最新の言葉使いに注意!:IoTはエッジからエンドポイントへ
AIをIoTシステムのデータ解析に使うようになってきており、最近では両者を交えてAIoTという言葉が普及してきた。さらにエッジというあいまいな言葉の一部は、エンドポイントという言葉に変わり始めている。
世界のトップIPベンダーである英国のIP(半導体IC上に集積される一つの付加価値回路)ベンダー、Arm(親会社はソフトバンク)が先日、ニューラルネットワーク向けIPコアを発表した時に(参考資料1)、AI技術が使われる場所(物理的+仮想的な場所)を、クラウドAI、エッジAI、エンドポイントAIという三つの言葉で表現した(図1)。
エッジコンピュータやエッジデバイスという言葉が使われるとき、HPC(High Performance Computing)や通信オペレータの人たちは、エッジをフロントエンドの基地局という意味で使っている。しかし、組み込みシステムや半導体、電子部品の人たちはデバイスそのものをエッジと呼んでいる。両者の間にはエッジという言葉が異なる意味で使われているのだ。これまでもいろいろな講演で、このことに注意を促してきた。
スーパーコンピュータやハイエンドのコンピュータを手掛けている人たちは、IoTセンサネットワークでのゲートウェイのことを差したり、工場内でさまざまなセンサから情報を収集し管理・保存。解析するサーバーのことをエッジサーバーと呼んだりしている。またNTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの通信オペレータはモバイル端末やIoTデバイスなどからのデータを直接受けるフロントエンドの基地局をエッジと呼んでいる。通信では、エッジ基地局からコア基地局までは光ファイバで結び、コア基地局で交換処理を行う。エッジ基地局でもデータ処理を行うことをエッジで処理するという表現をとってきた。
電子部品や半導体、組み込み系システムでは、センサ端末やIoT端末など文字通りの末端をエッジと呼んでいた。しかし、これらの違いを明確にするため、エッジをハイエンド系の人たちのエッジと、端末そのもののエンドポイントという言葉を分けよう、という動きが英国を中心に出てきたようだ。
やはり英国のローエンドプロセッサ専門のXMOS社は、バイナリ(1ビット)から8ビット、16ビット、32ビットの演算精度を変えられるAIプロセッサ「xcore.ai」を開発(参考資料2)、リリースした。AIプロセッサとはいえ、価格はわずか1ドル。この応用に関してはエッジという表現をしているが、この発表を伝えたEE Times Europeは、エンドポイントへの応用という言葉で表現している(参考資料3)。
念のため、このとても安価で推論可能なAIプロセッサを簡単に紹介すると、1チップ上に16個のxcoreロジックコアを集積しており、それぞれのコアではスカラー演算、ベクトル演算、浮動小数点演算の各種命令をサポートする。クラウドか学習データを組み込み、ニューラルネットワークモデルを実行するTensorFlow Liteの推論機能を搭載している。推論向けにできるだけ軽くしたAIプロセッサなので、音声認識処理をリアルタイムで実行できるためAIスピーカーやノイズキャンセラなどに使える。リアルタイムOSであるFreeRTOSをサポートしている。製品のデモは2020年6月の予定。
これまでのエッジという言葉から、エンドポイントという言葉で表現されると、AIoTの使われる範囲はさらに明確になり、誤解が少なくなろう。言葉は生き物だ。
(2020/02/18)
参考資料
1.Arm、マイコン用Cortex-M55と256MACのEthos-U55でAI推論性能を上げる(2020/02/13)
2. XMOS announces world’s lowest cost, most flexible AI processor(2020/02/13)
3. XMOS adapts Xcore into AIoT ‘crossover processor’(2020/02/10)