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東京株式市場は続落、日経平均は一時28000円割れ、台湾株の下落に加え、米消費者物価指数への警戒も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 12日の東京株式市場は大幅続落となり、日経平均株価の前日比の下げ幅は一時600円を超え、心理的な節目である28000円を割り込む場面も。

 台湾の株価指数、加権指数の急落も下げのきっかけとなった模様。新型コロナウイルスの経路不明の感染者が出たようで、店舗休業など規制強化による景気への影響が意識された。

 11日の米国株式市場では一時ハイテク株が売られていたものの、押し目買いも入ったことでナスダックの下げは限定的となっていた。

 ここで注意すべきは、日足チャートをみると、日経平均、加権指数、ナスダックともに下に抜けてきそうな形となっている点である。

 今回の大幅な下げの要因としては、インフレ懸念の強まりが挙げられている。米国の5年物ブレークイーブン・レートは、10日に一時2.7327%と、2008年のピークを上回って2006年以来の高水準を付けた。また、10日のユーロ圏の期待インフレ率の目安となる5年先5年物インフレスワップも、1.56%を上回り、ほぼ4週間ぶりの水準に上昇していた。

 物価の上昇圧力が強まると長期金利に上昇圧力が掛かるとともに、中央銀行が正常化に向けた準備を行うのではとの観測も強まる。

 長期金利の上昇によって、ハイテク値がさ株などの割高感を連想させるとともに、日本の1990年のバブル崩壊や2000年の米国ITバブルの崩壊に、中央銀行の利上げも絡んでたことも連想される。

 現在の金融市場がバブルの様相を呈していることは否定できない。しかし、バブルは弾けないとバブルとはいえない面もある。それがいずれ弾けるであろうとの恐怖感もあり、それが今回のハイテク株主体の下落に繋がった可能性がある。

 そのきっかけが物価の上昇によるものとするのであれば、12日発表の米国の消費者物価指数がたいへん気になることになる。

 昨年4月に原油先物価格は一時マイナスに転じた。これにはコロナ禍による原油需要の後退観測だけでなく、先物特有の事情もあった。しかし、これが物価にも影響を与えることになる。

 その昨年4月と比較となることで、本日発表される米国の消費者物価指数の市場予想は前年比3.6%あたりとなっている。FRBの物価目標は消費者物価指数ではなくPCEデフレーターではあるものの、今年3月の前年比2.6%かに一気に3%台となれば、当然ながらインフレ観測も強まる。

 FRBの関係者は、あくまでこれは一時的なものとの認識である。確かに昨年4月と比べれば特殊事例といえるかもしれない。

 しかし、それだけではなく鉄鉱石や鉄や銅、さらにウッドショックと呼ばれる木材価格の上昇も起きている。思った以上に物価には上昇圧力が強まりつつあり、それが消費者物価にも反映されることが予想される。

 物価の上昇は一時的というよりも、今後あらためて上昇圧力を強めるとの認識が強まれば、中央銀行は正常化に向けて舵を切らざるを得なくなる。

 ただし、注意すべきは感じの米長期金利にはそれほど強い上昇圧力は加わっておらず、東京時間の10年債利回りは1.62%と前日の米国時間の水準からあまり動いていない。つまりこちらは比較的冷静にみているともいえる。しかし、米消費者物価をみて動きを強めることもありうるか。

 昨日の欧州の国債利回りは久ふりにそこそこ上昇するなど、こちらは何か気配を察している。日本国債の利回りについてはいまのところ論外ではある。

 やや株価がチャートなどを意識して過剰反応しているともいえるかもしれない。しかし、今回の動きをみると、地合そのものが変わってくる可能性もあり、かなり注意する必要もある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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