東南アジアからJリーグへ! JDFA木場昌雄氏が新たな一歩を踏み出す。
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5月13日、ガンバ大阪ジュニアユースチームの練習が行われている万博練習場には、G大阪の選手たちに混じって3名のタイ人選手の姿があった。MFウッティサック・シーシャイ(ムアントンFC)、FWキッティポット・ダンアルン(スパンブリFC)、MFティラパット・ニョムリット(チョンブリFC)だ。
それぞれ、タイ・プレミアリーグに所属するプロクラブのアカデミーの選手で、昨年12月24〜29日にタイで開催された『U-14 ASEAN Dream Football Tournament2014』の大会優秀選手に選ばれ、今回、5日間の練習参加の機会を得た。
『U-14 ASEAN Dream Football Tournament2014』とは、かつて12年にわたってガンバ大阪でもプレーし、引退後は自ら設立した一般社団法人『Japan Dream Football Association(JDFA)』の代表として活動する傍ら、Jリーグのアジアアンバサダーも務める木場昌雄氏が大会アンバサダーを務めた大会。かねてから東南アジアの発展や東南アジア初のJリーガー誕生を目指して様々な活動を続けてきた木場氏が、東南アジアでも事業を展開する森下仁丹株式会社のサポートを受けて実現した。同代表取締役社長の駒村純一氏は言う。
『創業122年の歴史において、我が社は設立当初から商品の海外輸出を視野に入れ、実際に世界各国に商品の輸出、販売をしてきました。中でもタイを始めとする東南アジア諸国に向けた仁丹の輸出、販売は今でも積極的に行っており、嬉しいことに地元の方の生活にも深く根付いています。そうした日頃のご愛顧に感謝の気持ちを示すため「タイの子供たちの夢の実現に少しでも力になれば」という思いから、2013年にJDFAとのオフィシャルスポンサー契約を締結。その活動をサポートしてきました。また、木場さんの『Jリーグを世界に!』という思いと、我が社の『日本で生まれた、日本独自の良い文化、商品で世界に勝負していこう』という考えが合致したことも、木場さんの活動をサポートしてきた理由の1つです。今年の12月には第2回目の『U-14 ASEAN Dream Football Tournament』の開催が予定されていますが、同大会も含め今後もJDFAをはじめ、木場さんといい関係を築きながら、その活動をサポートしていければと思っています(」
同大会にはタイから7チーム、日本から4チーム、カンボジアから1チームの計12チームが参加。文化や生活習慣はもちろん、サッカースタイルも異なる各国の選手が、異国のサッカーに触れながら、サッカーを通じて交流を図る姿がみられたが、これはまさに木場氏の狙い通りだったと言う。
「大会の実現は、選手個々の育成・強化はもちろんアジア全体でのサッカーのレベルアップやグローバル人材の育成を目指してのものでしたが、参加チームの監督には、それぞれ違う国のサッカーを肌身で感じる経験は国内大会では得られないものだったという言葉もいただきました。結果的にベスト4に進出したのが全てタイのチームで、日本人である僕らがオーガナイズする大会として日本のチームが勝ち上がれなかったことに複雑な思いもありましたが(笑)、僕自身の選手としての経験を踏まえても、中学生世代か国際交流を図れる機会を得ることは間違いなく選手個々の財産になると思っています。今年の12月には第2回目を予定していて、同時期には日本でも高円宮杯が開催されますがそこで試合経験を積めない選手たちに是非、国内大会では感じられない経験を積んでもらい、個のレベルアップに繋げて欲しいと考えています。(木場氏)」
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話を戻そう。
そうして日本でプレーするチャンスをつかみ、来日した3選手だが、うち一人は初めての『海外』であり、残りの二人も日本のJチームでプレーするのは初めてということもあってだろう。ジュニアユースの練習に参加した初日は「少し緊張もあったのか遠慮をしていて、自分を出し切れていないように見えた」とG大阪ジュニアユースの鴨川幸司監督。ただ、日を追うごとに少しずつ環境や他の選手にも慣れ、のびのびとボールを蹴る姿が。2日目はユースチームでの練習、3日目は再びジュニアユースチームでの練習を経て、4日目には公式戦に出場しないジュニアユース選手とともにヴィッセル神戸との練習試合にも出場。同日夜には万博記念競技場で行われたJ1リーグ12節の川崎フロンターレ戦の試合観戦をしたあと、短い時間ながらトップチームの選手とも交流を図り、最終日には、公式戦に出場しないユース選手との練習で締めくくった。
「これまでにはない新しい経験を手にする事が出来ました。将来、Jリーグでプレーするなら、ガンバがいいと思いました。(MFティラパット・ニョムリット)」
「日本の選手のパススピードはもちろん、全てにおけるスピードに驚きました。(FWキッティポット・ダンアルン)」
「楽しくサッカーができました。ACLの試合はタイでも放映されていますが、遠藤選手の間近で見れて感動しました。(MFウッティサック・シーシャイ)」
こうしたタイ選手たちの言葉に対し、指導にあたった前述の鴨川監督も「今日の練習では個々の良さもみられたし、技術的には3選手とも十分に日本でも通用するレベルだと感じました」とコメント。加えて、日本の選手にとってもいい経験になったと振り返った。
「ミニゲームなどをしていても、ボール際の強さもあるし、日本人選手なら足が出ないところで、タイの選手はグッと足が出せたり、というようなシーンも見られましたからね。そうしたプレーを体感できたことはうちの選手にもすごくプラスになったし、僕自身も、こうして海外選手と一緒にボールを蹴ることの効果というものを改めて感じることができました(鴨川氏)。」
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そうした手応えは、今回のタイ選手受け入れに全面的に協力したクラブ側も感じているようだ。G大阪は昨年から『アジア戦略』としてアジアでの様々な活動に精力的に取り組んでいるが、その先頭に立つ事業本部の河合直輝氏も手応えを口にする。
「今回の3選手の受け入れは、G大阪としては東南アジアの育成年代のレベルを知ったり、海外選手を受け入れた際の通訳を含めたコミュニケーションの取り方などを指導者にも学んでもらいたいというインバウンド事業の一環でした。その中では様々な収穫があったと思っています。その最たるものが、鴨川監督がおっしゃったように、うちのアカデミーの選手がタイの選手のプレーを肌身で感じられたこと。先日もトップチームの東口選手が、ACLでの戦いを振り返り『あんなところからシュートを打ってくるとは思わなかった』というようなコメントを残していましたが、サッカー文化の違いってそうした1つ1つのプレーにも表れますからね。それを育成年代から学ぶ機会を得たことは間違いなく、将来の財産になるはずだし、それが成長にも繋がっていく。また今回の練習参加を通して、タイで『ガンバ大阪』の認知度が高まり、『応援しよう』という気運が高まれば、それも我々にとっては大きな財産ですしね。そうした手応えからも、今後も木場さんといい協力体制を築きながら『アジア』を舞台にした、様々な活動を展開していきたいと思っています。(河合氏)」
木場氏がJDFAとしての活動をスタートさせて今年で4年目を迎えた。設立当初から『東南アジア出身のJリーグプレーヤーの輩出』をコンセプトの1つに掲げ、活動を続けてきたが、先に書いた昨年末のU-14大会や、今回のタイ選手の練習参加は、まさにそのコンセプトに大きく近づく取り組みの1つだったと言える。
「今回の練習参加や大会を通して日本のサッカーに触れる機会を与えてもらうことは、東南アジアの選手にとって大きなステップになる。かつて、Jリーグが発足したばかりの頃、僕ら日本人が、海外の選手のプレーに触れ、いろんなことを学び、成長していったように、ね。そう考えても、昨年の大会然り、今回の練習参加も含めて日本のJクラブに協力していただいたことにすごく感謝しているし、僕の活動においても大きな前進だったと思っています。
先の駒村社長の言葉にもあったように、今年の12月には第2回『U-14 ASEAN Dream Football Tournament2015』の開催も予定しています。そこではタイのサッカー文化として当たり前になってしまっている試合中の時間稼ぎをいかになくしていけるか、ということや、レフェリーの判定基準など、世界のスタンダードをアジアの選手たちに知ってもらうことを目的の1つにしていますが、かといって日本のサッカーを押し付けるつもりはありません。世界のスタンダードを学んだ上で、東南アジア各国が、それぞれの特性を活かしたサッカーで成長していく、というような流れが生まれればいいなと思います。(木場氏)」
そうした一つ一つの積み重ねが、いつかJリーグでのプレーを夢見る東南アジアの子供たちのチャンス拡大に繋がり、かつ、木場氏自身の夢の実現に繋がるようにーー。
東南アジアに腰を据えた木場氏の挑戦は、これからも続く。