「高い原油」と「安い原油」が並存する時代
原油価格に、地域間で大きな価格差が発生している。
同じ原油と言っても産出地域によって油種には若干の違いが存在するため、必ずしも世界の原油価格が全て同一価格を形成する必要性はない。他にも、中東の地政学的環境が悪化すれば、中東産原油に加えて地理的に近い欧州産原油価格に上昇圧力が強まるような場面は、原油市場では頻繁に観測されている。
ただ、足元では米国産原油が1バレル=90ドル台前半で取引されているのに対して、欧州産原油は110ドル前後と、両油種の間に20ドル近い価格差が発生しており、大西洋を挟んで原油価格に対する評価が180度異なるとも評価できる異常な価格環境になっている。
■米国産原油は半年振りの安値
米国の指標原油であるWTI(ウエスト・テキサス・インターメディエイト)原油先物相場は、8月28日の1バレル=112.24ドルをピークに、直近の11月29日終値ででは92.72ドルまで値位置を切り下げており、ちょうど半年ぶりの安値を更新している。
米国では、シェール革命の影響で天然ガスに続いて原油産出量も急増しており、直近(11月22日時点)の国内産油量は4週間平均で前年同期の日量672.9万バレルに対して、795.8万バレルに達している。前年同期比だと122.9万バレルの増加となり、景気回復でも需要が伸び悩む中、国内需給の緩和は決定的な状況になっている。
当然に、海外から調達する原油量を抑制する動きも活発化しているが、こちらは前年同期の日量974.2万バレルに対して766.2万バレルと僅か20.8万バレルの減少に留まっており、米国内の原油需給は慢性的な緩和圧力に晒され易い環境になっている。要するに、国内増産圧力と比較して、輸入抑制の動きが遅れていることが、需給バランスの歪みをもたらしている訳だ。
実際に米週間原油在庫統計をみてみると、9月20日の週から10週(2ヶ月半)にわたって増加トレンドが形成されている。前年同期の3億7,410万バレルに対して、直近では3億9,140万バレルに達している。過去5年のレンジ上限も大きく逸脱しており、こうした過剰供給環境が、国際原油価格に対して米国産原油相場を異常に割安な水準まで押し下げている。
■米国は原油輸出の解禁を
これによって米国内精製会社がガソリンやヒーティングオイルなどを生産する際の精製コストは強力な価格競争力を得ているため、米国からの石油製品の輸出量が急増している。直近の9月統計における石油最終製品の輸出量は日量284.8万バレルに達しており、12年9月の254.8万バレル、11年9月の271.4万バレルなどを大きく上回っている。
ただ、米国内においても暖房油などの製品在庫が逼迫化しているため、どうしても製品輸出主導で米国産の石油需給に対する緩和圧力を解消するのは難しい。足元では、米国からアジア向けの中間留分輸出が行われたとの報告もあるが、既に米国では原油価格の軟化と逆行する形でヒーティングオイル相場が急伸している。輸出拡大どころか、逆に国内供給を優先する必要性が高まっているのが実情である。
本来であれば、米国が原油禁輸措置を解除する時期を迎えたと考えている。米国が原油の輸出禁止措置を実施していることは余り知られていないが、これまでは一貫して世界最大の原油輸入国だったため、大きな問題は生じなかった。しかし、急ピッチで増産が進むシェールオイルは軽質・低硫黄の一方、米国内製油所はこれまで海外から調達してきた重質・高硫黄用に最適化されているため、全ての米原油需要をシェールオイルで代替することは難しく、国際的な原油流通に混乱が生じている。
安い原油価格は米国にとって国益であり、特に精製業者にとっては収益への貢献度が大きい。ただ、行き過ぎた米国産原油相場の安値は、シェールオイルなど非在来系原油の増産トレンドにもブレーキを掛けるリスクがあり、国際原油市場における新たなリスク要因となるレベルに到達し始めている。欧州の指標原油であるICEブレント原油先物相場は、シリア危機などが伝わった8月下旬の価格水準を回復している。これが本来あるべき原油価格の水準であり、米国産原油安は危険なシグナルと捉える必要があると考えている。