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大学がオンリーワンでは生き残れない理由~その1・オンリーワンと言いつつ286学部もひしめく

石渡嶺司大学ジャーナリスト

私は大学コンサルタントではなく、ついでに言えば就活コンサルタントでも、就活カウンセラーでもなく、一介のライターにすぎません。

まあ、大学と就職関連の取材が長いということもあり、講演等のお仕事はいただくことがあります(もちろん歓迎)。

コンサルティング絡みについては、専業のコンサルタントではなく(専業のコンサルタントに勝てる気が全くしませんし争う気もなし)、雑談もしくは講演程度でよろしければ、とお引き受けすることがあります。

この手の仕事、大学関連では中堅ないし中堅以下の私大が多いです。

そして、入試広報だけでなく大学経営幹部も含めた機会だと、大体が学部改編・新設の話となります。

パターンは決まっていて、早慶など有名大の真似(国際教養学部がいい例です)か、

それでなければ、

「オンリーワンの学部を作ります(作ろうと思います)」

もう、大体がこのどちらか。

どうですか、と聞かれて、

「いやあ、理事長、最高っすね~」

とか、適当にヨイショできれば、いいのですが、生来からの不器用さが災いしてしまいます。

「いやあ、理事長、最高っすね。受験生を減らす策としては。ただでさえ、定員割れなのに、これ以上減らしてどうします?」

そういや、以前、某大学の教職員向け講演で、伝統学部を改組した新設学部のダメっぷりに、学長など居並ぶ幹部を前に、

「元に戻しませんか?撤退は恥ではないですし」

と話したことも。

当然ながら、以降、お呼びがかかることなどありません。

うーん、口は災いの元。

このコラムも、ただでさえ狭い人間関係をさらに狭くするだろうなあ、と思いつつ、キーボードを叩いています。

あえて、言いますが、大学関係者に告げたいです。

「オンリーワン、禁止」

と。

理由1:オンリーワンが多すぎる

2014年度学校基本調査によると、1大学にしかない学部名、いわゆるオンリーワン学部は、286学部存在します。

では、どんな学部かあるか、まとめてどうぞ。

国際言語文化学部、比較文化学部、国際言語学部、国際英語学部、心身科学部、国際・英語学部、言語コミュニケーション学部、異文化コミュニケーション学部、都市教養学部、文化言語学部、現代心理学部、人文・文化学群、こども心理学部、文化構想学部、臨床心理学部、子ども発達学部、グローバル教養学部、国際人文学部、表象文化学部、歴史学部、子ども未来学部、心理こども学部、英語キャリア学部、言語文化学部、グローバル地域文化学部、英語国際学部、アジア太平洋学部、アジア太平洋マネジメント学部、政策情報学部、現代福祉学部、現代法学部、経営情報科学部、21世紀アジア学部、商経学部、流通情報学部、流通学部、法政策学部、経済科学部、経営法学部、コミュニティ福祉学部、サービス経営学部、現代コミュニケーション学部、サービス産業学部、環境創造学部、地域創造学部、公益学部、ネットワーク情報学部、現代経営学部、ビジネス情報学部、知的財産学部、福祉経営学部、福祉情報学部、福祉学部、現代経営情報学部、福祉総合学部、会計ファイナンス学部、産業情報学部、福祉環境学部、国際政策学部、社会イノベーション学部、ビジネスマネジメント学群、シティライフ学部、社会・国際学群、情報マネジメント学部、環境ツーリズム学部、マーケティング学部、ビジネスデザイン学部、生涯福祉学部、人間健康福祉学部、国際環境経営学部、総合マネジメント学部、公共政策学部、観光文化学部、観光ビジネス学部、マネジメント創造学部、金融経済学部、都市生活学部、環境社会学部、現代日本社会学部、文化財学部、都市経営学部、ビジネス創造学部、情報社会学部、バイオサイエンス学部、バイオ・化学部、フロンティアサイエンス学部、生物学部、生産工学部、産業科学技術学部、工学資源学部、光科学部、システム科学技術学部、技能工芸学部、国際環境工学部、情報環境学部、コンピュータサイエンス学部、医療工学部、産業理工学部、医療福祉工学部、システムデザイン学部、情報通信工学部、産業技術学部、環境都市工学部、化学生命工学部、創造理工学部、知識工学部、未来科学部、産業工学部、情報通信学部、創造工学部、応用バイオ科学部、創生工学部、空間創造学部、総合生命科学部、基盤工学部、国際資源学部、園芸学部、畜産学部、酪農学部、海洋学部、繊維学部、生物生産学部、生物産業学部、農学生命科学部、海洋科学部、生物資源環境学部、食産業学部、海洋生物資源学部、バイオ環境学部、海洋生命科学部、動物看護学部、農食環境学群、医学専門学群、保健衛生学部、医療衛生学部、産業保健学部、看護医療学部、健康メディカル学部、人間看護学部、医療看護学部、診療放射線学部、医療福祉マネジメント学部、地域医療学部、医薬保健学域、健康医療科学部、地域保健学域、リハビリテーション科学部、医療情報学部、口腔歯学部、海洋工学部、海事科学部、食品栄養科学部、服装学部、健康管理学部、管理栄養学部、服飾学部、人間生活科学部、人間栄養学部、生活創造学部、現代家政学部、食環境科学部、医療栄養学部、体育専門学群、児童保育学部、子ども科学部、次世代教育学部、臨床教育学部、学校教師学部、現代教育学部、スポーツ健康政策学部、人間開発学部、子ども育成学部、子ども生活学部、国際こども教育学部、健康・スポーツ科学部、児童スポーツ教育学部、芸術専門学群、造形表現学部、メディア・コンテンツ学部、先端芸術学部、映画学部、ポピュラーカルチャー学部、アニメーション文化学部、文教育学部、生命理工学部、不動産学部、総合管理学部、政策科学部、国際食料情報学部、地域環境科学部、地球環境科学部、環境システム学部、環境共生学部、看護福祉心理学部、メディア造形学部、地域創生学群、都市情報学部、総合理工学部、地域科学部、文化教育学部、現代中国学部、事業構想学部、国際文化交流学部、環境人間学部、システム情報(科)学部、教育地域科学部、教育福祉科学部、芸術情報学部、経営文化学部、環境情報ビジネス学部、生涯学習システム学部、コミュニティ振興学部、地域学部、美術文化学部、数理情報学部、生命工学部、キャリアデザイン学部、バイオニクス学部、情報フロンティア学部、未来創造学部、現代国際学部、文化表現学部、危機管理学部、福祉健康学部、都市環境学部、デジタルコミュニケーション学部、感性デザイン学部、ホスピタリティ・ツーリズム学部、現代ライフ学部、国際総合科学部、地域教育文化学部、現代教養学部、グローバル・メディア・スタディーズ学部、未来デザイン学部、グローバルエンジニアリング学部、情報ビジネス学部、メディアコミュニケーション学部、現代政策学部、マンガ学部、英語情報マネジメント学部、生命健康科学部、グローバルスタディーズ学部、基幹理工学部、先進理工学部、映像学部、経営教育学部、生活福祉文化学部、政策創造学部、メディア・芸術学部、人間総合学部、保健医療経営学部、総合光科学部、応用心理学部、総合文化政策学部、国際日本学部、国際福祉開発学部、生命医科学部、知能情報学部、情報デザイン学部、生涯スポーツ学部、サービス創造学部、環境園芸学部、スポーツ人間学部、医療経営管理学部、人間情報学部、メディアプロデュース学部、福祉貢献学部、交流文化学部、キャリア形成学部、社会安全学部、国際文理学部、医療経営学部、総合教育部、現代システム科学域、モチベーション行動科学部、コミュニケーション文化学部、生物地球学部、生命学部、地域共創学部、総合数理学部、建築・環境学部、観光メディア文化学部、地域創成農学部、総合グローバル学部、国際キャリア学部、多文化社会学部

ああ、長かった。

どんな学部か、ぱっと見てわかる学部名もありますが、何をやっているのか、さっぱり理解できない学部名もあります。

これだけあって、オンリーワンも何もあったものではありません。

理由2:オンリーワンが自称に過ぎない

オンリーワン学部が問題であるのは、その名称だけではありません。

似たような内容の学部であれば、オンリーワンにこだわる必然性はそもそもありません。

文理融合と言いつつ、理系教員は1人だけ。

福祉を冠しながら、社会福祉士養成は、なし。

それで、オンリーワン学部と言われても、それは単なる自称にすぎません。

理由3:オンリーワン学部は受験生ニーズに合っているのか?

学部改編ないし新設でオンリーワン学部を設置するのはどうしてでしょうか?

教育理念などのご託宣はさておき、受験生を集めるためです。

受験生が集まらなければどうしようもありません。

当然ですよね?

ところが、オンリーワン学部は、相当数が意味不明です。

たとえば、帯広畜産大畜産学部、こちらであれば、ほとんどの受験生が、

「畜産のことを学ぶのだな」

と理解できます。

帯広畜産大に限らず、ぱっと見て、何をやっている学部か、イメージできれば、オンリーワン学部の意味はまだあります。

しかし、そうでないオンリーワン学部はそのほとんどが受験生ニーズから外れています。

受験生を集める気で新設ないし学部改編をしたはずが、逆効果になってしまいます。

理由4:社会ニーズに合っていない

オンリーワン学部の多く(特に中堅以下・地方私大)がつらい、というか、痛々しいのは受験生ニーズから外れているだけではありません。

社会ニーズから大きく外れていることです。

社会ニーズとは、その社会が求める人材を育成しているかどうかです。

当然ながら、多くの大学は社会ニーズに合った人材を育成している、と答えるでしょう。

それでは、お伺いします。

国際を冠する学部は、どれだけ国際的な人材を育成して、関連企業に就職できていますか?

環境を冠する学部は、どれだけ環境を考える人材を育成して、関連企業に就職できていますか?

情報、ビジネス、サービス、文化…。なんでもいいですが、学部の理念が目指す方向通りに就職していますか?

そうです、といい張れる大学が帯広畜産大や立命館大映像学部などいくつあるのでしょうか。

いい張れるだけの実績は残せず、それで受験生も敬遠するようになる、という悪循環のワナ。

あーあ。

理由5:補習教育をアピールしない

中堅以下・地方私大の場合、こう言っては何ですが、学力不足のまま入学する学生が結構います。

そうした学生に対して、しっかりと教育をして、決して見捨てない。

これも、私は大学教育としてありだと思います。

そして、現場レベルでは地道な教育に従事する大学教職員がいることを私は知っています。

ところが。

そうした大学でも、地道に教育していることをきちんとアピールできる大学は、ほとんどありません。

まあ、地方私大の伝統校だとちゃんと受験生が来るのでまだいいとしても、問題は、オンリーワン学部で、しかも、絶賛定員割れ中の大学。

地道どころか、ほめて育てる公文式を導入している大学もありますし、公文式の小学生レベルとほぼ変わらないプリントを学生にやらせている大学もあります。

付言しますと、私はそれも大学のあり方の一つと思います。

大学1年では公文式の小学生レベルしか解けなかった、でも、大学4年間(あるいは1年留年で5年間)で、一般企業・地方公務員が求めるレベルに到達していれば、ちゃんと就職もできるでしょう。そして、そうした大学は地域社会からも支持され、定員割れ状態から脱却できるはずです。

一方、高校は高校で、成績が良くない生徒を専門学校に進学させても教育期間の短さから就職できそうにない、だったら大学に、と考えます。

となると、

「成績が良くない学生も徹底して面倒を見ます。何なら、公文式レベルからやり直しさせます」

とアピールすればいいはず。

ところが、どの大学も、補習教育のことを徹底して隠そうとします。

その情報隠ぺい体質は、アジア某国の電力会社並みですが、当事者たる大学関係者はそんなことお構いなしです。

それでもオンリーワンがいい?

オンリーワン。

響きは確かにいいですね。

実際に、SMAPも歌にしたわけですし。

しかし、オンリーワンは、本来は特定の分野のナンバーワンです。

帯広畜産大、立命館大映像学部などのように、特定の分野で勝てる自信がある(そして実際に勝っている)といい張れるなら、オンリーワン学部もいいでしょう。

しかし、多くの大学、特に中堅以下・地方私大ではそうではありません。

国際(グローバル)を冠した学部でオンリーワンと思い込むのはいいですが、近隣に類似学部の大学は何校ありますか?

サービスを冠した学部は半径100キロ圏内に何校ありますか?

5校でも10校でもあってもいいですが、そうしたライバルに打ち勝つだけの教授陣と施設・設備と奨学金と補習教育体制は揃っていますか?

オンリーワンを目指し、オンリーワン学部を作ろうとするのであれば、学部名を変えようとするだけではダメです。

様々なことを検討し、さらに、他校が後追いで真似をしても、そう簡単に追いつかれないだけの強みを作らなくてはなりません。

その辺をすっ飛ばしてしまう大学関係者のなんと多いことでしょうか。

以前、某広告会社の方が、大学ブランディングについて、理解しないまま、どうにかしようとする大学関係者のことをこう評していました。

「インフルエンザ並みの重症だから、それに合った治療と投薬を勧めているのに、相手は『風邪薬が欲しい』と言っているも同然。こちらも商売だから、風邪薬を処方するが、それでインフルエンザがよくなるわけがない」

結果、なーんにもしない方がまだましだった、ということになりかねません。

さて、定員割れ大学の皆さんにお伺いします。

それでも、オンリーワンという名の風邪薬が欲しいですか?

え?

欲しい?

……そうですか、では風邪薬をどうぞ。

ただ、私は持ち合わせてはいないので、生憎ですが、他をおあたりください。

早く治るといいですね(もちろん、イヤミ)。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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