【京都市西京区】洛西小塩山頂上付近のカタクリ自生地で環境省絶滅危惧種「ギフチョウ」の羽化中撮影に成功
小さく小さく丸まったサナギからギフチョウが羽化を開始する瞬間の貴重なシーンを発見したのは京都市内からカタクリの花を見にやってきたむつきさん(25歳)でした。近くで来訪者を案内していた西山自然保護ネットワークのボランティアメンバーでもある八木孝司大阪公立大学名誉教授に「これなんですか」と声をかけたのです。
京都府絶滅危惧種である「カタクリ」の花が一斉に咲き始めた3か所の保護地、通称「Nの谷」、「炭の谷」、「御陵の谷」のうち、「炭の谷」で2024年4月5日、「ギフチョウ」の羽化開始直後から、徐々に羽化が進行する様子が撮影され、関係者一同の歓喜を呼び起こしています。ギフチョウは近年全国的に激減している希少なチョウです。環境省絶滅危惧種、かつ京都府登録天然記念物であり、さらに小塩山に棲息する本種はギフチョウ(大原野個体群)として、昨年11月に京都府指定希少野生生物に指定されています。
八木さんによると「これまで羽化中盤以降からの様子は何度か遭遇しましたけど、始まったばかりの羽化に出会うのは、17年間この谷に通い続けて初めての出来事です。谷のあちこちで羽化が始まっているのでは」といいます。この日は今年初めて羽化した「ギフチョウ」がカタクリの花の群生の上を舞うシーンも数例目撃されました。
最初に発見したむつきさんは大の植物好き、珍しい品種と出会うため北海道まで足を延ばすほどだとか。「市内からアクセスの良いところでこんなにも自然を堪能できるのは素敵です」と感動をあらわにします。筆者もまた、偶然にも出会えた、初めて遭遇する生命の神秘に感動しまくりでした。
京の西南端にある一大住宅地「洛西ニュータウン」からわずかに西に入り、雑木林をぬって標高642メートルの小塩山を頂上付近まで登って行くと、カタクリが自生する谷が広がっています。カタクリは、草丈が10~15センチメートルほどのユリ科の多年草で、この季節になると雑木林の林床一面に淡い赤紫の可憐な花を見事に咲かせます。種が発芽してから開花するまで約8年を要し、その後はほぼ毎年開花を繰り返します。
小塩山の雑木林は、かつて炭を焼き、薪を採る、いわゆる薪炭林として何百年も利用されてきましたが、数十年前にその役目を終えて、放置されるようになりました。こうなると常緑樹が繁って暗い森になりカタクリは生育できなくなります。さらにシカやイノシシの獣害が増加してカタクリの減少に拍車がかかりました。また、同じ理由でギフチョウ幼虫の食草であるミヤコアオイも減少するため、ギフチョウの棲息も危機的状況になっていました。
25年前にこの小塩山のカタクリとギフチョウの保護に乗り出したのが西山自然保護ネットワークでした。中川光博共同代表は、「25年に亘って、暗くなった森をかつての薪炭林の明るい環境に戻すべく、手入れに取り組んで来ました。さらに2008年以降は防獣ネットを設けるなどの害獣防止策を根気よく続けて、今ではカタクリの群生にギフチョウが舞う姿を普通に見られるまでに環境が回復しています」と話してくださいました。ネットワークの会員も400名を超えるまでになっています。
防獣ネットで囲まれたカタクリの谷では、春になるとカタクリはもちろんギフチョウの棲息に必須なミヤコアオイの新芽が芽吹き、この日に開花が確認されたミヤマカタバミ、シハイスミレ、エンレイソウなどに続いて、ヤマルリソウやニリンソウ、チゴユリなども開花します。植生が回復した谷では、花に集まるマルハナバチやビロードツリアブ、コツバメなどの昆虫類、他にも哺乳類や鳥類なども多くの種類が棲息しています。この日はキツツキの仲間、アカゲラがコンコンコンコンと木をつつく鮮明な音も山中に響き渡っていました。
ちなみに「片栗粉」は、明治初期までカタクリの鱗茎から採れるデンプンを指していましたが、現在の片栗粉は馬鈴薯デンプンです。この日のカタクリの開花は4割ほどでした。これからますます綺麗に群生する姿が見られるようです。
なお、雨の日にはカタクリは花を開かず、ギフチョウも飛びません。みなさんぜひ天気が良い日にハイキングを兼ねて、山頂まで登ってみてください。感動体験ができますよ!
西山自然保護ネットワーク(外部リンク)