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緊急事態宣言解除 これからも気をつけるべきこと

忽那賢志感染症専門医
(写真:アフロ)

全国で緊急事態宣言が解除に

日本における日別の新型コロナ患者報告数(都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(ジャッグジャパン株式会社提供)より)
日本における日別の新型コロナ患者報告数(都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(ジャッグジャパン株式会社提供)より)

5月25日、全国で緊急事態宣言が解除されました。

日本にとっての新型コロナ第一波が去ろうとしています。

決して少なくない犠牲者を出してしまいましたが、欧米に比べると感染者、死亡者ともにはるかに少ないままで乗り切ることができそうな見通しです。

旅行ができない、外食ができない、などいろいろと生活に制限がありストレスフルな生活だったと思いますが、新型コロナの流行を抑えることができたのは間違いなく日本に住む皆さんのこの2ヶ月弱の努力の賜物です。

いやー本当に素晴らしいです。

私も休日はひたすら家にこもり、ヤフーの記事を書くスピードとマリオカートの腕だけが上がっていく日々でしたが、これからはもう少し外に出る時間が増えそうです。

昨晩は私も浮かれてしまい、久しぶりに妻と2人でお酒を飲みました(まあ私は毎晩飲んでるんですけど)。

しかし、これでコロナ禍が終わったわけではありません!と、ここで小言を言う私をお許しください。

今、流行が収まりかけているのは、私たちに集団免疫ができたからではなく(2020年4月に採取された東京都に住む500人の献血検体検体の陽性率は0.6%とのことです)、緊急事態宣言という日本にとっての最後の一手によって人と人との接触がなくなり感染の連鎖を断ち切ることができたためです。

一方で、世界ではまだまだ新型コロナの症例の増加は減少に転じていません。

海外からの持ち込み例の増加や、大規模なクラスターの発生が起こってしまえば第2波の流行が起こりえるでしょう。

世界での新型コロナ患者数の推移(WHO. situation report 124より)
世界での新型コロナ患者数の推移(WHO. situation report 124より)

残念ながら私たちはまだコロナ以前の生活には戻れません。

ワクチンが開発されるなど根本的な解決策が示されるまでは、多少不便ではあっても社会生活の維持と感染対策を両立させるために「コロナを常に意識した生活」を続けていく必要があります。

ではどんなところに気をつけて生活をすればいいのか、ということで政府は「新しい生活様式」として、今後の生活についての実践例を示しています。

新しい生活様式(厚生労働省HPより)
新しい生活様式(厚生労働省HPより)

「しっかりと手を洗う」「咳エチケットの徹底」についてはこれまでも政府が呼びかけてきた感染対策であり、コロナ禍を通過した私たちにとってはあまり無理なく行える範囲のものではないでしょうか。

しかし「新しい生活様式」って名前・・・どうなんでしょうかね。言いたいことは分かるんですけどね・・・。なんかしっくりこないっていうか・・・なんだか哲学的ですよね。

これに対抗してなのか、東京都は「新しい日常」という言葉を使っています。こちらはアーティストっぽい感じがします。なんか前野健太の新曲っぽい感じがします(イメージです)。

新しい日常(東京都ロードマップより)
新しい日常(東京都ロードマップより)

「新しい生活様式」vs「新しい日常」。

ここでも国政と都政の対立構造が・・・っていうほど大げさなものでもないんですが。

みなさん、どっちがいいですか。まあどっちでもいいですよね。言い方よりも大事なのは概念です。

一人ひとりが「なぜ私たちが『新しい日常様式』(日本人的な双方への配慮の結果、両方採用)を実践しなければならないのか」をしっかりと理解しておくことが重要なのです。

というわけで、皆さんの「新しいアレ」の理解度を確認するための問題を出題してみたいと思います。

韓国 新天地教会の礼拝の様子(https://graphics.reuters.com/CHINA-HEALTH-SOUTHKOREA-CLUSTERS/0100B5G33SB/index.html)
韓国 新天地教会の礼拝の様子(https://graphics.reuters.com/CHINA-HEALTH-SOUTHKOREA-CLUSTERS/0100B5G33SB/index.html)

さて、これは韓国のとある教会での礼拝の様子です。

いわゆるコロナ以前の世界ではこのような風景にはそれほど違和感を感じなかったかもしれません。

しかし!コロナの国内流行を経験した我々からするとこの礼拝の風景、コロナ対策的に何か問題があるのがお分かりになるのではないでしょうか(※筆者は一例を挙げているだけで宗教の信仰に異議を唱えているわけではありません)。

ちょっと考えてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは正解です!

韓国 新天地教会(引用元は先程と同じロイター通信 コメントは筆者)
韓国 新天地教会(引用元は先程と同じロイター通信 コメントは筆者)

1. 換気なし

2. 密集しすぎ

3. 全員マスクを着けていない

4. 長時間 礼拝で大声を出したり歌ったり

いくつ正解されたでしょうか。要するに三密ですよね。

それでは詳しい解説に移りたいと思います。

まず窓が締め切られており、(たぶんですが)十分な換気がされていません。

換気は超大事です。

これからは部屋に入った瞬間無意識に窓が開いて換気されているかを確認するのが令和の新マナーです。

1人の新型コロナ患者が生み出した感染患者(厚生労働省 クラスター対策班)
1人の新型コロナ患者が生み出した感染患者(厚生労働省 クラスター対策班)

こちらはクラスター対策班が示した、換気の違いによる新型コロナの感染性の違いに関する図です。

新型コロナ患者の8割の人は他者に感染させていませんが、換気の悪い環境にいた2割の人がたくさんの人に感染を広げています。

新型コロナウイルスは換気の悪い場所ではエアロゾルにより飛沫よりも遠い距離まで届き広範囲に感染が広がることがあるためです。

2つ目のポイントは密集です。

これはどう見ても人が集まりすぎています。

いわゆるマスギャザリング(mass gathering)という状態です。

マスギャザリングには感染症がつきものです。

韓国 新天地教会のクラスター(https://graphics.reuters.com/CHINA-HEALTH-SOUTHKOREA-CLUSTERS/0100B5G33SB/index.html)
韓国 新天地教会のクラスター(https://graphics.reuters.com/CHINA-HEALTH-SOUTHKOREA-CLUSTERS/0100B5G33SB/index.html)

結果的に、この韓国の新天地教会では4363人が新型コロナに感染し、クラスター連鎖によって最終的に5016人の感染者が出ました。

このような大規模なクラスターが発生すれば、一気に国内で流行が広がる可能性があります。

第一波の前の対策と同様に、やはりこのクラスターをいかに発生させないかが重要です。

集団の規模についても、多ければ多いほど感染率が高くなるという数理モデルでの研究があります。

つまり、ある集団の中の感染者の割合が一定と仮定した場合、100人の集団よりも1000人の集団の方が感染がより広がりやすいということです。

集団の大きさごとの感染の広がりやすさ(arXiv:2003.05924より作成)
集団の大きさごとの感染の広がりやすさ(arXiv:2003.05924より作成)

例えばですが、10人に1人が感染している集団がライブハウスに100人集まったらそのうち20人が感染するけども、1000人集まったら200人よりももっと多くの人に感染するというイメージです。

集会もできる限り少ない人数で集まることが望ましいということです。

会議などもなるべくwebミーティングで、集まる場合はできるだけ少人数で行いましょう。

そして3つ目ですが、礼拝ですので全員マスクを着用せずに大声を出したり歌ったりしていると思われます。

新型コロナは発症する2日前の無症状の状態の時期から感染性があり、症状がない人であっても屋内ではマスク着用が望ましいでしょう。

以下はNew England Journal of Medicineに掲載された動画です。

会話によって発生する飛沫をレーザー光を当てることで可視化したものです。

前半がマスクなしで会話した場合の飛沫の拡散、後半がマスクを着けた状態で会話した場合の飛沫の拡散を見たものです。

「Stay Healthy(ヘルシーでいよう!)」と繰り返し発音していますが、特に「th」の発音の際に飛沫が多く飛んでいることが分かります。全然ヘルシーな感じはしません。

しかしマスクを着用すると、ほとんど飛沫は飛ばなくなりヘルシー感が急激にアップします。

咳で発生する飛沫の量と会話で発生する飛沫の量は大きくは変わらない」とする研究もあり、これらのことから症状がなくても会話などで新型コロナが伝播する可能性が示唆されます。

これまでにクラスター発生の現場となった屋形船やライブハウス、合唱団は「3密空間で大声でしゃべる・歌う」ことが共通しています。

症状がない人であっても「3密空間で会話」をすることでクラスターが発生してきたのは、接触感染も一部は関与しているかもしれませんが、大部分は飛沫感染(エアロゾル感染)した結果と考えられます。

呼気でもこのように飛沫が含まれていることが可視化されており、またマスクの着用によって飛沫の飛散を防ぐことができています。

以上のことから、症状がなくても飛沫を発生することがありますので、屋内では可能な限り3密を避けマスクを着用するようにしましょう(ただし日本小児科医会は窒息や熱中症のリスクが高くなるとして2歳未満の子どものマスク使用は不要でありむしろ危険という声明を発表しています。2歳未満でなくとも小さいお子さんや心肺機能が低下した方のマスク着用には十分注意しましょう)。

緊急事態宣言解除とは言っても、まだいろいろと細かい制限がついていてスッキリとはいかないかもしれませんが、そのような中でもコロナの流行を抑えつつ人間らしい暮らしができるように各自が工夫をしていきましょう。

ゆっくりですが我々は確実に前進しています!!

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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