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金正恩「拷問部隊」幹部が秘密裏に処刑された、ある深刻な理由

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

今年1月末、北朝鮮の平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)で非公開裁判が行われ、男性2人に死刑が言い渡された。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、非公開裁判が行われたのは平安南道人民委員会(道庁)の会議室だ。一般には公開されず、参加したのは公務員だけだった。被告となったのは、平安南道保衛部(秘密警察)の指導員1人と国境警備司令部の軍官(将校)1人である。

保衛部と言えば、金正恩体制の恐怖政治を支える「拷問部隊」である。

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刑はすでに執行された模様だが、こちらも非公開で行われた。道の幹部に対しては、裁判後2日間思想検討と集中教育が行われた。

(参考記事:「死刑囚は体が半分なくなった」北朝鮮、公開処刑の生々しい実態

情報筋は、具体的に2人がどのような罪を犯したかについて具体的な話に触れていない。単に、「国家機密を漏らしカネを受け取った」としているだけだ。そもそも裁判の存在自体が、1ヶ月以上経ってようやく道の機関に知り合いのいる人々を通じて話が漏れ伝わるようになったほどだ。

情報筋は今回の事件について「高級幹部が、生存のために手段と方法を問わずカネ儲けに走っているという現実が明らかになったケースだ」と説明した。つまり、幹部までが困窮するほど、北朝鮮の食糧事情が悪化しているということだ。

保安局(警察局)や保衛部に務める人に対する食糧配給が円滑に行われなくなっていることは、デイリーNKでも既報の通りだ。

今年の光明星節(2月16日の金正日総書記の生誕記念日)には、コメ3キロ、ハタハタ1キロ、油、豚肉、菓子500グラムずつ、砂糖200グラム、洗濯石鹸、歯磨き粉の特別配給が行われることになっていたが、職場によってもらえるものが異なり、すべてがもらえた人は少なかったようだ。炭鉱、鉱山、協同農場などでは洗濯石鹸、歯磨き粉、豚肉しかもらえなかった。

国境警備司令部の軍官(裁判にかけられた人とは別の人と思われる)の家族は、コメがもらえなかったため、トウモロコシを売ってそれでコメを買って食べたという。配給で最優先される立場の人への配給の量が減らされる事態は、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころにも考えられなかったことだ。

(参考記事:「街は生気を失い、人々はゾンビのように徘徊した」…北朝鮮「大量餓死」の記憶

また、司令部にいては食べ物にありつけない軍官たちは、隷下の部隊に行こうとする。末端兵士に配給される食糧を盗み食いできるという情けない理由からだ。

(参考記事:金正恩氏の「ポンコツ軍隊」は世界で3番目に弱い

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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