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千賀滉大との5年総額7500万ドルの契約内容に垣間見られるメッツのリスクマネージメント

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今回の契約内容は千賀投手、メッツ双方にメリットがあるものだった(写真:ロイター/アフロ)

【千賀投手の獲得に積極的だったメッツと契約合意】

 現地時間の12月10日に報じられて以来、未だ正式発表はなされていないが、オフに入ってからずっと千賀滉大投手の獲得に積極的だったとされるメッツが契約合意に成功した。

 すでに各所で報じられているように、契約内容は5年総額7500万ドルで、トレード拒否権と2025年シーズン終了後に契約解除できるオプトアウト権が付帯されているようだ。

 MLBの移籍情報等を専門に扱う「MLB TRADE RUMORS」によれば、千賀投手は今オフのFA市場で全体の11位、先発投手としても4位の評価を受けるなど、注目選手の1人になっていた。

【メッツからすれば平均年俸額1500万ドルは決して高額ではない】

 ちなみに今回メッツと合意した契約内容は、同サイトの予想とまったく同じ年数、金額だったことを考えると、順当な契約内容だったように思う。

 ただ本欄で報告しているように、有料のスポーツ専門サイトの「The Athletic」では、メッツは千賀投手に対しジャスティン・バーランダー投手、マックス・シャーザー投手に次ぐ先発3番手として期待していると報じており、その期待度を考えるならば、平均年俸額1500万ドルは決して高額とはいえない。

 米国の主要プロリーグのチーム年俸総額や各選手の年俸などを集計している「spotrac」が掲載している2023年の先発投手の年俸ランキングによれば、1500万ドルはルイス・セベリノ投手、ジョン・グレイ投手と並び、29位タイに止まっている。

 ちなみにこのランキングには、現地時間の12月12日に合意が報じられたクリス・バシット投手(3年総額6200万ドル)や、今も契約交渉を続けているカルロス・ロドン投手らが含まれていないので、千賀投手のランキングはさらに下がることになる。

 今オフは過去に類を見ない勢いで選手補強を続けていたメッツは、今やMLB随一の金満球団になろうとしており、そのチームの先発3番手として期待されている投手なら年俸2000万ドル台でもおかしくないところだ。

 実はこの辺りに、千賀投手に対するメッツのリスクマネージメントを垣間見ることができるのだ。

【千賀投手の制球力を不安視するする米メディア】

 改めて前述の「The Athletic」の記事に注目し、千賀投手の評価を確認してみたい。

 「時折3桁に到達する90マイル後半の素晴らしい速球と、非常にいいフォークボールを操り、さらに有効な2種類のブレーキングボール(スライダーとカーブ)を投げる。

 複数のスカウティングレポートによれば、MLBで圧倒的な2ピッチ(速球とフォーク)のリリーフ投手になれると指摘している。もし制球問題が改善されないようならば、これが代替プランになるだろう。だが多くのチームが長期契約オファーに値する先発投手として認識している」

 また同サイトの別の記事でも以下のように論じている。

 「彼はリーグの全投手の平均を上回る割合(8.6%)で四球を与えている。これはスカウトが関心を寄せるところで、素晴らしい球種を擁していても彼の制球力ではMLBで先発として機能するのは十分ではない可能性がある」

 それだけMLBのスカウトの間で、千賀投手の制球力が関心事になっていることを示している。こうした考え方は、現在の菊池雄星投手を見れば仕方がないところだろう。

【メッツ、千賀投手双方に有益だった契約内容】

 つまりメッツとしては、リリーフに回る可能性を捨てきれない千賀投手に対し年俸2000万ドルを超えるような高額オファーを提示することに多少のリスクがあったと考えられる。

 一方でリリーフ投手から見れば、年俸1500万ドルはMLBでもトップクラス(「spotrac」によれば現時点で単独3位にランク)の扱いとなり、しかも千賀投手がどんな起用法になろうとしても、年俸1500万ドルで5年間の契約を保証しているのだから、メッツ側の十分な配慮が窺える。

 そして千賀投手側からすれば、トレード拒否権があることで周囲の雑踏(時には辛辣なニューヨークのメディアを含め)を気にせず野球に集中できる上、シーズン最初の3年間でMLBに順応し、メッツの期待通りに先発3番手として機能するようになれれば、2025年オフにオプトアウト権を行使し、FAとして年俸3000万ドルを超えるような大型契約を獲得することができるのだ。

 言い方を変えるならば、シーズン3年間をMLBへの適応期間に費やせるというのは、千賀投手にとってこれ以上のメリットはないだろう。

 まさにメッツ、千賀投手の双方の思いが合致した理想的な契約内容だったと考えるべきだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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