<ヴィッセル神戸>イニエスタは人生でもっとも長い「勝てない時間」に、ポジティブに向き合う。
アンドレス・イニエスタに話を聞く機会に恵まれたら、ぜひ、聞いてみたいことがあった。それは今、彼がプロサッカー選手としてのキャリアで初めて味わっている状況について、だ。
知っての通り、イニエスタが02年10月にプロサッカー選手としてデビューを飾り、以来、2017-18シーズンまで在籍したFCバルセロナは、世界に名を馳せる強豪クラブで、あらゆる試合で勝ち続けてきた『常勝軍団』だ。おそらく、イニエスタの脳裏にも負けた記憶より、勝った喜びの方が強く刻まれていることだろう。
だが、今夏に決断した初めての『移籍』、つまり、ヴィッセル神戸での新たなチャレンジにおいて、彼は今、『J1リーグ戦6戦勝ちなし』という状況を初めて経験している。しかも、その中には5連敗という屈辱的な結果もある。
もっとも、彼自身はケガもあって、そのすべてに出場しているわけではなく、6試合中、先発出場を果たした24節の横浜Fマリノス戦からの3試合と、試合途中からピッチに立った直近の29節、Vファーレン長崎戦の4試合しか戦っていない。
だが7月18日の来日から約3ヶ月。チームにもすっかり溶け込み、神戸での生活を含めてヴィッセル神戸での新たなチャレンジにポジティブに向き合っているイニエスタのこと。すべての結果を真摯に受け止めているのは間違いないはずだ。
その疑問を投げかける機会に恵まれたのは、10月17日に行われた合同インタビューでのこと。29社80名の報道陣を前に、サッカーのみならずプライベートや神戸での生活に関する質問に対して丁寧に言葉を返す彼に、質問をぶつけてみる。
「プロとしてのキャリアにおいて、これほど負けが続いている状況を経験されたことはないと思います。率直に、その状況をご自身はどう受け入れ、乗り越えようとしているのでしょうか」
投げ返された言葉には、彼の人間性、人生観が窺える言葉があった。
「過去と比較をするのはあまり好きではないし、特に、こうした大きな変化があった今は、単純に比較することはできないと思います。ただ僕は、ヴィッセル神戸に来ると決断した際、これが楽な挑戦になるとは思っていませんでした。そう考えると…個人的には『負けること』は決して好きではないですが、こうした状況に置かれた今は、より自分の責任について考えていますし、モチベーションという意味でもチームに貢献しなければいけないという気持ちがより強く芽生えています。チームとしては確かに今、勝っていない流れがありますが、この状況を打開するには、よりよいプレーをすることを目指すしかないと思っています。サッカーにおいても、人生においても、ずっと楽なことは続きません。必ず浮き沈みはあります。それを受け入れた上で、いかに現状を打開していくのかを考えることが大事だと思っています」
チームが置かれている状況を受け、ヴィッセル神戸は10月4日、新監督に就任したファン・マヌエル・リージョ監督を含め、新たなスタッフを迎え、新体制で再スタートを切った。その中で戦った直近のVファーレン長崎戦は引き分けに終わったが、この環境の変化についてイニエスタは「監督を含め、新たなスタッフが加わったのは、ヴィッセルを組織としても、選手個々としてもレベルをあげるためであったはず。ここまでの練習でやってきたことを試合でも実現すること目指してこれからも日々のトレーニングを続けていく」と前を向いている。
現状をしっかりと受け入れた上で、ポジティブに。彼の言葉を借りれば「いい熱を持った、素晴らしいサポーターとともに」、イニエスタは残り5試合の戦いに挑もうとしている。