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増え続ける妻から夫へのDV!その背景と対処法を弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:イメージマート)

1 妻からのDVに苦しむ夫たち

私は兵庫県西宮市で家事事件を中心に扱う法律事務所を経営している弁護士ですが、最近、立て続けに妻のDVに苦しむ男性の法律相談を受けました。弁護士の守秘義務の関係上、内容は修正していますが、概ね下記のような相談でした。

Aさん(仮名 30代男性)

会社で重要なプレゼンがある日の朝、スーツが全て、ハサミで切り刻まれた状態でゴミ袋に入れてありました。原因は、キャバクラでもらったキャバ嬢の名刺がスーツのポケットから見つかったことで、妻が激昂したためです。浮気などしていないといくら言っても、妻はキャバクラに行くこと自体が浮気だと言って許してくれません。それ以降、まるで奴隷のような扱いを受けています。以前の関係に戻りたいと思っていますが、どうすればいいのかわかりません。何とかならないでしょうか。

Bさん(仮名 40代男性)

帰宅してドアを開けた途端、待ちかまえていた妻からグーで殴られました。あっけに取られていると、つづけさまに何度も平手打ちを浴びました。妻からの攻撃をまともに受けた私は、びっくりして言葉も出ず、尻餅をついたのを覚えています。原因は記憶にないくらい些細なことでした。ただ、それ以降、何度も殴られることがあり、家に帰るのが恐怖でしかなくなりました。早く離婚を成立させたいと思っています。

現実問題として、上記のような妻によるDVに苦しむ夫からの相談が増えてきたように思います。

今回は、妻からのDVについて解説したいと思います。

2 男性の離婚原因の変遷

写真:イメージマート

最高裁判所で開示されている離婚に関する原因別データがあります。

このデータの令和2年の離婚原因と、10年前の平成21年の離婚原因の数値を比較してみたところ、男性からの離婚申立の件数自体は10年間で81.4%と大きく減少していたにもかかわらず、「精神的に虐待する」=モラハラは121.9%、「暴力を振るう」=DVは101.4%となっており、離婚原因における妻から夫へのモラハラとDVは大きく増加していたことがわかりました。(※1)

一方で、女性の申立て件数をみると、「精神的に虐待する」=モラハラは86.8%と減少し、「暴力を振るう」=DVは58.9%といずれも減少しています。

つまり、離婚原因におけるモラハラ、DVの増加は男性だけの顕著な傾向だったのです。

また、警視庁が発表しているデータ「配偶者からの暴力事案の概況」においても、男性が受けるDV被害だけが毎年増え続けていることがわかります。平成28年の男性の相談件数は953件でしたが、毎年増加し続け、令和2年には1,800件となり、ほぼ2倍となっています。(※2)

3 男性のDV相談が増加する背景とは?

写真:イメージマート

そもそも、夫がDV被害者の場合には、妻のⅮⅤ被害に比べて、被害が明らかになりにくかったという潜在的な問題があります。

もちろん、妻が被害を受けている場合も、他人に相談できず一人で抱え込むケースはあるのですが、近年は女性に対しては公的な支援が浸透してきたこともあり、専門機関や周囲の人たちに相談する女性が増えてきました。 

これに対して、夫側は、女性である妻から暴力を受けているという事態を「恥」として捉える傾向があり、周囲に助けを求めにくかったという背景があったのです。

ただ、近年は「DV妻」「モラハラ」「パワハラ」「鬼嫁」などのワードがクローズアップされたり、インターネットが普及するに伴いネットで対処法を調べたり、同じような境遇の男性のブログを読んだりするなど、男性もDV被害を受けていることを相談しやすくなりました。

男性のDV相談が増加する背景には、上記のような背景があったと思われます。

4 妻からDVを受けたときの対処法

写真:イメージマート

では妻からのDVの被害に遭っている場合、夫は一体どのような点に留意すべきでしょうか?

DV被害を避けるために別居を検討するにあたり、妻が専業主婦であったり、夫の方が妻よりも収入が多い場合には、原則として婚姻費用(生活費のことです)、もしくは少なくとも子供の監護費用に相当する金額は請求される可能性があることに留意しておきましょう。

写真:アフロ

次に、妻の同意を得ずに強引に別居した場合には、「悪意の遺棄」(法定離婚事由の一つで、正当な理由なく夫婦が同居義務や協力扶助義務を果たさないことを言います)に該当するとして、慰謝料請求の対象となってしまう可能性があります。

写真:アフロ

ただし、妻のDVを立証する証拠を固めておけば、「悪意の遺棄」の認定を避け得ますので、事前に準備をしてから別居を検討すべきです。

もう一つ、これが最も重要なのですが、絶対に感情的になって手を出してやり返したりしないことです。

写真:アフロ

その場合、双方がDVを主張することになり、男女に身体的な違いがあることなどから女性に有利な判断をされがちです。元々は妻からのDVが原因であったとしても、夫側の主張が認められるとは限らないのです。

5 DVを理由に離婚を考えた際にすべきこと

離婚を考えるにあたり、事前に証拠を集めることはとても重要です。

離婚調停や離婚裁判になった場合は、DVを立証する証拠を持っていなければDVが認定されず、離婚請求も慰謝料請求も裁判所に認めてもらえないこともあり得ます。

証拠としては、以下のものをイメージして収集してください。

1.写真や動画

写真:アフロ

DVを受けたことがわかるような写真や動画は、十分な証拠になります。

2.音声データ

写真:イメージマート

相手が暴言を吐いたり、暴れたりした時の音声データも録音しておきましょう。

3.日記

写真:イメージマート

日記には、相手からの暴力や暴言について具体的に記録しておいてください。

4.医師の診断書

写真:アフロ

医師の診断書は信用性が高いため、強力なDVの証拠となり得ます。

相手の暴力によって怪我をした場合には、軽傷であっても病院に行って診断書を作成してもらい、曖昧にせずに正確な事情を説明し、できれば「妻の暴力による受傷」といった文言を入れてもらうとよいでしょう。

6 おわりに

妻がDVを行う原因としては、夫への不満、子育てのストレス、夫の親族との諍い、更年期障害など、様々な要因が考えられます。

写真:アフロ

離婚ではなく、夫婦関係の修復を望んでいるのであれば、妻にカウンセリングを受けさせるという方法も考えてみる必要があります。

専門家のカウンセリングにより、妻のDVが改善された例もありますので、離婚を進める前の最後の望みとして是非ご検討ください。

もし離婚を考える場合には、弁護士などの専門家に相談することをお薦めします。

どのような証拠を揃えるべきかなど、的確なアドバイスを得て準備することが特に大切だからです。

※(参考)

※1出典:「婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所」(裁判所司法統計)

https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/253/012253.pdf

※2出典:配偶者からの暴力事案の概況(警視庁)

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/jokyo_tokei/kakushu/dv.html#cms1jokyo

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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