【インタビュー】今、日本のアクション映画に欠かせない男、”和製ジャッキー・チェン”三元雅芸とは?
日本のアクション監督から絶大な信頼を得ている男
2014年の大ヒット映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』は、観る側の体温が上がるような、邦画史上類を見ない本格アクションシーンが話題になったが、このシリーズのアクション監督を務めたのが、谷垣健治。また『GANTZ』『図書館戦争』などのアクション監督の下村勇二、『AVN エイリアンVSニンジャ』『忍者狩り』など海外でも評価が高かったアクション映画の園村健介アクション監督など、そんな日本を代表するアクション監督から絶大な信頼を得ている役者がいる。今の日本のアクション映画には欠かせない役者の一人、それが三元雅芸(みもと まさのり)だ。
『るろうに剣心~京都大火編~』の他、三池崇史監督『極道大戦争』('15年 主演;市原隼人)、西村喜廣監督『虎影』('15年 主演;斎藤工)に出演、さらに千葉誠治監督『忍者狩り』('15年)、『AVN エイリアンVSニンジャ』('11年)、下村勇二監督『HERO』('15年)では主役を務めるなど、彼のアクションを目にしている人は多いはずだ。とにかく観る者を惹きつける三元の殺陣をはじめとするアクションシーン。その迫力と熱の伝わりかたは、明らかに他の役者とは違う。アクション監督を夢中にさせる三元雅芸という役者、一体どんな男なんだろうか?
ジャッキー・チェンの映画を観て衝撃を受ける
三元は1977年生まれで大阪府出身。アクションとの出会いはジャッキー・チェン。「ジャッキー・チェンの映画をテレビを観てショックを受けました」。中学校まで10年間空手を習い、中3の時全国大会で2位になるほどの実力だった。アクションの礎は空手、そしてアクションに夢中になったのがアルバイトで始めたヒーローショーだった。中高一貫の進学校に入学した後、アルバイトでアクションチームを探して所属し、高校、大学と7年間、ヒーローショーでウルトラマン、仮面ライダーなどマスクを被ってアクションをやっていた。アクションと同時に、人前で演じることの楽しさと出会ってしまった。高校時代、アクションチームにのめり込みすぎ、みるみる成績が下がってきた。でも本人は大好きなジャッキー・チェンと同じように演じるという夢が叶い、毎日が楽しくて仕方なかったという。「親は激怒して、特に母親はアクションを目の敵にしていました。勉強はしませんでしたが、アクションの勉強はやっていました。ジャッキー・チェンの映画をスローモーションで観て、どういうアクションを作っているのか分析しました。母は僕が頭がおかしくなったんじゃないかと思ったみたいで、心配そうに見ていました」。大学は地元・関西の同志社大学に進んだ。「所属していたアクションチームを離れたくなかったから。ここに入れば4年間またアクションができると思った」。アクションにますますのめり込んでいった。
大阪のアクションチームでアクションにのめり込む
大学卒業後は地元の信用金庫に就職した。これもアクションチームから離れないためだ。「都市銀行に入ると、どこに転勤させられるかわからないので、大阪の信用金庫であれば大阪府内の異動で済み、心おきなくアクションができると思いました」。しかし、今までどこか浮ついていた自分に気づき、社会人として、銀行マンとして仕事に集中しようと思い、アクションチームのリーダーに「辞めたい」と申し出た。すると「現場がある時だけでも手伝ってくれないかと言われましたが、結局毎週駆り出されていました」。信用金庫では資格を必死で取るなど頑張ったが、「信用金庫ってお客さんに預金してもらい、それを運用して、利益を出してという繰り返しで、でも結局自分は、お客さんに種をもらってそれを花開かせて、そのおこぼれ(給料)をもらっていると思うと、なんか嫌になってしまい……。やっぱり自分が”花”になりたかった。自分が育っていかなければと思い、信用金庫を辞めました」。
一年で信用金庫を辞め、ヒーローショーでマスクを被って自分を表現するのではなく、マスクを脱ぎ、三元雅芸として表現したいと思い、舞台への道を選んだ。さらに「やっぱり東京に出てチャレンジしてみよう」と思い、25才の時に上京。色々なオーディションを受けるも、そう簡単には役者の仕事はなく、「大阪のアクションチームの先輩が先に上京していて、スタントマンをやっていまして、その先輩から役者の仕事以上に大変ではあるが、アクションの仕事をやってみるか」と言われ、目指していた役者の仕事ではなくアクションの裏方を始めた。「一行のセリフでも欲しかったのですが、アクションの裏方に入れば、出演者がどう芝居するのか、それに対し監督はどう演出するのか、役者はそれにどう応えるか、応えることができたのか、できなかったのか……全部を見ることができると思いました」。自分が演じる側になった時に、すぐに応えられる役者になるための勉強、準備だった。前出の日本を代表するアクション監督、谷垣健治のチームで様々なことを学び、吸収した。しかしアクションチームの仕事をしていると、自分の本来の目的である俳優の仕事からどんどん遠ざかってしまい、年齢のこともあり、焦る気持ちを押さえることができず、チームを離れる事を決意。しかしこのチームでの経験、人脈が、三元のキャリアに大きな影響を与えることになる。
役者として手応えを感じた主演映画は海外で高評価
2005年にはドラマ『ホーリーランド』(テレビ東京系 主演;石垣佑磨)で、念願のレギュラーを獲得。「監督は金子修介さんで、助監督が4人いて、ここで5人の監督と出会い、その後いろいろな作品で声をかけていただきました」。
役者として手応えに近いものを感じたは、2本目の主演映画『AVN エイリアンVSニンジャ』だった。
「自分では「キた!」と思いました、実際は全然来なかったんですけど…(笑)」。『女忍 KUNOICHI』の千葉誠治と『GANTZ』のアクション監督、下村勇二がタッグを組んだ忍者アクション映画で、日活の海外戦略型日本映画レーベル「SUSHI TYPHOON(スシ・タイフーン)」の第一弾作品として位置づけられ、三元のキレのある殺陣は「ニューヨーク・アジア・フィルム・フェスティバル」でも高い評価を得た。逆輸入されてからは業界内認知度が拡がり、色々なところから声がかかるようになり、2011年以降はコンスタントに映画に出演。「自分が持っているものを全部出せると思って臨んだし、出せたと思いました。アクションものというジャンルに縛られてはしまいますが、あの作品を観て声をかけていただけるようになりましたので、名刺代わりの一作になってます」。2011年、三元32歳。上京して7年経ってようやく役者としての芽が出てきた。
今年10月24日に公開された『忍者狩り』でも主役を務め、上映時間の6割以上を占めるアクションシーンは、古武道なども取り入れ、息つく暇もないほどのハイテンションで、肉体を極限まで駆使し、CGやワイヤーだけに頼らないフィジカルな映像は、絶賛された。
「みんながベター、ベストを出すために自分の事を捨てて、自分の事はできて当たり前という気持ちで臨みました。園村健介アクション監督も本当に独特の発想を持っている方で、この方が思い描いているアクションを僕らが体現していくわけですが、僕の方から園村さんには「もっとやります!」と進言しましたし、共演者のみなさんには「まだできますよね、大丈夫ですよね」と、みんなを狂った世界に引きずり込んでいきました(笑)。園村さんに、どれだけ苦しくても僕は笑顔でいきますから、園村さんも三元大丈夫かな?って感じで見ないでくださいと話しました。どんなに過酷でも「これが普通ですよ」って顔をして、みんなで麻痺しましょうと撮影に臨んだところ、結果、今作品も高い評価をもらうことができました」。
息が合わなければ台無しの戦闘シーンでは、全員がアドレナリンを出しまくり、フルコンタクトで臨み、三元も相手の役者も指を骨折するほどの激しいシーンになった。しかし2人とも何事もなかったかのように、最後まで撮り切った。
低予算だからこそ現場の映画熱狂者のマンパワーで勝負
実は『AVN~』もこの『忍者狩り』も低予算映画だ。これについては「予算が低い映画は、マンパワーで勝つしかない。30時間以上撮影が続いたこともありますが、俳優部は誰も文句なんて言いませんし、逆に本当に撮りきれているのか、この部分は撮らなくていいのかと役者がアクション監督に言うぐらいですから。M体質といいますか(笑)。自分たちが何ができるのか、何がベターなのかという想いで臨んでるからこそ、そういう考えで行動できるのだと思います。他の部署の皆さんも一様に過酷です。にもかかわらずそんな現場へあえて自分から乗り込んでくる狂った人達ばかりなので(笑)、パッションがなければそんな割の合わないことなんてやらないですよ」と事もなげに語る。物事は
一人の熱狂者が他の人たちを巻き込んで、初めて動きはじめる。映画の製作に携わっているスタッフは、全員がいい意味で狂っているという。「チームの中で僕の部署は俳優部。あくまで俳優部の一員として、自身は最良の駒になれているのだろうかといつも自問自答しています。駒って、もしかしたら卑下した言葉に聞こえるかもしれませんが、ある時は歩でもいい、ある時は飛車に、桂馬になれるのかということです。みんなで作っているんだということを味わうことができるのが映画の現場なんです」。そう瞳を輝かせながら語る三元だが、スタント無し、生身の体を使った激しいアクションシーンに対応するために、日ごろから徹底的に体を鍛えているのかと思いきや「しゃにむに体を動かして練習するのは、もう大阪時代にさんざんやってきましたので、今はインプットの時間が欲しいです。アクション映画を観て、どういう流れの中でこういうアクションになったのか、常に木を見て森を見るのか、森を見てから木を見るのかを自問していないと、変なこだわりを持ってしまうと森を見なくなってしまいます。なので今はしっかり食べて、様々な情報をインプットすることが大事です。あとは月に2回行っている格闘技のジムですね。本当のスパーリングではなく、ゲーム感覚でやっていまして、そこで”動きの感性”を磨いています」と、意外な答えが返ってきた。感性を磨き、常に感覚を研ぎ澄まし、どんなアクションにも対応できるようにしている。体にはあらゆるアクションの動きが沁み込んでいる。
人気アクションゲームのアクションコーディネーターとして引っ張りだこ
そんな三元を、ゲーム業界も放っておかなかった。人気ゲーム『龍が如く』シリーズでは主人公・桐生一馬のモーションキャプチャーを担当したり、数々の人気アクションゲームで、アクションコーディネーターとして大活躍している。三元のアクションはゲーム業界、ゲーマーからも愛され続けている。
ますますアクション俳優という仕事にのめり込んでいる今、アクションはもちろん演技についても確固たる考え方を持っている。「日常を大切にしたいですし、日常で感じる葛藤を演技に生かし続けることができるか--そんな、芝居を超えるものを求めていきたい。本当に強い人って苦しい時も笑顔で回避できると思うんです。悲しいシーンで泣くのもいいのですが、本当の自分だったらどういう感情なんだろうって思った時に、その強さを持っていたいですね。だから日常が大切。芝居になった時にその強さがにじみ出るように、日常を大切にしたい。強い、優しい男でいることができているかなっていつも思っています。うそをつかずに生きているか、目をつむっていないか、というのが僕の指針です」。豊潤な演技ができる役者を目指し、それには日常が修行だと考え、行動しているまっすぐな男だ。そんな男の周りには人が集まってくる。
三元は、後進を育てたいと、すでにやる気のある若手を指導している。「もうスポンジみたいな、貪欲に吸収しにくるやつがいて、そういう若手が来るとやっぱりうれしいんですよ。僕が持っているものは全部あげる、そんな気持ちでレッスンしています」。
大物監督のタッグによる謎のプロジェクト『VOICES』に出演
しかし三元時代はまだ始まったばかり。まだまだ若手には負けられないと出演作は増え続けており、今話題を集めている謎のプロジェクト『VOICES』にも三元の名前がクレジットされている。『VOICES』は、『のぼうの城』、実写版『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の樋口真嗣と、『るろうに剣心』3部作でアクション監督を務めた谷垣健治がタッグ組んだプロジェクトで、第一弾映像が10月に公開された。
メインキャストは武田梨奈、三元雅芸、丞威、島津健太郎の4名で、総勢50人が出演。”意味深な音楽”と、アクション満載の映像になっている。衣装制作として『GANTZ』のスーツデザインを担当した竹田団吾なども参加し、そうそうたるスタッフが顔を揃えている。プロジェクト自体の詳細は謎に包まれたままだが、映像の最後に「2015.11.20始動」というテロップが映し出されている。いよいよその全貌が明らかになる。
三元の印象は、見た目は穏やかだが、その瞳の奥には燃えるような意志が見え隠れし、鋭さを感じる。強く優しい狼。そんな空気を放っている。三元は現在、中国での撮影を敢行中で、その撮影現場で中国人にも「三元は狼のようだ(笑)」と言われたという。
その人間性であらゆる人を惹きつけ、いつも求められている以上のパフォーマンスを繰り出し、作品のクオリティを高めることしか考えていない。「限界を超えたアクションはアクシデントになりますが(笑)、アクション監督の喜ぶ顔が見たいのでついつい頑張ってしまいます」--屈託のない笑顔でそう語ってくれた。日本のアクション映画に欠かせない男には、敬意を込め“アクションバカ”という言葉を贈りたい。