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【アフリカにおけるCOVID-19の皮膚症状】パンデミック収束後の研究から見えてきたこと

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【COVID-19パンデミックの収束とアフリカにおける皮膚症状研究の意義】

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、ワクチン接種の普及と公衆衛生対策の徹底により、世界的に収束しつつあります。しかし、パンデミックの間に明らかになった様々な知見は、今後の感染症対策に活かしていく必要があります。特にアフリカにおけるCOVID-19の皮膚症状に関する研究は、他の地域とは異なる特徴を示しており、感染症の早期発見や重症化予防、健康格差の是正に役立つ可能性を秘めています。

アフリカでのCOVID-19関連の皮膚症状としては、多臓器炎症性症候群(MIS)、多形紅斑様皮疹、網状皮斑、水疱性・水痘様発疹、蕁麻疹、斑丘疹・麻疹様発疹、凍瘡様皮疹などが報告されました。中でもMISは、アフリカの小児や若年成人に多く見られる傾向にあり、全身の炎症反応が過剰に起こる病態であるため、重篤な合併症を引き起こすこともあります。一方、欧米では凍瘡様皮疹の報告が多かったのですが、アフリカでの報告は少なかったようです。この違いは、皮膚の色素の差や、COVID-19の重症度、合併症の有無など、様々な要因が関係しているのかもしれません。

パンデミック収束後も、これらの知見を活かし、アフリカにおける皮膚疾患の診断や治療、感染症対策の改善に努めることが重要です。また、COVID-19と他の感染症や健康問題との相互作用についても、さらなる研究が求められます。

【COVID-19の皮膚症状と重症度の関係 - パンデミックからの教訓】

COVID-19パンデミックの間、皮膚症状と感染症の重症度には関連があることが明らかになりました。特にアフリカでは、MISを発症した患者さんの多くが重症化し、集中治療室に入院したり、中には亡くなったりした方もいました。

また、COVID-19の初期段階で皮膚症状が出現することもあり、これらは感染拡大を防ぐ上で重要な手がかりになると考えられました。皮膚症状から無症状のCOVID-19患者を早期発見できれば、感染経路の特定や隔離措置に役立つと期待されたのです。

パンデミック収束後も、これらの教訓を活かし、皮膚症状を感染症の早期発見や重症化予防に役立てていくことが大切です。医療従事者は皮膚症状にも注意を払い、適切な検査や治療を行うことで、患者さんの予後改善につなげることができるでしょう。さらに、一般の人々も自分の皮膚の変化に気を配り、異変があれば早めに医療機関を受診するよう心がける必要があります。

【COVID-19とアフリカ特有の皮膚疾患との関連性 - パンデミック後の研究課題】

アフリカには、HIV感染症や結核、栄養失調など、他の地域にはあまり見られない健康問題があります。COVID-19パンデミックの間、これらの疾患を持つ患者さんがCOVID-19に感染した場合の皮膚症状への影響が懸念されました。

例えばHIV感染者では、COVID-19による免疫力の低下に伴い、帯状疱疹やカポジ肉腫といった日和見感染症が皮膚に現れやすくなる可能性が指摘されました。また、栄養失調の子供がCOVID-19に感染した場合、免疫力の低下により重症化しやすく、それに伴い皮膚症状も重篤化する恐れがあると考えられました。

パンデミックが収束した今、これらの仮説を検証し、アフリカ特有の健康問題とCOVID-19の相互作用が皮膚症状に与える影響を明らかにすることが求められます。そのためには、現地の医療従事者や研究者との協力体制を強化し、データの収集や分析を進めていく必要があります。また、得られた知見を活かし、アフリカの人々の健康増進と皮膚疾患の予防・治療に役立てていくことが重要です。

COVID-19パンデミックは収束しつつありますが、その間に得られた知見は、今後の感染症対策や健康格差の是正に活かしていかなければなりません。特にアフリカにおける皮膚症状の特徴と関連要因を理解することは、現地の人々の健康増進に寄与すると考えられます。医療従事者や研究者、そして一般の人々が協力し、パンデミックの教訓を活かしながら、より良い社会の実現に向けて歩みを進めていくことが大切だと思います。

参考文献:

1. Nyasulu PS, Tamuzi JL. Epidemiology, clinical profiles, and prognostic value of COVID-19-related cutaneous manifestations in African populations: a rapid narrative review. International Journal of Dermatology. 2024;63:10–22. https://doi.org/10.1111/ijd.16872

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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