米雇用統計発表後の金価格が急落した意味
米労働省が11月8日に発表した10月の雇用統計によると、非農業部門就業者数は前月比+20.4万人となった。10月は米政府機関の閉鎖を受けて雇用者数の伸びが大幅に減速すると予測されていたが(市場予測は+12.0万人)、実際には雇用者数は堅調な伸びを記録していたことが確認できる。
しかも、今統計では9月分が速報値の+14.8万人から+16.3万人、8月分が+19.3万人から+23.8万人までそれぞれ上方修正されている。米政府機関の一時閉鎖が雇用情勢に大きな影響を及ぼさなかったことが確認されると同時に、9月の雇用減速懸念も杞憂とまでは言えなくても、やや過大な警戒感だったことが確認できるデータになっている。
失業率は前月の7.2%から7.3%まで上昇しているが、これは連邦政府職員の一時帰休を失業者に組み込んだ結果であり、マーケットでは余り深刻な数値とは捉えられていない。来月の統計では一時帰休の政府職員は失業者から外れるためだ。労働参加率が前月の62.8%から63.2%まで急低下するなど手放しで喜べる数値ではないが、少なくとも米経済に対する評価を押し上げるに足る内容と評価できる。
■金市場は緩和縮小リスクに対する警戒感を強める
これを受けて、8日の米短期金利先物市場では2015年半ばまでには米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを開始するとの見方が広がっている。現在は、15年4月の利上げを47%、同年6月の利上げを55%の確率で織り込んだ情勢になっている。
一方、COMEX金先物相場は前日比-23.90ドルの1オンス=1,284.50ドルまで急落しており、米金融緩和の縮小時期が前倒しで実施される可能性に対する警戒感を強めていることが窺える情勢になっている。
米連邦債務上限引き上げを巡る混乱状況、それに伴う米景気減速懸念の広がりを受けて、雇用統計発表前の金市場では来年3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)までは、現行の緩和政策が維持されるとの見方が優勢だった。即ち、毎月850億ドルの資産購入が継続し、膨大な緩和マネーが資産市場に流入する流れは維持されるとみられていた。
しかし、今回の統計からはバーナンキFRB議長が退任する直前の1月FOMC、来月の雇用統計の結果次第では従来からバーナンキ議長が指摘していた年内の債券購入縮小といったシナリオも警戒しておく必要性が高まっている。年明け後に再び連邦債務上限の引き上げ問題が浮上するのが確実な情勢にある中、金融政策転換のハードルは高いものの、「いつ債券購入縮小が決定されても不思議ではない」との警戒感が、金価格の上値を強力に圧迫することになるだろう。
■金・原油比価が急低下
連邦政府機関閉鎖などを巡る一連の混乱を受けて、金価格と原油価格の比価は、7月から10月前半にかけての12~13倍に対して、10月下旬から11月上旬にかけては14倍前後まで急伸していた。要するに、ドル紙幣の増刷政策が継続するとの見方から、通貨としての金の購買力は増強されたのである。しかし、再び緩和マネーの膨張が縮小するとの見方に傾いている以上、同比価は再び12~13倍水準に回帰する可能性が高く、コモディティ市況全体の中で金価格のパフォーマンスは相対的に悪化するとみている。
仮に、現在1バレル=94.60ドルのWTI原油価格が100ドルまで反発したとしても、金・原油比価が12~13倍まで低下すれば、金価格の理論値は1,200~1,300ドルということになる。原油価格が95ドルであれば、金価格は1,140~1,235ドルが理論値になる。
依然として米金融政策の先行き不透明感が強いが、金市場の反落傾向、金・原油比価の低下などは、マーケットが緩和マネーに依存できない状況が近づいていると見ていることを明確に示している。