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松本人志氏vs『週刊文春』裁判の裏側で展開された激しい「場外乱闘」の波紋

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊文春』7月18日号(筆者撮影)

11日発売の『週刊文春』の告発

 松本人志氏と『週刊文春』が「性加害」報道をめぐって裁判で争っていることは知られているが、その法廷外での「場外乱闘」とでもいうべき事態が話題になっている。

 事態が急展開しているので、何が起きているのか整理しておこう。

 いささか驚くべき内容を明らかにしたのは、7月11日発売の『週刊文春』7月18日号「松本人志5・5億円裁判 A子さん出廷妨害工作を告発する!」だった。それによると、同誌で松本氏を告発したA子さん周辺に2月半ばころより不審な動きがあることに気づき、記者が3月以降、彼女の自宅周辺を監視したのだという。

 その結果、A子さんの身辺調査を行っていた複数の男性の動きが明らかになった。例えば6月5日、彼女の自宅前に地方ナンバーの小型車が停まっていたという。夕方6時半過ぎ、A子さんが会食のために家を出ると車から飛び出した男が尾行を始めた。

「帽子にリュックを背負い、全身黒ずくめの男は左手に携帯電話を持ち、緊張感を漂わせた表情で二十分以上にわたり尾行を続けた。その間、もう一人の男が運転する小型車は、発進と停止を繰り返しながら彼女を追尾する」

尾行・張り込みを行う探偵を記者が尾行・張り込み

 取材班は周辺取材を経て、男2人が探偵業者Yに所属するメンバーであることをつきとめたという。そして6月23日にはまた別の男3人がA子さんを尾行。彼らについても同誌は取材を重ねて、探偵業者Zのメンバーであることをつきとめる。

 同誌は両方のメンバーを直撃、探偵業者の所属であることを認めさせた。その直撃時のやりとりは誌面で詳しく紹介されている。さすがに依頼者が誰であるかを明かすことはなかったが、既に尾行などを行った調査報告は事務所に提出していることなどを認めたのだった。

 尾行・張り込みを行う探偵業者を週刊誌記者が尾行・張り込みするという事態だ。尾行中の探偵を記者が隠し撮りした写真も今回、誌面に掲載されている。

松本氏の代理人が『ミヤネ屋』に抗議も

 同誌が暴露したのはそれだけではない。松本氏の訴訟の代理人弁護士、田代政弘弁護士がA子さんの知人X氏に接触し、「A子さんを説得して出廷しないようにしてほしい」と依頼したという話も書かれている。

 名指しされた松本氏の代理人は、内容が文春オンラインで配信された7月10日時点でその報道を否定。11日にはマスコミの取材会見に応じて、出廷妨害工作を行ったという『週刊文春』の報道を否定した。ただスポーツ紙などの報道によると、調査会社に調査を依頼したことは認めたらしい。匿名の投書が事務所に届き、それをもとに調査を行ったのだという。

 田代弁護士はX氏と会った際に「XさんはA子さんと不倫しているでしょう。そのことを雑誌が記事にするらしいですよ。私はその記事を止められますけど、どうしましょうか」と言ったという。X氏は不倫の事実を否定して、その依頼を断ったというが、どうやら田代弁護士はその調査のために探偵業者を使ったらしい。

 田代弁護士はA子さんを出廷させないよう依頼したという『週刊文春』報道を事実ではないと否定したが、同じ11日に『週刊文春』側も文春オンラインでコメントを発表。弁護士の説明には「事実誤認や曲解」が含まれていると反論。次号で詳細を明らかにするとした。

 公開された「ミヤネ屋」への抗議文(松本氏Xより)
 公開された「ミヤネ屋」への抗議文(松本氏Xより)

 また11日に『週刊文春』の報道を紹介した情報番組『ミヤネ屋』に対して田代弁護士らは、「偏向報道」だと抗議、その抗議文を松本氏がX(旧ツイッター)で公開した。

「女性週刊誌の元編集長」の動き

 そのほかにも『週刊文春』7月18日号の記事には、驚くような話がいろいろ書かれている。例えば「大手出版社に在籍する女性週刊誌の元編集長」が5月10日にX氏のオフィスを訪ね、記事のコピーを提示した。記事の見出しには「不倫」の文字が躍り、X氏が住むマンションのエントランスに佇むA子さんの写真が付けられていたという。元編集長は「うちの雑誌では掲載を見送ったけど、他社に持ち込めば記事になっちゃいますよ」と言ったという。

 X氏は不倫関係を否定したが、元編集長は後日、再びX氏のもとを訪れ、A子さんが出廷せずに和解すれば「五千万でも一億でも渡せます」と告げたという。

 その後、『週刊文春』の記事では1月5日に「週刊女性PRIME」が「松本人志の性加害疑惑を告発した女性 会合終わりにスピードワゴン小沢に送っていた“お礼メッセージ”」という記事を掲載、松本氏がXで「とうとう出たね」とポストしたことや、6月24日には「松本人志が『週刊文春』を訴えた5・5億円裁判で『性被害の認識はない』発言撤回か、告発女性たちの中で起きた“仲違い”」という記事を掲載したことを紹介。記事中でA子さんがその記事の“仲違い”の事実を否定し、「私は(「週刊女性」から)一切取材を受けていません」と語るコメントを載せている。

独自報道を続ける『週刊女性』(筆者撮影)
独自報道を続ける『週刊女性』(筆者撮影)

『週刊女性』の独自の報道

 X氏のもとを訪れた「女性週刊誌の元編集長」について『週刊文春』は雑誌名などを伏せており、その後に書かれた『週刊女性』報道との関係については記事には全く書かれていない。恐らく元編集長とX氏との話し合いの中で公表しないという約束がなされているのかと思われるが、そのあたりについて『週刊文春』は次号で明らかにするのだろうか。

 ちなみに『週刊女性』は紙の雑誌でもこの間、7月9日号に「告発女性の驚嘆発言『性被害は受けてない!』」という記事を掲載して話題になった(前述した6月24日付配信内容と同じ趣旨)。また7月9日発売の7月23・30日号で「『私は“上納”されてない』新証言を独占入手」という記事を掲載している。 

 いわば『週刊文春』のカウンターにあたる報道を行っているのだが、取材に基づいて独自のスタンスで報道を行うのはむしろ真相解明のために歓迎すべきことではある。ただ今回の『週刊文春』記事にある「女性週刊誌の元編集長」の話とそれが連動しているとしたらまた別の意味を持つとも言えるかもしれない。

 ちなみに『週刊文春』の記事によると、同誌は『週刊女性』にも取材申し入れを行い、「かねてより取材の過程などに関してはお答えしておりません」という回答を得たという。

 裁判は3月から口頭弁論が開始されているのだが、その水面下では様々な場外乱闘が繰り広げられているわけで、今回の『週刊文春』の記事の波紋も拡大している。

 一連の激しい応酬、今後どうなるのだろうか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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