Yahoo!ニュース

ネコとイヌの「舐める愛情表現」 アメショの佐助くんの遺伝子の秘密

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
まる@nanamaru0590さんのXより

イヌとネコを飼えば仲良くしてくれるのでしょうか。

筆者の動物病院に来院するイヌやネコは、同じ家にいても違う空間で生活している子が多く、それほど仲良くしていません。その一方で、獅子丸くん(キャバリア・イヌ)と佐助くん(アメリカンショートヘア・ネコ)は、種を超えて仲良くしています。

それはなぜなのでしょうか、見ていきましょう。

イヌの獅子丸くんとネコの佐助くんは仲良し

まる@nanamaru0590さんのXより

上の投稿を見ていただくと、イヌの獅子丸くんが、寝転んでいるネコの佐助くんをペロペロと舐めています。佐助くんはネコなので、獅子丸くんに爪を立てたり、威嚇したりできますが、おとなしくしています。佐助くんは「好きにして」とでも言いたげに、じっとしているのです。

上の投稿は、Xでは5.6万のいいねと311万回閲覧されています。イヌとネコがこんなに仲良くしていて、微笑ましいです。

イヌとネコがこんなに仲良くしている様子を見ると、一緒に飼いたくなりますが、これは佐助くんの遺伝子と育て方に関与しているのです。最近の研究では、ネコの「なつきやすさ」に関与する遺伝子があることがわかっています。その辺りを見ていきましょう。

イエネコの「なつきやすさ」は、オキシトシン受容体遺伝子が関与

猫のなつきやすさには、オキシトシン受容体遺伝子が関与しているといわれています※。オキシトシンは「愛情ホルモン」ともいわれ、哺乳類の社会的行動や絆形成に重要な役割を果たします。このホルモンは、ヒトがイヌやネコを撫でたときにも多く分泌されるといわれています。このホルモンが、猫のなつきやすさにも影響を与えているのです。

オキシトシン受容体遺伝子は、オキシトシン受容体の生成を指示する遺伝子で、この受容体がオキシトシンと結合することで、その効果を発揮します。

最近の研究では、イエネコのオキシトシン受容体遺伝子の中に、「なつきやすさ」に関連する遺伝子があることがわかっています。その遺伝子を持っているネコは、なつきやすく優しい性格を示します。他のネコ科の動物はこの「なつきやすさ」に関する遺伝子を持っていないようです。

筆者が獣医師になった頃は、イエネコはもっと凶暴で、採血などが難しかったのですが、時代が流れるにつれて、ヒトになつきやすいネコが生き残り、オキシトシン受容体遺伝子の中に「なつきやすさ」を持つネコが増えているのかもしれません。

まとめると、ネコの佐助くんはオキシトシン受容体遺伝子の「なつきやすさ」を持っているおとなしいネコなのでしょう。それで、より社交的でなつきやすい傾向があり、獅子丸くんと仲良くできるのでしょう。

佐助くんは獅子丸くんの子犬の頃から一緒で仲良しだった

まる@nanamaru0590さんのXより

実は、獅子丸くんは子犬のときにやって来て、上の投稿のように佐助くんに舐められて可愛がってもらっていたのです。キャバリアは体重が9〜11kgになるイヌなので成犬になれば、ネコのアメリカンショートヘアは3〜6kgが成猫の体重なので、それよりも大きくなります。

佐助くんにとっては、舐めて可愛がっていた獅子丸くんが大きくなり、びっくりしているのでしょう。佐助くんは、獅子丸くんが子犬のときから遊んでいたので、成犬になっても遊ぼうと誘ってきた獅子丸くんに対して、我慢しているのかもしれません。

まとめると、佐助くんはオキシトシン受容体遺伝子の「なつきやすさ」を持っているおとなしいネコで、なおかつ獅子丸くんが小さいときから遊んでいたので、獅子丸くんが成犬になっても仲良く遊ぶことができたのでしょう。

イヌとネコが動物を舐める行動

まる@nanamaru0590さんのXより

イヌとネコが他の動物を舐めることはよくあります。診察をしていると、点滴の間中、飼い主の腕を舐めているイヌもいます。なぜ、イヌやネコは他の動物を舐めるのかを見ていきましょう。

□イヌとネコの舐める行動の共通点

共通点として、イヌもネコも舐める行動を通じて絆を強化します。イヌもネコも他の動物やヒトを舐めることで友好の意を示し、親密さや愛情、安心感を伝えます。また、どちらの動物もストレスを軽減するために自分自身や他の動物を舐めることがあります。

□イヌとネコの舐める行動の違い

一方で、違いも明確です。イヌの舐める行動は非常に社交的で、積極的なコミュニケーション手段として頻繁に見られます。イヌは他のイヌやヒトとの関係を築くために、舐める行動を多用します。これはイヌが群れで生活する動物であり、強い社会的構造を持っているためです。イヌは飼い主や他のイヌとの絆を深めるために、舐める行動を積極的に行います。

ネコの舐める行動はもう少し控えめで、特定の状況や相手に限られることが多いです。ネコは一般的に単独で生活します。また、ネコは清潔さを保つために自分自身を舐める行動が多く見られますが、他の動物を舐めるのは比較的少ないです。

まとめ

まる@nanamaru0590さんのXより

成犬や成猫になっても、獅子丸くんと佐助くんのように仲良く舐め合うのは珍しいことです。

ネコの佐助くんには、「なつきやすさ」の遺伝子をたぶん持っていて、そのうえ、獅子丸くんの子犬の頃から一緒にいたことが良かったのでしょう。獅子丸くんは天国にいきましたが、佐助くんは元気にしています。

彼らの飼い主は、動画をあげることで、獅子丸くんの思い出を振り返っているのです。そして、SNSの中で、飼い主の中で、獅子丸くんは生き続けていくのでしょう。

※『知りたい! ネコごころ』髙木佐保著 岩波書店 を参考にしています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事