テレビドラマにおけるUSコンバースの使用による商標権上の問題について
「週刊女性」という自分としては珍しい媒体の記事にコメントしました。「ユニコーンに乗って」というTVドラマで永野芽郁さん演じる主人公が着用しているUSコンバースの靴CT70(チャックテイラー‘70)の商標権に関する話です。
過去記事にも書きましたが、コンバースのマークの商標権は、企業買収の繰り返しの末にちょっとややこしい状況になっており、現在は、日本では伊藤忠商事が、米国ではナイキの子会社であるConverse Inc.が所有しています。両社には資本関係もコンバース商品に関する提携関係もないので、日本製コンバースとUSコンバースは別の商品です。したがって、USコンバースの商品を米国で販売することは問題ないのですが、それを日本に業として輸入したり、日本国内で販売したりすると伊藤忠商事の商標権を侵害することになってしまいます。この件は裁判にもなっており、知財高裁で確定しています(判決文、コンバースジャパン社によるお知らせ)。
アメリカで売ろうが、日本で売ろうが商標権を侵害してしまう純然たる偽ブランド品とは異なり、USコンバースは米国では正規品なわけですが、日本国内では日本の商標法に基づき偽ブランド品と同じ扱いになってしまうということです。もちろん、倫理的な観点では偽ブランド品とは全然違うでしょう(仮にTVドラマの主人公が偽ブランドバッグを使っていたら大問題になってしまうでしょうが、USコンバースではそうはならないでしょう)。
なお、商標権の効力が及ぶのは、「業としての」製造・販売・輸出・輸入等なので、個人で商品を所有・使用することで商標権を侵害することはありません。ゆえに、このドラマで主人公がUSコンバースの靴を履いていること自体に商標権上の問題は生じ得ません。また、たとえば、友人が自己使用のためにアメリカで買ってきたUSコンバースの靴を主人公がもらったという設定であれば、友人側にも主人公側にも商標権侵害が関係する余地はありません。ただ、わざわざ商標権上微妙な位置づけのブランドを使う必然性があるのかという気はします。
ところで、個人が、USコンバースを米国の通販会社から購入した場合はどうなるかという問題があります。「業として」での輸入ではないので問題なさそうですが、実際には、税関で差し押えられるケースがあるようです。これにより、通販業者や運送業者も日本向けのUSコンバースは扱わないポリシーにしているところが多いようです。
さらに、2022年10月より施行される商標法改正により、商標法における輸入行為に「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることになったので、明確な個人輸入の場合でも業者が介在すれば確実に商標権侵害とされることになりました。侵害者は輸入した個人ではなく、海外の輸出業者なので、個人が損害賠償等を命じられることはないですが、税関で差し押えられる可能性はきわめて高くなりました。
この改正は別にUSコンバースをターゲットとしたわけではなく、偽ブランドバッグのような純然たる商標権侵害商品が個人輸入の体で不正輸入されることを防ぐためのものなのですが、結果的に、USコンバースは米国では正規品なのだから対象外という話にはならず、同じ扱いとなってしまいました(上記のとおり、日本の商標法の扱いではUSコンバースは「偽ブランド品」という扱いなのでいたしかたありません)。確実に言えることは、日本におけるUSコンバースの希少性は今後ますます上がりそうということです。