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10年間で50人超が「裏ワザ」? 懲戒処分を免れるために税理士が使う手と問題点

小澤善哉公認会計士・税理士
(提供:Shrimpgraphic/イメージマート)

「今年は利益がかなり出そうだけれども、税金は払いたくないので、税金対策のほうをお願いしますね。その分、先生への報酬はたっぷり支払いますよ。」

 顧客からこのように頼まれて、専門家としての本分を忘れて、越えてはいけない一線をつい越えてしまった税理士に待ち受けているのは、国(財務省)からの「懲戒処分」です。

 懲戒処分を受けると、税理士としての仕事が一定期間できなくなるだけでなく、名前が公表されるなど、その後の人生を左右するほどの重いペナルティが税理士に課せられます。

 だからなのでしょうか。脱税などへの関与を疑われた税理士が、財務省から懲戒処分が下される前に税理士登録を自主的に抹消することで懲戒処分を免れたとみられるケースが、過去約10年間で50人超有った、という驚くべき内容の報道が、先日流されました。

【独自】脱税関与疑いで調査中に自主廃業、税理士50人超が「懲戒逃れ」か…数年で復帰し業務再開も(読売新聞オンライン)

https://www.yomiuri.co.jp/national/20211107-OYT1T50150/

【独自】「逃げ得」税理士の自主廃業、制度に不備…懲戒処分受けたのは指示された元部下(読売新聞オンライン)

https://www.yomiuri.co.jp/national/20211107-OYT1T50146/

 報道によれば、自主廃業した税理士のなかには、ほとぼりが冷めた頃に再度税理士登録を行い、税理士業務を再開するという、いわば裏ワザを駆使する者もいるとのことです。

 さらに同記事では、「国税当局は、税理士法を所管する財務省に制度の見直しを求めており、今後の税制改正で議論されるとみられる。」とも述べられています。

 処分逃れとはどのようなことか、処分逃れは本当に可能なのか、そして、制度の見直しは果たして必要なのか、本稿で論じることにします。

懲戒処分の内容は?

 懲戒処分の内容を処分が軽い順に挙げると、①戒告、②税理士業務の停止(停止期間最大2年)、③税理士業務の禁止(禁止期間3年)、となります。平成23年から令和2年の10年間において、懲戒処分が行われた418事例の内訳を見ると、①戒告…0件、②業務停止…337件、③業務禁止…81件でした。

 懲戒処分を自動車の運転免許に例えれば、②業務停止は免許停止(免停)、③業務禁止は免許取消しに相当します。

 ②業務停止処分はいわば免停ですから、処分を受けても免許(税理士資格)はそのまま残りますが、処分期間中は運転、すなわち税理士業務を行うことができません。この間は顧客との税理士業務契約を解除しなければなりませんので、処分期間中は税理士としての収入が絶たれることになります。処分期間終了後は、税理士業務を再開できます。

 これに対して③業務禁止処分を受けた場合には、免許が取り消しとなり税理士資格をはく奪されます。資格がなくなるので当然に税理士業務は一切行えません。

業務禁止期間(3年)を経過すると、改めて税理士登録の申請を行えるようになります。申請が認められれば税理士業務を再開できますが、申請さえすれば誰でもフリーパスで再登録が認められるかというと、実際にはそのようなことはありません

 申請後に行われる税理士会の聴取で、禁止期間中の収入をどのように得ていたかなどについて詳しく尋ねられた上で、税理士会において問題無しとの判断が下されると、初めて再登録が可能となります。

名前が公表される

 懲戒処分で収入の道が絶たれる以上に多くの税理士が恐れているのが、名前を公表されることでしょう。懲戒処分が下された場合には、国税庁のホームページに税理士の氏名事務所所在地処分内容等が公表されます。

税理士・税理士法人に対する懲戒処分等

https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/chokai/shobun/list.htm

 懲戒処分期間終了後には、国税庁のホームページから氏名等は掲載されなくなりますが、ネット上に一旦名前が出てしまった以上、「〇〇税理士は過去に懲戒処分を受けたらしい」という噂が生涯付きまとうことになるかもしれません。

 先ほど申し上げた通り懲戒処分期間が終了すれば、再び税理士としての業務を再開することは制度上可能です。しかし、専門家としての信用はすでに失われていますので、再開後も険しい道が待っていると言わざるを得ません。

「裏ワザ」とは

 懲戒処分とそれに伴う氏名の公表を避けるための裏ワザとして、(真偽のほどは別にして)一部で横行していると言われているのが、懲戒処分が下される前に、自主的に税理士登録を抹消してしまうというものです。現行法上は、懲戒処分は税理士に対して下されるものであり、廃業して税理士ではない者に対して処分が下されることはないからです。

 そしてここからが裏ワザの裏ワザたるゆえんとなりますが、自主廃業した数年後に税理士登録を再申請し、懲戒処分からも氏名公表からも逃れて、晴れて税理士業務を再開できるというのです。

 なお、ここまで述べたことは、あくまでも税理士法に基づく懲戒処分(行政処分)に限った話です。たとえ自主廃業したとしても、税理士が脱税に関与した場合の所得税法・法人税法・消費税法等違反の刑事罰から逃れることは出来ません。

裏ワザは実際に可能なのか?

 いわゆる裏ワザに関して、東京国税局で税理士を監督する立場である税理士専門官を経験したこともある喜屋武博一税理士は、税務職員時代の経験から「現状では懲戒処分を免れるために自ら税理士登録を抹消してその後に再登録をしても税理士業務を再開することはできないと認識すべきです」と、その著書「理論と実例から導き出す税理士懲戒処分の考え方と予防策」(税務経理協会)において、否定的な見解を述べていらっしゃいます。

 その根拠について詳しく述べることはできませんが、再登録後に当該税理士の再調査を受ける可能性が高いことや、税理士会が当該税理士の再登録を承認する可能性が低いことなどを挙げられています。

 その上で、税理士業務を継続したい場合には素直に懲戒処分を受ける以外に道はない旨を、明言されています。懲戒処分を受けた場合には、茨の道は覚悟しなければならないものの、先述の通り、税理士業務を再開する道は閉ざされてはいないからです。

 冒頭で紹介しましたニュース記事によれば、懲戒処分が下される前に自主的に抹消したケースは過去約10年間で50人超有ったとのことです。一方で、過去10年間で懲戒処分を受けたケースは、国税庁の公表によれば418件存在しており、懲戒処分に応じるケースのほうが多いことが分かります。

 また、50件超のうちいわゆる裏ワザを使ったと見られるケースが実際にどの位あったのかは、ニュース記事等からは不明です。私見になりますが、廃業した約50人の元税理士の全員がいわゆる裏ワザを使って、その後ちゃっかり税理士に戻っているとは考えにくいです。50人のなかには、氏名公表という不名誉を避けるために、そのまま自主的に廃業して税理士業務には戻らないケースも、それなりに有るのではと推察されます。

制度の早急な見直しは必要か?

 税理士が脱税行為を主導した場合のような明らかに悪質なケースについては、懲戒処分前に自主廃業した場合であっても、懲戒処分を下して氏名を公表できるようにするなどの対策を講じることは、検討の余地が有るでしょう。

 一方で、懲戒処分が検討されているすべてのケースにおいて、懲戒処分や名前の公表を例外なく行うなど制度を過度に厳格化することは、ともすれば税務代理の際に税理士の萎縮を生みかねない危険性を秘めています。

 なぜならば税金の徴収権限を持っているのも、税理士に対する懲戒処分の権限を実質的に持っているのも、どちらも同じ国税当局だからです。

 国税庁のホームページの懲戒処分の公表事例においても、売上除外、架空経費の計上、従業員給与の外注費への偽装など脱税の典型的な手法以外に、申告期限の見過ごし、費用の見積り計上の否認、利益の認識時期の違い(期ズレ)など、果たして懲戒処分を受けなければならないほど悪質なのか、公表内容だけでは判断が付きかねるケースも散見されます。

 うがった見方をすれば、制度が過度に厳格化された暁には、悪質とまではいかず、単なる見解の相違にすぎないような場合でも、税理士に対して懲戒処分をちらつかせることで国税当局側の言い分を税理士に無理やり呑ませることが可能となるかもしれません。このことは、ひいては納税者にとっても不利に働きかねません

 制度の見直しにあたっては、税理士の過度な萎縮を生まず、そして納税者に不利にならないように最大限配慮した上での慎重な議論が望まれます

公認会計士・税理士

法人・個人の税金をはじめ、相続、会計、法律、経営などジャンルを問わず相談できるオールラウンドプレイヤー会計士を自負。「人の役に立つ仕事がしたい」「毎日ドキドキワクワクしたい」という思いで、日々仕事にまい進中。「なぜ犬神家の相続税は2割増しなのか」「ひとめでわかる株・FX・不動産の税金」(いずれも東洋経済新報社刊)など著書多数。1990年東京大学経済学部卒業。1997年に7年間勤めた監査法人を辞めて独立開業、現在は銀座で小澤公認会計士事務所を開設している。国土交通省「合理的なCRE(企業不動産)戦略の推進に関する研究会」ガイドライン作成ワーキング・グループ委員を歴任。

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