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「あんな暴力的な採決が可決になったら我が国の民主主義は死にます」今起きてる憲法クーデターを許さない。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
SEALDsらによる国会前抗議行動

昨日参院で安保法案が採決されたと報道され、そのことを前提に参議院本会議が進行している。

審議を尽くすことを放棄した、あまりに暴力的な採決は、立法府の歴史に汚点を残すどころか、日本の議会制民主主義の深刻な危機を示すものである。

この事態に、愕然とするほかない。

■ 採決は有効とは到底考え難い。

NHKは、安保法案の採決について、以下のように報道する。

安保法案 参院特別委で可決

民主党などが抗議するなか、法案の採決が行われ、自民・公明両党と、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の賛成多数で可決されました。

しかし、こんなことで本当に採決があったといえるのか。

● 現場の状況と報道

【参・安保法案】特別委員会での強行採決の瞬間とYoutube検索をしてみてほしい。

そのタイトルの昨日の強行採決の国会中継映像が見られる。是非見てほしい。

https://www.youtube.com/watch?v=eR6xYuoonpg&feature=youtu.be

これをみれば明らかであるが、ただ混乱しているだけであり、有効な採決があったとは到底認められない。

明らかに無効ではないか。

毎日新聞は、

何が起きたか分かっていたのは、その場にいた与党議員だけかもしれない。安全保障関連法案は17日夕、参院特別委員会で可決されたが、予定されていた締めくくりの質疑もなく、突然起きた大混乱の中、いつの間にか可決されていた。

午後4時半ごろ、野党による鴻池祥肇委員長の不信任動議が否決され、鴻池氏が委員長席に戻ってきた。座った瞬間、自民党議員がバラバラと委員長席に駆け寄る。つられるように野党議員も動き、あっという間に委員長を囲む人垣ができた。怒号とやじが渦巻き、散会するまでの約8分間、傍聴席の記者にも何がどうなっているのか分からなかった。

散会後の鴻池氏の説明では、まず自民党議員の質疑打ち切りの動議、次に安保関連法案を採決したという。だが、どの時点で何の採決が行われたのか、議場にいた野党議員すら分からなかった。生中継するNHKすら「何らかの採決が行われたものとみられます」などと実況し、散会するまで「可決」を伝えられなかった。

出典:毎日新聞

と報道している。

NHKは散会するまで「可決」と伝えられなかったのに、最終的に何を根拠に「採決」と判断したのだろうか。与党の言うがままに、「採決」と報じたNHKも、報道機関として極めて重大な責任がある。戦争協力加担への報道機関の犯した過去の歴史がいま、繰り返されているといえるのではないか。

● 議事録には何ら記載なし。

そんな折、ある裁判官が(裁判官!)、小池晃参議院議員の以下のTwitter教えてくれた。 

本日の参議院特別委の速記録が出ました。まったく聴取不能で、何をやったのかわかりません。自民党の説明では、採決動議、法案二本、付帯決議、委員会報告の5回採決したと言うのですが、そのような記録なし。まったく無法、無効です。

出典:https://twitter.com/koike_akira

画像

この速記をみると、該当部分は、ただ、

速記中止

委員長 発言する者多く、議場騒然、聴取不能

となっている。

「採決」という記載は一切、議事録にすらないのだ。これからこれも改ざんされていくのだろうか。到底信じられないことである。

● 「あんな暴力的な採決が可決になったら我が国の民主主義は死にます。」

その場にいた人からも、議事録からも、映像からも、採決があったとは到底認められないのだ。こんなことで有効な採決としてしまつたら、議会多数派の暴力的な横暴で、国会は民主主義のルールを無視してどんなことでもまかり通る場になってしまう。言論の府としての自殺行為ではないのか。

福山哲郎参議院議員は、NHKで

「可決は認められません。あんな暴力的な採決が可決になったら我が国の民主主義は死にます。」と述べた。まさに同感である。このような採決を有効としては、将来にわたり禍根を残す。

■ 憲法クーデター

今回、審議されている安全保障法案は、日本の将来に極めて重大な変容をもたらすものである。

11本もある法律はそれぞれ憲法9条のもとでこれまで抑制されてきた自衛隊の海外での武力行使、武器使用等について大幅な緩和をもたらす重大な問題が含まれている。

集団的自衛権行使容認が違憲であることは圧倒的多数の憲法学者や元最高裁長官、元最高裁判事までが明確に主張している。

違憲な法律はそもそも無効であり、制定することは許されない。ところが、こうした声がすべてシャットアウトされ、無視されたまま採決に至った。しかもかくも暴力的なやり方で。

山口繁元最高裁長官は、朝日新聞のインタビューで以下のとおり語っている。

――安全保障関連法案についてどう考えますか。

少なくとも集団的自衛権の行使を認める立法は、違憲と言わねばならない。我が国は集団的自衛権を有しているが行使はせず、専守防衛に徹する。これが憲法9条の解釈です。その解釈に基づき、60余年間、様々な立法や予算編成がなされてきたし、その解釈をとる政権与党が選挙の洗礼を受け、国民の支持を得てきた。この事実は非常に重い。

長年の慣習が人々の行動規範になり、それに反したら制裁を受けるという法的確信を持つようになると、これは慣習法になる。それと同じように、憲法9条についての従来の政府解釈は単なる解釈ではなく、規範へと昇格しているのではないか。9条の骨肉と化している解釈を変えて、集団的自衛権を行使したいのなら、9条を改正するのが筋であり、正攻法でしょう。

――「法案は違憲」との指摘に対して、政府は1972年の政府見解と論理的整合性が保たれていると反論しています。

何を言っているのか理解できない。「憲法上許されない」と「許される」。こんなプラスとマイナスが両方成り立てば、憲法解釈とは言えない。論理的整合性があるというのなら、72年の政府見解は間違いであったと言うべきです。

出典:「9条解釈、変更するなら改憲が筋」 元最高裁長官語る

元最高裁長官の意見は、法律家の常識を代弁するものである。極めて当たり前のことであるが、彼のような人が公に語らざるを得ないという状況は、現代の憲法的危機の深刻さを象徴している。

こうした意見を何ら真摯に受け止めず、耳を傾けないというのは、政権・与党が、憲法違反の確信犯であり、憲法違反を知りつつ暴走していることを意味する。

憲法99条に定められた、国会議員・公務員の憲法尊重擁護義務を無視する、憲法クーデターに他ならない。

このようなことがまかり通れば、これからも、このようなかたちで日本の戦争参加が決められ、憲法違反の人権侵害立法が決められ、若者たちが戦争に動員される法律が決められてしまうであろう。

今、目の前で繰り広げられている憲法破壊、このようなことを到底許してはならない。

今国会で、今日、野党には本当に憲法価値、立憲主義の価値、議会制民主主義を守るために奮闘してもらいたいと願う。

そして・・・「ねじれ解消」のスローガンのもとで与党が圧倒的多数を握る国会が、かくもブレーキを失い、与党の独裁的手法がかくも暴走することを、今国会はこれ以上ありえない明確なかたちで私たちの目の前に提示した。

憲法が保障した民主主義、平和主義、そして基本的人権尊重という価値が本当に停止されてしまわないうちに、このような国会の構成をこれから私たち主権者の力で変えていかなくてはならないと痛感する。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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