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アンバー・ハード、オーストラリアで刑務所入りの可能性?7年前の嘘はどうバレたのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ジョニー・デップとの名誉毀損裁判で1,035万ドルの支払いを言い渡されたばかりのアンバー・ハードが、今度は刑務所入りの危機に直面している。しかも、入れられるかもしれないのは、カリフォルニアのマイホームから遠く離れたオーストラリアの刑務所だ。

 彼女の容疑は、2015年4月、オーストラリアの法律を無視し、ロサンゼルスから無断で愛犬2匹を持ち込んだこと。この件は、2016年にハードが入国書類に嘘を書いたことを認め、1,000オーストラリアドルの罰金を払うことで解決していたものの、その後、彼女が偽証していた疑惑が浮上。オーストラリアの検察が再び捜査を始めたことは2021年10月にも報道されていたが、今週、当時オーストラリアの農産大臣を務めていたバーナビー・ジョイスが、ハードの刑務所入りを願っているという趣旨の発言をしたのだ。

 ジョイスがそのコメントをしたのは、オーストラリアの朝番組「Sunrise」の中。ジョイスは、アメリカがオーストラリア国籍を持つジュリアン・アサンジの送還を求めていることに触れ、「彼らはジュリアン・アサンジを欲しがっている。私たちはアンバーに来てもらうことにしよう。もしかしたらジョニーも」と述べた。彼はまた、アメリカがアサンジに刑罰を与えたいというのであれば、「彼らは『お互いフェアであるべきだ』と言うべきだ」と、オーストラリアにもハードに刑罰を与えさせるべきだとも語っている。ハードは昨年12月、新たな保護犬を引き取り、バーナビー・ジョイスと皮肉な名前を付けたのだが、刑務所入りした場合、その犬はどうなるのかと聞かれると、ジョイスは「私にちなんで名付けられた犬ね。私が面倒を見るよ。犬は安全だ」と言って笑った。

ハードは新しい犬をバーナビー・ジョイスと名付けた
ハードは新しい犬をバーナビー・ジョイスと名付けた

 ハードのオーストラリアでの偽証問題に関しては、FBIも協力していることが最近の報道でも明らかになったばかりだ。オーストラリア国内では、なぜこんなに時間がかかっているのか、セレブリティだから特別扱いされているのかという不満も出ているようだが、何もしないつもりでいるわけではないようである。ある関係者は、オーストラリアのメディアに対し、重要な罪なのでじっくり時間をかけて捜査すると述べていた。偽証罪で有罪になった場合、最長で14年の禁錮を言い渡される可能性がある。

偽証がバレたきっかけはデップのイギリスでの裁判

 さて、ここで問題の出来事を振り返ってみよう。この事件が起きたのは、デップとハードが結婚してまもない頃のこと。デップは「パイレーツ・オブ・カリビアン」5作目をオーストラリアで撮影しており、ハードも彼に帯同すべくプライベートジェットでブリスベン入りしたのだが、入国カードの「動物または動物の一部などを持ち込んでいますか?」との問いに「いいえ」と書き込みつつ、ピストルとブーという名の小型犬をこっそり持ち込んだのである。オーストラリアは、アメリカから動物を持ち込む場合、事前に承認を得た上で、到着後、動物を10日間隔離することを義務付けている。

 そこはうまくくぐり抜けたのだが、翌月、ペットグルーミングサロンにいる犬の写真がソーシャルメディアに出て、ハードが犬を連れてきたことが発覚。ジョイスはハードに、72時間以内にアメリカに送り返さない場合、犬を処分すると通達した。犬はすぐにプライベートジェットでアメリカに送り返され、同年7月、ハードは3つの罪で起訴される。それらで有罪となれば10年の禁錮の可能性もあったが、先に述べたように、最終的にはそれらよりもっと軽い罪状で罪を認め、刑務所入りを逃れた。

 当時、ハードは、オーストラリアに犬を持ち込むための書類手続きはアシスタントに任せており、完備していなかったとは知らなかったと述べている。また、ペットについては入国の際に記入した書類と別の書類が必要だったことも知らなかったと言っている。

2016年4月、オーストラリアの裁判所に現れたデップとハード
2016年4月、オーストラリアの裁判所に現れたデップとハード写真:Splash/アフロ

 それらの言い訳が受け入れられたのは、振り返ってみればおかしな話だ。それが本当であれば、入国カードの「動物を持ち込んでいますか?」の問いに、自信を持って「はい」と答えていたはずだからだ。しかし、そのボロは、思わぬところで浮上することになった。きっかけは、デップが自分をDV男呼ばわりしたイギリスのタブロイド紙に対して起こした名誉毀損裁判。この裁判でデップは負け、タブロイド紙のために証言をしたハードはほくそ笑んだ。皮肉にも、その裁判こそ彼女の不幸の始まりだったのである。

「あなたの助けが必要なの。仕事を失いたくないでしょ?」

 このイギリスの裁判ではデップのために20人近くが証言したのだが、そのひとりに、オーストラリアでの出来事があった時、デップの不動産の管理人を務めていたケビン・マーフィーがいた。彼は、この裁判の中で、オーストラリアの件で自分がハードから偽証することを強いられたと告白したのだ。

 マーフィーによれば、オーストラリアで起訴された後の2015年10月、どう釈明するかを思案していたハードは、かつてのアシスタントで、オーストラリア旅行直前にクビにしたケイト・ジェームズに「私が書類を用意する手続きを始めていた」と偽証してもらおうと思いついた。それに対し、マーフィーは、ハードはジェームズをクビにしたのだし、そういうことを頼むのはどうなのかと、賛成しなかった。すると今度はマーフィーが、「オーストラリアの国籍を持つミズ・ジェームズがオーストラリア旅行の書類手続きをするはずでしたが、彼女はクビになってしまいました。しかし、クビになる前に、彼女は書類を整えていたと私は思っていました」と証言する書類に署名することになってしまったのである。

 それは完全な嘘だった。実際には、犬を持ち込む許可のための書類手続きを始めたのはマーフィーだったのだ。手続きを進める中で、犬を客席に連れ込むのは不可で、貨物として乗せられることになるとハードに伝えると、彼女は拒否。ならば連れて行くことはできないので、書類の手続きはここで終えて良いかとマーフィーが聞くと、ハードは「ええ。別の方法で飛行機に乗せられるかしらね」と返事をし、勝手に連れて行くと決めたのだ。

 それが違法であると、ハードは十分知っていた。マーフィーがそれを繰り返し彼女に伝えていたからだ。彼がハードのために嘘の証言をしたのは、脅されたせい。「あなたの助けが必要なの。仕事を失うのは嫌でしょ?」と、ハードは、言う通りにしなければデップからクビにしてもらうとマーフィーに迫ったのである。

 幸いにも、マーフィーは、オーストラリアの法廷に行って直接証言することを免れた。それでも、嘘の書類に署名したことはずっと心に引っかかり、デップとハードが離婚した後、マーフィーはオーストラリアの弁護士を雇い、ハードからプレッシャーをかけられて偽証したことを自主的に告白している。イギリスのメディアに対し、マーフィーは、彼のもとにFBIから協力要請があったこと、またオーストラリアからの証言の要請にも応じることを明かしている。

アメリカはハードを送還するのか

 だが、果たしてハードはアメリカによって送還され、オーストラリアで裁判を受けることになるのだろうか。そこは、はっきりわからない。目撃者が全員オーストラリア国外に住んでいるのも、事を困難にする大きな要因だ。ジョイスはアサンジとの引き換えをすればいいのだと語ったものの、アサンジが居住するイギリスのメディアは、現実的にそれは難しいだろうと見ているようである。

 ひとつ言えるのは、ハードはオーストラリアに足を踏み入れられないだろうということだ。現地に姿を現せば逮捕される可能性があるのである。オーストラリアでは多くのハリウッド映画が撮影されてきた。ハードが出演した「アクアマン」もそうだし、現在公開中の「エルヴィス」や、今週末公開の「ソー:ラブ&サンダー」も同様。オーストラリアに行けないのは、ハリウッド女優にとって大きな障害となる。実際に刑務所に入らずに済んだにしても、ハードは、すでにつま先を突っ込んでいた女優としての刑務所に、かかとまで入ったと言えるのではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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