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日向坂46の齊藤京子というアイドルは、なぜいつも最高の形で見る側の期待値を裏切るのか?

いしたにまさきブロガー/ライター/アドバイザー
YouTube 日向坂46 齊藤京子『死んじゃうくらい、抱きしめて。』 著者作成

齊藤京子というアイドルがいます。坂道グループの日向坂46の一員であり、表題曲でも、ほぼフロントにいる人気メンバーの1人です。

個人の活動でも、写真集は15万部。売れているアイドルたちの中でもほとんどいない自分の名前が(半分)入った「キョコロヒー」という冠番組をやってもいます(ど深夜ではじまったこの番組が成り上がっていく話も面白いのですが、その話は今回はなしで)。

でも、この齊藤京子というアイドル。なにか普通のアイドルと少し違うのです。

デビュー直後は、アイドルなのに声が低い、アイドルなのにラーメン大好き、なんていうことも注目されましたが、どうもその程度のことではなく、なにかもっと深いところでなにか違うのです。

例えば、インスタ。

現役のアイドル(それも坂道の)がインスタをやることも珍しいことではなくなっています。また、なぜかフィルムカメラが流行だったりもします。なので「私はこんなカメラ使ってます」という感じの投稿というのはけっこうあります。それ系だと、いちばん有名なのはBLACKPINKのLISAでしょう。

ところが、齊藤京子がそういった、自分のカメラ見せます投稿で見せたのは、フイルムでも一眼でもないFUJIのX-Pro3と35mmの明るいレンズという組み合わせ(推測)。これ、顔が小さいのもありますが、そもそもカメラが大きいのです。

・齊藤京子のインスタ:https://www.instagram.com/p/ChcEjV0P4V3/

X-Pro3は光学とEVFのハイブリッドファインダーを搭載し、優れたフィルムシミュレーション機能を持っているカメラですが、カメラ愛好家の中でもかなり玄人な人たちが使うカメラです。どうかしてますよね?、でも最高だ。

そして、個人PV。

アイドルの個人PVといえば、グループ活動では見せない一面を見せるというのは常套手段ではありますが、80年代アイドル調全開の曲のPVのような個人PVが展開されます。

これは本人が80年代アイドルが好きで、かつそういう曲を歌うことを自分の活動の中でもやっているからこその内容ですが、それにしても個人PVのために専用の80年代アイドル風の楽曲まで用意するというのは何事ですか。もちろん、この個人PVの原案は齊藤京子本人です。なぜなのだ?、でも最高だ。

そして、この個人PVを見ればわかることですが、齊藤京子というアイドルはかなり歌えるアイドルです。おそらくアイドルになりたい以上に歌手になりたかった人なのではないかと思えるほどです。

それは例えば、MTVでソロライブをやっていることからもわかります。公開が延長された以下の動画も、そのMTVでのイベントで披露された一曲です。

齊藤京子の歌に対する真摯な姿勢は、THE FIRST TAKEで公開された動画からもわかります。

自分の所属するグループの表題曲を(センターでもないのに)ソロで別アレンジで歌うというのは、ちょっとした難題です。でも、その難題にも嬉々として挑戦するわけです。なんでなの?、でも最高だ。

その姿勢は、アプリのメンバー個別イベントでもソロライブを選ぶほど徹底しており、そのセットリストも自分のソロ曲で新旧のヒット曲をはさむというものでした。なんでそこでその曲を披露しちゃうの?、でも最高だ。

もう少し続きます。

2021年の12月に日向坂46 冬の大ユニット ”X'mas スペシャル” というライブのようなイベントのようなものがありました。これは「ひなくり2021」という年末の恒例ライブの前夜祭として位置づけられたものです。

当日のライブの様子も、普段のガチライブとはなにもかも違っていて、よい意味でわいわいとしたカラオケ大会のような雰囲気もありました。

ところが、この日の齊藤京子はなんだかずっと上の空でした。バラエティーパートでも、きょうの齊藤京子は体調でも悪いのだろうかと思うほどでした。

ただ、なぜそうであったのかのなぞは、最後のオオトリで齊藤京子がBoAの『メリクリ』を歌いだした瞬間に氷解しました。

この日、全部で14曲もの曲が披露されましたが、ひとりだけ本気も本気のど本気で歌い上げる齊藤京子の姿がそこにはありました。

声がきつくなると、手のひらで腹筋を押し込む姿には、その日のライブの趣旨を忘れさせるだけのパワーがありました。

そりゃびっくりするわけです。わーい、きょうはお祭りだ!と思ってきたら、最後にガチ歌とその歌う姿に涙するとはだれも思わないわけですから。

その曲を選んだ理由を、齊藤京子は自分のブログで「挑戦してみたかったから」と説明しています。ただどうしてそうなった?、でも最高だ。

かくも齊藤京子というアイドルは、こっち側の(一方的ではありますが)期待値を最高の形でいつも裏切ってくれます。

しかしだ。なぜ、よくそんな感じになってしまうのでしょうか?

そのなぞを解くカギがひとつあります。「キョコロヒー」の演出である舟橋政宏氏が対談でこんな話をしています。

舟橋:齊藤さんは嘘を言わないというか、本当のことしか言いません。それが結果的にバラエティーのセオリーと逆にいくので、予定調和にならない気がします。

引用元:サトミツ×舟橋政宏が明かす「キョコロヒー」舞台裏…齊藤京子&ヒコロヒーの魅力とは

そうなんですよね。齊藤京子というアイドルは嘘はつかないし、いつも本気なんです。そして、それを貫くことがそう簡単ではないことは、アイドルという仕事をしたことがなくてもなんとなくみなさんわかることなのではないかと思います。

そして、その本気ぶりが今の状況でのアイドル活動において、プラスの方向に働いているのは、上の舟橋氏による話でもわかるところです。

アイドルに限らず、芸事の世界とはルールはないようであり、あるようでない世界であると言っていいでしょう。そういう答えのない世界では、その場でのパフォーマンスの強さが大事になってきます。

そして、齊藤京子のパフォーマンスの強さを支えているのが、もちろん培ってきた技術があってこその話ではありますが、いつも本気である、ということなのだと思います。

ただ、期待値をただ裏切るなんて簡単ですよね。わけのわからないことを言ったりすればいいだけ、でもそれではその場が台無しになるだけです。

期待値を裏切りつつも、その期待値の先にしかないパフォーマンス以上のものを見せてくれるから、齊藤京子の本気は支持されるわけです。ええ、最高なんですよ。

さて、最後に。なぜ、私は今、こんな記事を書いたのでしょう。

それは、私も最高の形で読者の期待値を裏切ってみたくなったからなんです(ホントは『ラブカ?』の期間限定公開が延長されたことに今頃気づいたからです)。

そして、キョコロヒーの放送時間帯昇格と全国放送おめでとうございます。

【追記】

★キョコロヒー時間帯昇格&全国放送発表の舞台裏」の動画が公開されたので追記します。とにかく、おめでとうございます。

ブロガー/ライター/アドバイザー

Webサービス・ネット・ガジェットを紹介する考古学的レビューブログ『みたいもん!』管理人。2002年メディア芸術祭特別賞、2007年第5回Webクリエーションアウォード・Web人ユニット賞受賞。「ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である(技術評論社)」「あたらしい書斎(インプレス)」など著書多数。2011年9月より内閣広報室・IT広報アドバイザーに就任。ひらくPCバッグ・かわるビジネスリュックなど、ネット発のカバンプロデュースも好調。 #カゲサポ

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