はやぶさ2タッチダウン前に読みたい『宇宙から恐怖がやってくる!』
JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」による、小惑星リュウグウへのタッチダウンとサンプル採取は、2月22日早朝と決定した。探査機を傷つける可能性のある岩の多い領域を避け、直径わずか6メートルの範囲に降りて、一瞬で1グラムに満たない物質を手に入れる。針の穴を通すようなミッションだ。
そうまでして小惑星を探査する目的とはなんだろうか。大きな理由として、太陽系の成り立ちを調べるというものがある。45億年前に太陽系ができた当時の姿を留めている小惑星を調べることで、地球やその他の惑星はどのようにできていったのか、水や有機物といった物質はどこからどのように地球にもたらされたのかがわかってくる。
これだけでもはやぶさ2プロジェクトを応援し見守るに足るものだが、もうひとつ宇宙からもたらされる、ある脅威に対処する手がかりを得る、という目的もある。はやぶさ2が探査する小惑星リュウグウ、はやぶさが訪れた小惑星イトカワ、はやぶさ2の姉妹ミッションともいえるNASAのOSIRIS-RExが探査中の小惑星ベンヌ、これらは皆、NEA(地球近傍小惑星)と呼ばれる、小惑星の中でも地球に接近する軌道を持った天体だ。
NEAの破片は隕石となって地球上に落ちてきたものが多くある。小さな隕石や、大気圏で燃え尽きる流星のレベルで終わらずに、直径数百メートル、数キロメートルといった大きさで地球に衝突したとすればどうなるだろうか。約6500万年前、メキシコのユカタン半島沖に直径10キロメートルほどの天体が衝突した後、恐竜と呼ばれている大型の爬虫類を始め、地球上の全生命の75パーセントが姿を消したという。
リュウグウ、イトカワ、ベンヌはNEAの中でも、いずれ地球に衝突する軌道を持つ、PHA(潜在的に危険な小惑星)に分類されている。いずれといっても100万年以内といった単位なので、明日にもリュウグウがはやぶさ2ではなく人類に牙を剥くというわけではない。とはいえ、こうした小惑星の大きさや質量、組成、成り立ちからこれまでの歴史を詳細に調べることが、いずれは潜在的な危険から地球を守る“プラネタリー・ディフェンス”につながるのだ。
こうした小惑星衝突の脅威について、アメリカの天文学者にしてサイエンス解説者フィリップ・プレイト博士が、人類滅亡のシナリオから立ち向かう方法まで解説した書が『宇宙から恐怖がやってくる! 地球滅亡9つのシナリオ』だ。全9章で描き出された脅威の筆頭が第1章の「ターゲットは地球 小惑星や彗星の衝突」。過去の天体衝突の例として紹介されているシベリアのツングースカでの衝突が起きた1908年6月30日を記念して、現在では「アステロイド・デイ」という国際的な天体衝突の脅威を話し合う会議が開催されている。2018年のアストロイド・デイには、ロックバンド・クイーンのギタリストにして天体物理学者のブライアン・メイ博士が小惑星リュウグウの立体視画像を作成して公開した。
現在進行系のはやぶさ2計画をより深く知る上でぜひ手元に起きたい『宇宙から恐怖がやってくる!』だが、2010年の発刊後、紙の書籍は長らく入手困難だった。このたび、電子書籍版として復刊し気軽に読めるようになった。
2019年7月まで小惑星探査を続け、来年には地球に帰還するはやぶさ2に続いて、OSIRIS-RExが小惑星のサンプル採取に挑む。また、本書で解説された小惑星衝突回避を実証するため、2022年からNASA/ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所による“DART”という小惑星の軌道変更実験計画が行われる。プラネタリー・ディフェンスが現実のものとなる時代に、新たな読者が本書を手に取ることができるのはとても嬉しいことだ。