オムロンが東京に開発工場を作った理由(わけ)
制御機器やセンサ、ヘルスケアなどの事業を手掛ける、京都のオムロンが、東京、品川駅の近くに開発工場を設立した。東京に工場を作ったのは、東京が世界の玄関口だからだ。オムロンは世界36カ所にオートメーションセンター(ATC)を持っている。加えて、東京に本社を持つ企業は多い。この品川は世界で37番目の拠点となるという。
品川は、アジアと北米をつなぐ中間にある。ここにモノづくりのユーザー企業に来てもらい、「ユーザーの持つ課題を解決するためのソリューションを一緒に開発するためにこの工場を使ってもらう」ことを意図している。エンジニアだけではなく、ユーザー企業の経営陣もこのオートメーションセンターに来てもらいたい、とオムロン執行役員副社長兼インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長の宮永裕氏(図1)は述べている。
オムロンは工場のオートメーションに強い。これを実現するための制御機器を20万点も持っている。これを生かし、さらに将来のモノづくりの革新を見据えて、制御機械の高速・高精度化を図るためにもっとintelligent(インテリジェント)に制御することで生産性向上につなげようとしている。制御機器にインストールしたソフトウエアも170種あり、工場の機械から発生するさまざまなデータを収集(integrated)・活用し学習させ、モノづくりの進化を狙う。さらに人と機械との新しい協調としてインタラクティブ(interactive)を掲げている。これらをまとめて、i-Automationと呼び、これを未来のオートメーションとしている。
ATC東京では、オムロンが誇る20万種以上の制御機器を高度にすり合わせた技術力とアプリケーションを組み合わせて、顧客の課題に合わせた解決策を実証することができる。加えて、これらの制御機器を導入するために必要な技術トレーニングも提供する。さらに協調ロボットや移動型ロボットなどを使った作業の検証もできる上、ユーザーの装置を持ち込み、ロボットを使った実験も行うことができるという。
最新の自動化するモノづくりを体感するだけではなく、実証、技術習得、開発まで、ワンストップでユーザーと一緒に作業することができる。モノづくりの現場は多品種少量生産が求められるようになっており、その割に熟練工の不足も同時に進行している。このため、これまでとは異なる革新的な自動化モノづくりを提供しようという訳だ。
東京は、日本経済の中心地であり、世界的な企業も集結しており、しかもアジアからと北米からのアクセスも良い。加えて、ビジネスの決定権のある経営陣も東京に常駐していることが多い。潜在顧客を取り込むには絶好の場所である。ここでビジネスを決めてもらうためにはモノづくりを基本とするオムロンにとって好都合である。
量産と違って、開発だけなら工場といえども広大な敷地は要らない。実証実験(PoC: Proof of Concept)するための設備を揃え、しかも工場の開発部門で使う最先端のオムロン製マシンを揃えておけば、マシンのショールームにもなる(図2)。もちろん今回の開発工場はショールームが目的ではない。実際に使ってみることができることが最大のウリだ。しかも最先端の高速・高機能なマシンが勢ぞろいしているため、これらのマシンを使ってPoCできると、実はIoTの利用促進といったデジタルトランスフォーメーションによる生産性向上の道のりが早くなる。
オムロンが強い、PLCコントローラとサーボモータ制御、センサ、ロボット、安全性の5つの技術を持つ企業は他にはない、と宮永氏は言い切る。同社はこれまでにも草津や刈谷にもATCを持つ。刈谷は言わずと知れたトヨタ自動車のティア1サプライヤーであるデンソーの本拠地だ。このATCにはトヨタの経営陣が来る。今後は次のクルマの工場についてコンセプトをディスカッションしたいという。
加えて、東京には半導体チップベンダーやディストリビュータ、OSベンダー、アプリケーションソフトウエアベンダーなどが集まっている。しかもIoTシステムを開発する場合のエコシステム、例えばIoTビジネス共創ラボなどの組織が揃っている。この環境を利用しない手はない。企業としていち早く生産性向上や働き方改革なども実現しやすい。開発工場が東京にあることの重要性をオムロンがいち早く見つけた、といえそうだ。
(2020/02/12)