレル=109.45ドルから23日時点では111.65ドルまで、1週間で2.20ドル(2.0%)もの急騰となっている。今月初めは105~106ドル水準での小動きに終始していたが、主要産油国であるイラク情勢が緊迫化する中、今月は累計で5ドルを超える上昇となっている。これは今年の最高値であり、精製マージンの確保を急ぐ元売り各社は、原油高への対応から一斉に卸値の引き上げに動いている。

ガソリン卸値(バージ物)は1キロリットル=14万0,500円となっているが、これは前週から1,000円の値上がりとなる。東京ガソリン先物相場(当限)は2008年8月以来の高値を更新しており、もはや小売価格のみガソリン価格を据え置くことが可能な状況とはなっていない。元売各社の値決め方式が原油価格との連動性を強める中、末端小売店の経営努力では値上げ幅を吸収することは出来ない状況になっている。

画像

■今後のガソリン価格はどうなる?

問題は今後のガソリン価格動向だが、大幅な値下がりを想定することは難しい。

イラクでは、イスラム教スンニ派の反政府武装勢力が、既に同国最大の石油精製施設やヨルダン国境検問所などを制圧している。一方、国際社会はこの問題に深入りすることを敬遠しており、政情安定化に向けての道筋が描けない状況が続いている。

現時点では、イラク産原油に何か具体的な供給トラブルが発生している訳ではない。イラクのシャハリスタニ副首相(エネルギー担当)は、6月の同国南部の原油生産能力は日量300万バレル、輸出能力は同260万バレルを維持できるとしている。石油輸出国機構(OPEC)も特に供給障害が発生している訳ではないため、臨時総会を開催してこの問題を協議する必要はないとしている。また、サウジアラビア石油省高官は、「市場のいかなる供給不足にも対応できる」として、万が一にでもイラク産原油供給にトラブルが生じた場合には、増産対応に踏み切る可能性を示唆している。このため、当面の原油価格の上昇余地は限定されることになる。

ただ、仮にイラク南部の油田、石油ターミナルにまで戦火が広がれば、イラク産原油の供給が継続できなくなるのは必至であり、このリスクが払拭できるまでは、原油価格は高止まり傾向が続く見通し。いわゆる、地政学的リスクのプレミアムが原油価格に上乗せされた状態が続くことになるだろう。

サウジアラビアの増産対応が可能とは言っても、それはOPEC内から完全に増産余力が失われる危険な状態に陥ることを意味する。年末の需要期に向けてOPECに求められる供給水準が上昇するのが必至の状態にある中、イラク産原油の供給トラブルは国際原油需給バランスに致命的な一撃を与えかねない。

現実の供給トラブルが発生しなければ、ガソリン価格は現行の170円水準での高止まりに留まるが、何かイラクから不穏な一報が入れば、一気に180円水準にトライする可能性もある。高止まりを基本に、更なる急騰リスクを抱えた状態と理解しておきたい。

画像
マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事