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欧米のジャーナリストたちが「ソマリア人の海賊」にだまされた?

小林恭子ジャーナリスト
英民放チャンネル4の番組に出たアーダン(チャンネル4のサイトより)

英民放チャンネル4の午後7時のニュースを見て、笑ってしまった動画があった。

2日に放送された分で、「ソマリアの海賊」のふりをして欧米の著名メディアに取材を受けてお金を稼いでいる人たちの様子を紹介した(動画は日本からは視聴できないことがあります。ご了承ください)。

自分も時々海外に出て、現地の人を取材する。あれ、あの時は大丈夫だったのかなと少しどきりとした。

当初は「だますなんて、いい加減な人たちだな」と思ったが、よく聞くと、だまされたほうも十分に取材対象をチェックしていなかったという意味では反省してしかるべきだった。

動画は、民放チャンネル4のジャーナリストでソマリア人のジャマール・オスマンがケニアのスラム街イーストリーに取材に出かける場面を映し出す。ここは、ソマリア人のたまり場となっているので、ソマリア人の海賊に取材したい人が集まってくる場所にもなっているようだ。

ここでオスマンが出会ったのが「アーダン」と名乗る人物。きらきらした丸い目が印象的だ。アーダンと数人は世界中のジャーナリストを相手にした、ある商売に従事している。大変繁盛しているという商売とは、ソマリア人の海賊のふりをすることだ。

アーダンがオスマンに話したところによると、たまり場にはボス=統括者と言うべき人がいる。ケニアに来たジャーナリストたちが「海賊に会いたい」と言ってボスのところに来るので、アーダンたちが海賊のふりをして、お金をもらって取材に応じるというわけである。

ソマリアの海賊は世界的に有名だし、ジャーナリストたちは取材をしたがる。そこで、欧米のジャーナリストに「海賊」を調達するのだ。「ボス」はジャーナリストたちを車に乗せ、時には数日間かけて、ケニア内を行き来する。「とても危険でまだ顔を出すわけには行かない」などと説明する。この間も、日給が出る。

「才能があるから、海賊のふりができるんだよ」とアーダン。

普段はレストランで働いているが、アーダンの日給は微々たるものだ。ところが海賊のふりをすれば、200ドルもらえるという。ケニアではとても大きな金額だ。

こうして、数々の欧米メディアが「海賊たち」を取材し、記事を書いたり、放送したりしている。その1つは米タイム誌に掲載された。2日時点で、まだウェブサイトに載っていた。

ニセの海賊たち(アーダンを含め、ほとんどがソマリア人ではない)をデンマークのテレビ局が撮影した動画は世界18カ国で放映されたという。

アーダンのほかに動画の中に出てくるのが、「バシール」(仮名)だ。彼をソマリア人海賊の一人として書いたのが、上のタイムの記事だ。

ある動画の中で、バシールは「最も恐れられている海賊」として紹介されている。「私を誘拐しない保証はありますか」とカメラマンがバシールに聞く。「その心配はない」とバシール。

チャンネル4のジャーナリスト、オスマンがバシールに取材中、「俳優なら、今ここで、どんな感じで海賊のふりをしたのか、やってみてくれないか」と聞く。少し間があって、バシールが「感情を人物に入れ込まないとできないんだよ、気持ちの切り替えができないから」と言って、笑いながら断るあたり、思わず、こちらも噴出してしまった。

自分はソマリア人ではないし、ソマリアに行ったこともないとバシール。もちろん、ソマリア人の海賊を見たことはない。ただし、「ソマリア人を見たことはある」。

アーダンが言うには、「西欧人はアフリカ人のことを間抜けだと思っている。でも、アフリカ人は間抜けではない。僕たちは利口だし、西欧人は僕たちをからかってやったと思っているかもしれないが、からかっているのはこっちだ」。

バシールが言う。「本物のソマリアの海賊がお金をもらって取材に応じるわけがないよ。たくさんのお金を手に入れたんだから。取材に応じる必要がないじゃないか」。

ニセのソマリア人だと今は分かったという米国とチェコの放送ジャーナリストたちが「自分たちが馬鹿みたいだった、今は本当のことが分かった」と言う場面も入っている。

タイム誌にチャンネル4がコンタクトを取ったが、返事がなかったそうだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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