<ガンバ大阪・定期便VOL.19>勝利を引き寄せた倉田秋の1と、東口順昭の100。
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11月3日。倉田秋が刻んだ『シーズン初ゴール』は、2位を走る横浜F・マリノスから勝利を掴み取る、決勝点だった。
「ゴールシーンは、悠樹(山本)が本当にいいボールをくれた。キツい戦いになった中で、みんなが声を出して、反応しあって、体を張ってゴール前を守っていたし、『チーム』として戦えていたからこそ、一発奪って仕留められたらいいなと思っていました。今シーズン初ゴールは…遅すぎます。チームが苦しい戦いを続けていた時も全然、助けられていなかったし、正直、そのことばかり考えていた時期もあって、チームもなかなか勝てなくて、しんどかったですけど、この1発で少しスッキリしました。でも、まだまだ足りない。残りの4試合でも続けていければと思っています」
ガンバに復帰した12年。彼が強くこだわったのは、目に見えた『結果』だった。プロキャリアをスタートした07年からの3年間でそれを求められなかった悔しさは、期限付き移籍でチームを離れていた2年間も忘れることはなく、ガンバ復帰を決断する理由にもなった。
「ガンバでの最初の3年があまりに悔しすぎて、期限付き移籍でチームを離れているときもずっとその悔しさが心の奥底にあった。それを払拭するにはガンバで結果を残すしかないと思った」
精悍さを増した表情で話していたのを覚えている。
そんな彼が、ユースの先輩、二川孝広が背負ってきた『10』を志願したのは17年だ。敢えて自分にプレッシャーをかけるための番号だった。
「試合をしていてもどこか自分に物足りなさを感じていた中で、もうワンランク上の選手になるには何か刺激を入れなきゃいけないと思い『10』を背負うことを決意した。過去のキャリアを振り返っても僕は自分を追い込むことで成長してきたからこそ、そういう状況を自分に作りたかった」
その『10』を背負ってからの4シーズンにおいて、今シーズンほど『ファーストゴール』に時間がかかったシーズンは初めてだった。
17年は3月のFC東京戦で、18年は4月のサガン鳥栖戦で、19年は3月のヴィッセル神戸戦でゴールを奪い、昨年に至ってはガンバでは自身初の『開幕ゴール』を決めたが、今シーズンはリーグ戦の半分が過ぎてもファーストゴールを決められない。『怒涛の21連戦』の影響もあってか、試合を重ねても思うように攻撃が形になっていかないチームにあって、彼が前線で輝く回数も明らかに減り、ファーストゴールを遠ざけた。
もっとも、試合によってボランチを預かることもあったと考えれば、『目に見えた結果』だけが役割だったとは思わない。前節のマリノス戦も然り、守備での貢献に目を惹くシーンも試合も多かった。また、近年は彼自身もリーダーとしての自覚を強めていたからだろう。苦しいチーム状況下でも常にチームメイトや松波正信監督と言葉を交わし、時に選手の意見をまとめて監督に伝える役割も担ったと聞く。だが、そうして『言葉』で発信することが増えるほど、彼自身はよりピッチでの結果を意識するようになっていた。
「口で言うだけではなくプレーで示すのが僕のやり方」
彼が常々、口にしてきた言葉通り、倉田の求めるリーダー像は、チームのために走ること、戦うこと、仲間を牽引することだけではなく、ゴールやアシストという目に見えた結果を残すことに他ならない。だからこそ、キャプテンマークを巻いて戦ったマリノス戦でようやくそれを実現できたのが嬉しかった。
「松波さんが監督になって、よく話もするようになった中で、僕のことを信頼してくれているのを感じていただけに、それに応えられていない状況が本当にずっとしんどかった。今日のゴールで、松波さんが期待してくれていることにやっと1つ、応えられた。今日のように結果に貢献するプレーを毎試合、発揮できるのがキャプテンであり、10番。それを今年は出来ていなかったけど、ようやく1つ出来ました」
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加えて言うなら、チームが苦しい状況下でも繰り返し言葉を交わしてきたチーム最年長の守護神、東口順昭の『J1リーグ350試合出場、100試合完封』というメモリアルな勝利に繋がるゴールを決められたことも、喜びに輪をかけた。
「僕らがもっと戦えていたら、もっと早くにヒガシくんも100完封を達成できたとは思いますが…マリノス戦も後ろから出してくれる『声』を含め、フィールドの僕らがシュートコースさえ切っていれば絶対に止めてくれるという安心感がほんまにあった。そのおかげで今日もみんなが思い切ってボールにチャレンジできたし、いい守備ができた。ヒガシくんがいたからこその勝利だったと思います」
倉田が言えば、東口も呼応する。
近くで苦しむ姿を見てきたからこそ、東口は倉田のファーストゴールを喜んだ。
「秋は誰よりもチームのことを考え、苦しい状況下でもチームのために、ということを常に考えてくれていた。秋自身も苦しかったと思いますけど1点を取れたことでもっともっと、いいパフォーマンスを出していけるんじゃないかなと思います。いいゴールでした」
その東口は、先にも書いた通り、マリノス戦で『J1リーグ100試合完封』を実現した。アルビレックス新潟時代のプロ2年目、10年のJ1リーグ・第3節のガンバ戦で、スコアレスドローながら初めて『完封』を実現してから12年をかけて達成した、史上6人目の偉業だ。今シーズンを含め、近年は圧巻のセービングで幾度となくチームのピンチを救い、自ら『完封』を引き寄せたと言っても過言ではないパフォーマンスを示してきた東口だが、試合後にはともに戦ってきた仲間への感謝を言葉に変えた。
「チームメイトが体を張ってくれたおかげで達成できた。正直、記録を気にするより、常に目の前の試合に全力で臨むことだけを考えて、チームスタッフ、チームメイト、いろいろな人に協力してもらいながら、いろんなことを積み重ねてきた。節目を迎えられるのはありがたいことではありますけど、僕自身は1つずつ、勝つためにやってきた結果がこの数字につながったと思っています」
その思いからだろう。マリノス戦後には自身のSNSを更新し、日々、切磋琢磨しながら互いに刺激しあってきたゴールキーパー陣との写真を掲載した東口。これもまた彼の人間性がうかがえる一幕だった。
そんな二人の活躍もあって、2試合連続の完封勝利で勝ち点3を積み上げたガンバの勝ち点は40に。次節、大分トリニータ戦で勝利できれば、長く巻き込まれてきた『残留争い』から、ようやく抜け出すことができる。
もっとも、今はまだ何も決まっていない。倉田も、東口も改めて言葉に力を込める。
「今シーズンはファン、サポーターの皆さんにもしんどい思いばかりさせてきたので残り4つ、全部勝つつもりで戦う(倉田)」
「まずは自分たちの手でしっかりと残留を決めなければいけないし、応援してくれるサポーターのために1つでも多く勝ち点を積み上げて、順位を上げられるように最後まで戦っていきたい(東口)」
先週土曜日にプレス公開されたトレーニングを見る限り、チームの雰囲気はいい。連戦中は次から次へとやってくる試合に向けてコンディションを整えることに精一杯だったが、今は違う。「練習から激しく、バチバチとやりあってきた結果がマリノス戦の結果にも出た」と倉田が話すように、ここ1か月はようやく強度を上げたトレーニングの中で、個人やチームのコンビネーションを磨けるようになり、同じ絵を描いて試合を進められるようになってきた。長らく離脱していた三浦弦太や昌子源も、先週末の時点では部分合流だったものの前週より格段に強度の高いメニューに取り組み、今はもう全体練習に合流したと聞く。
さあ、残り4試合。
苦しく、厳しいシーズンを戦い抜いてきたガンバの、来シーズンの『J1リーグ』につなげる戦いが始まる。