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報道されないオスプレイ配備の裏側

山口一臣THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)

垂直離着陸機輸送機オスプレイが米海兵隊岩国基地に陸揚げされてから約2週間経った。8月3日午後(日本時間4日朝)には森本敏防衛相がわざわざワシントンを訪れオスプレイに試乗、「飛行が安定していて、回転翼と固定翼のモードが変わるときは思っていたよりもスムーズだ」「飛行全体は大変快適だった」などとノー天気なコメントを出していた。

パネッタ米国防長官との会談ではオスプレイの安全性が確認されるまで日本国内で飛行させないことで一致したが、10月初旬に沖縄で運用を開始するという米側の方針には一切変更がないと通告された。まるで子どもの使いである。

米軍はなぜ、そんなに配備を急ぐのか。

新聞も「配備ありき」「スケジュール優先」などと批判はするが、その理由がまったく書かれていない。なぜ、オスプレイは必要なのか。

在日米大使館のHPには〈日本の防衛のために極めて重要な要素で、太平洋地域の平和と安全を維持する助けとなる〉などともっともらしい言葉が並んでいる。だが、これは表向きの理由に過ぎない。実は本当の理由は別にある。

私はBS11で毎週水曜日「INsideOUT」という番組を担当している。時事問題を扱う報道番組で、専門家をゲストに呼んで話を聞く。8月1日(水)はオスプレイ問題をテーマに国際情勢解説者の田中宇さんに来てもらった。

田中さんは、私の疑問に即座にこう答えた。

「それは、オスプレイがアメリカの軍需産業、いわゆる軍産複合体にとってカネの成る木だからですよ」

目からうろことはこのことだ。

確かにオスプレイは1機6200万ドル、日本円にして50億円以上もする超高額兵器だ。現行の輸送ヘリCH46が1機600万ドルというから、単純計算で10倍以上もする。米政府はとりあえずこれを458機、調達する計画だという。古いCH46から順次オスプレイに更新していく。順調に配備が進めば、部品交換や整備などで軍需産業に巨万の富を与え続けることになる。

軍需産業にとって「カネの成る木」ということは、顧客である米政府にとっては「カネ食い虫」ということにもなる。実際、オスプレイには開発段階で560億ドル(現在のレートでも4兆円超!)もの巨額の税金が投入された。あまりのカネ食い虫に先代ブッシュ政権のチェイニー国防長官が開発中止に動いたこともあった。ところが議会の猛反発にあい、撤退を余儀なくされてしまったという。

なぜなら、オスプレイは全米40州に部品工場を分散させていて、それらの州に雇用と税収をもたらしていたからだ。とくにオスプレイのような超高額兵器の経済効果は莫大で、各州選出の議員がオスプレイ開発推進に回るのは当然といえば当然だった。実は、こうした手法は昔から軍産複合体が高価な軍装備を手がける際の典型的なものだと、田中さんは指摘した。

つまりオスプレイが必要とされるのは、北朝鮮の脅威や中国への対抗、あるいは日本の防衛に資するといった軍事的な理由ではなく経済上の理由からなのだ。

そう考えると、確かにすべてがわかりやすい。オスプレイのようにヘリコプターと飛行機の両方の機能を備えたティルトローター機の開発が始まったのは1950年代だった。しかし、開発に成功してもそんなものが実際の戦場で役に立つのかという疑問が当の軍人の間に巻き起こったこともあってなかなか実用化しなかった。

それがにわかに進展したのは1981年に共和党レーガン政権ができてからだ。レーガンは米政府の財政が悪化していたにもかかわらず、軍需産業に対して湯水のごとくカネを使った。世界が冷戦の終結=軍縮に向かう中、危機感を抱いた軍需産業が政権を動かしたのだ。

94年に量産が始まったオスプレイが初めてイラクに実践配備されたのは開戦から4年も経った07年のことだった。09年にはアフガニスタンにも配備され、NATOのリビア侵攻でも使われたが、その有用性ははなはだ疑問だと田中さんは言う。

「イラクもアフガンも戦況が落ち着いてからの投入で、しかも前線ではなく後方の物資輸送に使われただけ。軍用機としてはきわめて脆弱で、砂漠の悪条件下ではエンジンの消耗が激しく頻繁な修理が必要だったり、雨の時に標高の高いところを飛ぼうとするとローターに氷が付着して危険になる」(田中さん)

しかし、開発費と製造費が巨額なので「実践配備した」という実績をつくらないとリストラの憂き目にあう可能性があった。そこで、無難な場所でとりあえず仕事をさせた、ということらしい。

今回の沖縄・普天間基地への配備もこの延長にある。

米国はいままた未曽有の財政危機にある。2013年になるとトリガー条項と呼ばれる強制歳出削減プログラムが発動される。これによって米国の国防費が10年間で5000億〜6000億ドル削られるともいわれる。一方、米軍は中東、アフガンからアジア太平洋へ軍事プレゼンスを移しつつある。アジア重視戦略の中で順調に配備が進んでいかないと、ただでさえ欠点が多いといわれるオスプレイの「カネ食い虫」批判が再燃しかねないというわけだ。

これが、配備を急ぐ本当の理由なのだ。

私が問題だと思うのは、オスプレイが危険か否かということより、日本の政治家である野田佳彦首相が米国の言いなりになっていることだ。配備直前の今年に入って2度も墜落事故を起こしたオスプレイを不安に思わない方がおかしいだろう。にもかかわらず野田首相は「配備は米政府の方針であり(日本政府が)どうのこうのいう話では基本的にない」と平然と言ってのけた。

いったいどっちを向いて仕事をしているのだ。日本の政治家が日本人の生命と財産を守る立場に立たないでどうするのか。

オスプレイの安全性に疑問を抱くのは米国人も例外ではない。前出の田中さんによれば、米ニューメキシコ州のキャノン基地では周辺住民の反対でオスプレイの低空飛行訓練が棚上げにされたケースもあるという。

米国の方針通り今年10月からオスプレイの運用が始まると、東北から中国、四国、九州の広い範囲で低空飛行訓練が展開されるという。米軍需産業の生き残りのために、なぜ日本人だけがオスプレイ墜落の危険に怯え、騒音を我慢し続けなければならないのだろう。

【NLオリジナル 8月7日】 news-logよりhttp://news-log.jp/

THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)

1961年東京生まれ。ランナー&ゴルファー(フルマラソンの自己ベストは3時間41分19秒)。早稲田大学第一文学部卒、週刊ゴルフダイジェスト記者を経て朝日新聞社へ中途入社。週刊朝日記者として9.11テロを、同誌編集長として3.11大震災を取材する。週刊誌歴約30年。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。2016年11月末で朝日新聞社を退職し、東京・新橋で株式会社POWER NEWSを起業。政治、経済、事件、ランニングのほか、最近は新技術や技術系ベンチャーの取材にハマっている。ほか、公益社団法人日本ジャーナリスト協会運営委員、宣伝会議「編集ライター養成講座」専任講師など。

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