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国民民主党の解党、注目の玉木新党は政党要件を満たすことができるのか?

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
国民民主党両院議員総会の玉木雄一郎衆院議員(19日、都市センターホテル)(写真:つのだよしお/アフロ)

 国民民主党の解党が決定し、多くの議員が立憲民主党への合流を表明しました。その中で、玉木代表らが設立する新党にも注目が集まっています。国会で活動する基準とも言える政党要件を満たすことができるでしょうか。

政党要件とは

 政党要件とは、公職選挙法や政党助成法、政治資金規正法などの法律で定められた、政党の定義です。これは複雑な要素が複数の法律に絡み合って定義されているので、詳細を省いて簡単に紹介すると、「政治団体のうち、所属する衆議院議員又は参議院議員が5人以上のもの」を政党とすると定めるものです(所属国会議員が4人以下でも、直近選挙の得票率などで政党とする場合がありますが、今回の玉木新党はこれに該当しないため、今回は説明を省きます)。

 この政党要件を満たさなければ、衆議院の比例重複立候補が認められない、比例区への立候補の下限人数に制限がある(多く立候補させなければならずお金がかかる)、政党等寄附金特別控除の対象とならない、選挙におけるポスターやビラ、選挙カーの数に大きな制限が出る、衆議院議員総選挙で選挙区における政見放送に出られないなどの制限があり、またマスメディアの取り扱いもこの政党要件を満たしているかどうかが基準となっていることが多いことから、政党要件を満たせるかどうかが、玉木新党(新 国民民主党)結成の第一のハードルと言っても過言ではないでしょう。

 そこで、今回は立憲民主党への合流をしないことを表明した現職議員9人を一人一人クローズアップして、玉木新党は政党要件を満たすことができるのかどうかを検証したいと思います。なお、下記の分析は執筆時点のものであり、現在も合流可否を検討中の議員が確認されていることから、随時状況は変わることはご了承ください。

現職議員の思惑と玉木新党合流の可能性

山尾志桜里衆議院議員

 山尾志桜里衆院議員は、枝野氏の党運営に強く反発して、3月18日に立憲民主党から離党しました。6月には国民民主党に入党しましたが、わずか2ヶ月で党が解党し、立憲民主党との合流新党へ参加するかどうかの選択を迫られました。2009年8月の第45回衆議院議員総選挙で当選した玉木雄一郎衆院議員とは当選同期という縁もあり、気心が知れている仲とも言えるでしょう。現時点で合流新党を選ぶ理由もなく、自身のSNSでも合流せず玉木新党に参加と表明していることから、玉木新党への参加はほぼ確実でしょう。

 19日夜には、山尾議員が、れいわ新選組の山本太郎氏、立憲民主党を離党した高井崇志衆議院議員、立憲民主党の須藤元気参議院議員らと会食をしたことがわかっています。当初玉木議員も参加するはずだったこの会合に、国民民主党側から唯一の参加となった山尾議員は、欠席した玉木代表の代わりに新党への合流などを呼びかけた可能性もあり、今回の玉木新党における合流の結節点としての役割をも担おうとしています。

古川元久衆議院議員

両院議員総会で国民民主党を解党することが決まりました。

(中略)

今回の解党は、この間、立憲民主党との間で行ってきた新党協議で合意した条件に基づいて行われるもので、この新党に賛同する議員は立憲民主党等との間で新たに作る政党に参加することになりますが、私はこの新党には参加しません。

(中略)

解党後はもう一度、この考え方を引き継ぐ新しい政党を、自分と思いを同じくする人たちと一緒に作りたいと思います。

出典:古川元久オフィシャルブログ

 古川元久衆院議員は、当選8期というキャリアに加えて大臣経験(国家戦略担当大臣)もあることから国民民主党の中で党幹事長や党代表代行を歴任するなど、党運営の中心にいました。同党の愛知県連幹事会が両院議員総会に先立って18日に行われましたが、この場においても「玉木代表とともに行動する」と語っており、現時点においてもその考えは変わらないと思われます。

前原誠司衆議院議員

 前原誠司衆院議員も、旧民主・旧民進党で代表を務め、民主党政権で国土交通大臣と外務大臣を歴任するなど当選9期にふさわしいキャリアがあり、党内に一定の影響力を持つと考えられています。また、選出選挙区である京都府は伝統的に共産党が強く、これまで自身の選挙で共産党候補と対決してきたことから共産党との共闘態勢には強い拒否反応を示しており、「非自民非共産」を自身のスローガンにしています。このことから、合流新党への参加は難しいと考えられます。

 一方、「非自民非共産」の枠組みには日本維新の会もあります。大阪維新の会の「全国組織」とも言える日本維新の会との連携は、地政学的にも選択肢に入っていることでしょう。日本維新の会からしても、支持が大阪府中心である現状を打破し、関西圏に広く勢力を伸ばすための足がかりとして、大阪と隣接する京都で、しかも大臣経験者・政党代表経験者でもある前原議員との連携は視野に入っているはずです。一方、11月頭に予定されている大阪都構想の実現までは都構想への集票活動に集中したいという思惑もあるでしょうし、何より他党からの合流はノイズと見做される可能性もあります。従って、一時的に玉木新党か無所属で活動した後に、日本維新の会へ合流するような構想もあるかも知れません。

岸本周平衆議院議員

 メディアに対しては今回の合流について「ノーコメント」とした上で、本稿執筆現在ではTwitterも鍵付きアカウントになっている岸本周平衆院議員。先ほどの前原議員と同じく、選挙区である和歌山1区は地政学的に大阪に近く、「リベラル保守の政治こそ、政権交代のキーワードであり、野党のめざすべき王道」(2019年9月21日わかやま新報)と書いているぐらいですので、共産党との共闘態勢を否定しているあたりも前原議員と多くの共通点を持っていると言えます。また、岸本議員に関しては、和歌山県知事選出馬を模索していたという一部報道もあり、自民党の二階幹事長が強い影響力を持つ和歌山県では共産党との共闘に後ろ向きになるのも自然なことかもしれません。

増子輝彦参議院議員

 既に「新党に参加しない結論」と述べているのが、増子輝彦参院議員です。次回の参院選で改選となる増子議員ですが、前回選挙では岩城光英法務大臣(当時)に定数1の選挙区で激戦を繰り広げ、3万票差(得票率差で3ポイント差)で勝利したことは、まだ記憶に新しい人も多いでしょう。その選挙では野党共闘が成立しており、実質的な自民 vs 民進の一騎打ち対決を制しています。一方、福島県選挙区における日本共産党の持つ票は6万から7万票とされており、野党共闘が成立しない場合は一転厳しい選挙になることも想定されます。

 他の議員と異なり参議院議員であることから、解散総選挙ですぐにこの問題に直面するわけではありませんが、玉木新党への参加は野党共闘から遠ざかる行為でもあり、自身の選挙区事情を考えると参加へはリスクがあるとも言えます。

川合孝典参議院議員

 同じく次回の参院選で改選となる川合孝典参院議員は「組織の考え方と綱領の表現にズレが生じている。許容できるかを組織で精査しないといけない」とコメントしているように、現時点ではまだ決断をしていません。本人の意向に加え、自身の出身労働組合であるUAゼンセンの意向も大きく働くと思われます。来る次期参院選における比例区での取り扱いがどのようになるのか、なども参加可否の焦点になる可能性が高いと言えます。

足立信也参議院議員

「立憲民主との信頼関係が築けていないと個人的に思っている」

出典:毎日新聞 2020年8月21日 地方版

 大分県選出の足立信也参院議員と、後述の吉良州司衆院議員は、同じ大分で戦う者として協力体制にあります。国民民主党結党時には、政務調査会長を務めた経緯もあり、玉木代表との関係も深いと言われています。

 一方、足立議員は次期参院選(大分県選挙区)の改選組です。前回の参院選では、わずか1,090票差(0.19ポイント差)という超激戦を制して議席を守りましたが、この選挙も前述の増子議員(福島県選挙区)と同様に実質的な自民 vs 民進の一騎打ちでした。野党共闘が成立しない場合には日本共産党の持つ約5万票を失う可能性があることから、議席を失うリスクを高める決断を迫られています。

吉良州司衆議院議員

任期が1年2カ月となった衆院の吉良氏も、新党に合流せず、無所属か玉木雄一郎代表による新党所属の方針を示している。

 吉良氏は事務所を通じ「(今後の対応は)状況をみて判断する」とした上で、新党不参加の理由について「理念的な立ち位置が異なり、また選挙前に政党を変わることへの抵抗がある」とコメントを出した。

出典:毎日新聞 2020年8月21日 地方版

 同様に、衆院議員(比例九州)の吉良州司衆院議員も新党には合流しないことを明言しています。現時点では無所属か玉木新党かは決断していませんが、前述の足立議員と行動を共にしたい意思は強いと思われます。一方、前回の衆議院選挙では選挙区当選ではなく比例復活当選だったことを踏まえれば、いずれかの政党に所属する必要性は他の衆議院議員と比べても大きいとも言えます。

玉木雄一郎衆議院議員

 最後に、ほかでもない国民民主党代表である玉木雄一郎衆院議員についても触れておきましょう。もちろん、自身の発案である「玉木新党」ですから、どのような事情の変化があっても、最大限新党結成に向け努力するでしょう。

 巷では、自民党や維新の会への合流も言われる中で、Twitterではこれらの噂を一蹴しています。実際のところ、玉木議員は国民民主党のスローガンであった「改革中道」にこだわりを持っていることから、少なくとも今すぐ自民党や維新の会に合流する可能性は非常に低いのではないでしょうか。

 選挙区事情も今のところは全く問題ないでしょう。香川2区では、初挑戦こそ破れはしたものの、2009年の衆議院議員総選挙で大勝した後、香川2区でこれまで4連勝をしており、直近の2017年総選挙では現職だった瀬戸隆一衆院議員(当時)の比例復活を許しませんでした。当選4期とはいえ地元をしっかり固めており、メディア露出が多いだけでなくネット配信も得意な玉木議員には「玉クラ(玉木クラスタ)」と呼ばれるファン層もおり、これらが国政政党のリーダーとしての役割を果たしたいという彼の強い気持ちを支えているといえます。

政党要件を満たせるのか

 ここまで、噂される9人の公職者を一人ずつ見てきました。現時点で玉木議員を除いてほぼ確実といえるのは2人(山尾議員古川議員)、次に可能性が高いと言えるのが、前原議員岸本議員です。この5人で政党要件は満たすことになりますので、今日現在では政党要件を満たす可能性は高いと言えるのではないでしょうか。加えて、川合議員増子議員のいずれかが参加したり、大分で行動を共にすると思われる足立議員吉良議員が玉木新党に参加する可能性もまだ十分にあります。

 更に、既に会合を持ったと言われている高井崇志衆院議員や立憲民主党の須藤元気参議院議員、れいわ新選組といった存在もあります。このメンバーに関しては、政策面での違いなどもあることから玉木新党への即合流は考えづらいですが、一方で衆議院解散の風が強まるなど、政党要件と政策一致の重要性を天秤にかける時が来た場合には、その時の判断になるのではないか、と踏んでいます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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