アウシュビッツにシール「ロシア人へのガスはチクロンBだけ」博物館「偽物画像でプロパガンダ」と否定
ロシア機関のツイッターでプロパガンダ拡散「情報戦」
アウシュビッツ絶滅収容所跡地のアウシュビッツ博物館の柵などに「ロシアとロシア人よ、君らが受けられるガスはチクロンBだけだ(“Russia and Russians,the only gas you and your country deserve is Zykon B”)」と書かれたシールが貼られているという写真を2022年6月にロシア当局関係のツイッターなどで拡散されていた。
これに対してアウシュビッツ博物館では、職員が該当する場所を徹底的に探したがこのシールは全く見つからなかった、また画像をセンサーで精査したところシールは偽物であることが発覚。アウシュビッツ博物館では「この画像は明らかに嘘であり、プロパガンダです」と発表した。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して勃発したウクライナ紛争では、このようなプロパガンダによる「情報戦争」もSNSで頻繁に見られる。その多くはフェイクニュースや偽情報で、自分たちが優位になり、相手を貶める投稿を拡散している。
「かつてガス室で多くのユダヤ人が殺害されたアウシュビッツ博物館にロシア人を標的にした反ロシアを訴えたシールが、反ロシアの人たちによって貼られていた」ということをSNSでアピールしたかったのだろう。だがアウシュビッツ博物館の徹底した調査によって偽画像だったことが判明。
▼アウシュビッツ博物館がセンサーで調査してシールが偽物と判明
第2次大戦時にナチスドイツは約600万人以上のユダヤ人やロマ、政治犯、同性愛者などを殺害した。ポーランドに設置されたアウシュビッツ絶滅収容所では約110万人が殺害された。ホロコーストで殺害された約5人に1人がアウシュビッツで命を落とした。アウシュビッツ絶滅収容所は1945年1月にソ連軍によって解放された。ナチスのユダヤ人政策は「労働を通じた絶滅」だったため、アウシュビッツ絶滅収容所に到着したユダヤ人、ソ連兵捕虜らで労働に耐えられないと判断された子供や老人は即座にガス室に送られて殺害された。そのガス室で使用されていたのがチクロンBである。
ナチスドイツで最初にガス室で殺害されたのはドイツの精神障害者で、彼らは純度の高い一酸化炭素ガスで窒息死させられた。それが東欧に設置された絶滅収容所でも利用されるようになった。当初は改造したトラックに排気ガスを引き込んでいたが、そのうち大型ディーゼル・エンジンを備えた堅固なガス室を使うようになった。チクロンBはディーゼル・エンジンの排気ガスよりも、早く殺害できる、つまりユダヤ人が苦しむ時間が短いということから、アウシュビッツ収容所長のルドルフヘスは、チクロンBを使う方が人間的だと自慢していた。また鉄砲の弾は貴重なため銃殺するよりも、チクロンガスのガス室で殺害する方が安上がりだった。
アウシュビッツの5つのガス室では24時間に6万人の老若男女を殺害できた。そしてナチスドイツはユダヤ人殺戮がピークに達していた1944年の夏には、チクロンBが非常に高価なものだったことから、ガスの量を半減することにした。つまりユダヤ人がガス室で呼吸困難で死ぬまでの時間を倍に引き延ばすことによって費用を半分に節減した。末期には毒ガス費用削減のために、子供たちは生きたまま焼却炉に投げ込まれていた。
今でも欧米では反ユダヤ主義が根強く、反ユダヤの投稿やユダヤ人憎悪の投稿はSNSには非常に多い。アウシュビッツ博物館やホロコースト博物館、ユダヤ機関、著名なユダヤ人はこのようなホロコーストやガス室をネタにした反ユダヤ主義のプロパガンダ投稿の標的にされやすい。またそのような反ユダヤ主義的な投稿には世界中のユダヤ機関が怒りを表明するので非常に目立ち、話題になる。そのため反ユダヤ主義者やプロパガンダを拡散したい人にとってアウシュビッツ絶滅収容所やホロコーストの歴史のネタを使ったSNSへの投稿はプロパガンダ拡散にうってつけである。
▼ロシア機関によるプロパガンダと見られる投稿
▼アウシュビッツ博物館による否定