27日からXサイトでガザの悪意のプロパガンダ画像が拡散している。瓦礫の前でリポートしているパレスチナ人の若者（フロント写真中央下）が、実はその前日、病院のベッドで重傷でベッドに横たわっている若者（同左）と同一人物というもの。イスラム研究者飯山陽氏が「ハマス劇団員」だとして、紛争の犠牲者、負傷者、病人、戦闘員など、「一人で何役もこなしている」と写真付きでポストしたこともあり、日本でも広がっている。「治療を受けている負傷者」風の男は、「有名な劇団員の一人だ」という。

　この動画や画像はイスラエルで流布しているものだが、ベッドに寝ている負傷者の男性の画像をグーグルの画像検索にかけると、ほぼ同じ写真がTiktokで見つかった（写真下左）。この写真には８月１９日の日付があり、ヌール・シャムス難民キャンプとあった。この難民キャンプはヨルダン川西岸の都市トルカレムにあるパレスチナ難民キャンプである。

　　さらにこの少年についての記事が、８月２５日付でパレスチナ系の英語ニュースサイトにあった（写真上右）。それによると、７月２４日にトルカレムでイスラエル軍の侵攻で負傷して病院に入院した１６歳の少年であることが分かった。少年はムハンマド・ゼンディクという名前である。入院時の写真は、少年の家族が撮影し、少年の友人がTiktokに挙げたものだった。

　少年は右足を負傷し、足を切断した。９月９日にはベッドの上で包帯でくるまれた切断された足を見せる少年の画像も、Tiktokに上がっている（写真下）。つまり、負傷した少年は西岸にいて、現在は車いす生活であり、翌日にガザでリポートしているというのは別人の動画ということである。

　西岸で負傷した若者の映像が「ガザのハマスレポーター」に仕立てられたわけだが、どこで入れ替わったのか。それが分かる映像がイスラエル人のポストにあった。「昨日、病院で治療を受けていたのに、今日は笑っている。なんという奇跡」と揶揄しているもので、写真左はベッドに横たわる瀕死の若者の横顔で、右は正面からの笑顔である。

　実は同一人物ではない二つの写真を、一方は斜めから映した画像を出し、もう一方は正面からの顔と連続で出すことで、「同一人物」と思い込ませるというトリックである。それによって、病院で死にそうになっていた負傷者が、翌日瓦礫の前でレポートするという中傷プロパガンダ動画・画像が生まれることになる。

　普通に考えればありえない話だが、今回のガザ攻撃では、イスラエルの空爆によってガザ市民に考えられないような犠牲を出し、国際的な非難が広がっている。悪意のイスラエル支持者が、市民の犠牲はハマスが誇張したものと嘘宣伝をするために中傷動画を作成し、拡散したものだろう。普通に考えれば、嘘であることはすぐにわかるレベルだが、バイアスがかかった人々は「ハマスが俳優を使ってガザの犠牲者を宣伝している」と信じてしまう。

　　同様のことはシリア内戦でアサド政権軍とロシア軍が反体制地域を空爆したときにもあった。その時、反政府地域で人命救助活動するホワイトヘルメットについて「同じ人物を何度も救助している」としてまるで犠牲を捏造しているというシリアのアサド政権を支持するフェイク画像によるプロパガンダがあり、日本でもアサド支持の中東研究者が記事の中で引用して拡散したことがあった。

　それは異なる場所と時期の救助場面で、似たような髪色や同じ色服を着た女児の写真を並べて「同じ子役の女の子を何度も救助」とポストしていたものだった。救助場所には１７０キロ離れて、それぞれ政権軍に包囲されている二つの都市もあった。反体制側が移動すること自体不可能で、それだけでも嘘とわかるプロパガンダだった。私は情報源にあたって、プロパガンダの嘘を突き止める記事を書いた。

　戦争は情報戦であり、イスラエル側もハマス側も自分たちを有利にするような情報発信をしている。私はイスラエルの側でも、ハマスの側でもない。しかし、市民の犠牲を嘲笑するような中傷動画を流すことはもちろん、それを十分に確認もせず拡散することも許されないと考える。

参考：シリア内戦：ホワイト・ヘルメットの人命救助を「ねつ造」とするプロパガンダのうそ　（川上泰徳）

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/22f3b1fd970e191e9d19bd8df196bd00bde0e948