Yahoo!ニュース

緊急事態宣言延長と五輪開催へのこだわり、なぜこの国から「保留癖」と「玉虫色的決着」が無くならないのか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
緊急事態宣言の延長には見立ての甘さの批判も多い(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 3度目となる緊急事態宣言も例外なく「延長」となり、5月31日までとなりました。地域も福岡県・愛知県が新たに追加され、まん延防止の地域も拡大しています。これまでの経緯から「緊急事態宣言は延長されるもの」という認識が広く国民に根付いてしまったとともに、場当たり的な対応にもみえる政府の政策に疑問を持つ人が多いのもまた事実です。コロナ禍もすでに1年が経過するなかで、なぜこのような政策意思決定がなされ続けるのでしょうか。根本的な問題について掘り下げて考えてみたいと思います。

行政府の悪い風習「保留癖」

 筆者が、特にこのコロナ禍において問題だと思っている根本的なところは、とどのつまり「保留癖」「玉虫色的決着」という思想です。

 行政府・立法府はこのコロナ禍においても、現行法制の枠組みの中で最適な対応が求められ、または現行法制では対応できない事象があれば速やかに法改正を行って対応していくことが求められます。

 一方、特にコロナ禍の対応にとおいては、例えば今回の緊急事態宣言延長のように、「まずは当座の対応をして、様子を見る」という場当たり的で近視眼的な対応が続いていると言わざるを得ません。3回目となる緊急事態宣言は令和3年4月25日(日曜日)から5月11日(火曜日)までの17日間で出されましたが、この期間は不十分だという指摘が専門家からは当初上がっていました。新規感染者数が上昇傾向にある中で、菅首相は「連休中の人流を減少させるという目的には一定の効果があった」と述べていましたが、緊急事態宣言の目的はそれだけなのでしょうか。連休中は医療機関が休業するなどして新規感染者数の報告が遅れ、見かけ上の数字が下がることは、既にこの1年間に何度も経験をしたことで、明らかなことです。仮に最初の発出時に「延長ありき」なのであって、しかも「延長ありき」であることを事前に言わない形で当初の期間を設定したのであれば、これは説明責任の問題でもあり、また「自粛」という行為に対する行動心理の悪影響(緊急事態宣言はどうせ延長されるのだ、更に自粛をしたって結果的には延長になるのだから「宣言」や「宣言を発出する主体である政府」は信用ならない、という思考)をもたらすことも明らかです。

 はっきり言えば今回の緊急事態宣言の延長は、当初の緊急事態宣言そのものが「問題の先送り」という思考そのものであり、単なる保留癖だったと言わざるを得ません。緊急事態宣言はいつか解除しなければならないものですが、その解除の目安に近づかせるためではなく、単なる連休中の人流抑制だったのであれば、緊急事態宣言の本来の趣旨とは異なる発出だったとも言えます。誰の目に見ても東京五輪開催やバッハIOC会長来日のために期限を忖度したことは明らかですから、そのことも踏まえれば「とりあえず緊急事態宣言を発出し、連休の人流抑制で一気に感染者が下がればラッキー、そうでなければその時点で再度考えよう」という思想が透けて見えます。

もう一つの悪い癖である「玉虫色的決着」

東京・大阪の百貨店の休業は当面の間続くことになる
東京・大阪の百貨店の休業は当面の間続くことになる写真:アフロ

 さらに「玉虫色的決着」も悪しき伝統です。今回の延長に際しては、「基本的対処方針」を改定し、大規模商業施設(百貨店やSC)に対する要請内容を「生活必需品売場を除く全面休業」から、「(売場関係なく)夜8時までの営業時間短縮」と緩和しました。また、スポーツを含む各種イベントの観客動員についても、「原則無観客」から、「上限5000人・収容率50%のいずれか少ない方」と緩和をしています。

 現実問題として新規感染者数が良く見ても(連休における検査数減のせいで)横ばい、悪く見たら増加(悪化)している状況だからこその宣言延長にもかかわらず、上記のような対策緩和をすることは矛盾なのは明らかです。菅首相は7日の会見で次のように述べています。

(テレビ東京篠原記者の質問)大規模商業施設の休業要請の緩和についてお伺いします。これは経済にプラスになると、そういう見方もある一方で、感染対策を緩めることになるのではないかという批判もあります。この点について、総理はどのようにお考えでしょうか。

(菅首相)まず、ゴールデンウィークという大型連休に合わせて、国民の皆さんに、まず短期集中の措置を行いました。そういう意味で、今後、平常の時期に戻ったということで、緩和というよりも、そこについて前回の緊急事態宣言でも行っていなかったことであります。そこはやはり非常に大きな制約を与えることになりますので、前回の緊急事態宣言のときも行っていませんでした。そうしたことの対応をさせていただくということであります。

 もちろん、大規模商業施設(百貨店やSC)に対する従前の休業要請が短期集中の措置だったと当初から説明があり、その短期集中の措置に対する十分な補償があれば、まだ納得感はあったでしょう。しかし一方で、振り返ってみたときに「GW期間中の短期集中の措置だから休業をしてくれ。百貨店の協力金は20万円、テナントは2万円」では、なおさら納得感が得られません。厳しい言い方ですが、当初の休業要請(と不十分な協力金が)政策ミスであったことを素直に表明すれば良かったのではないのでしょうか。

 いずれにせよ、宣言延長に伴う大規模商業施設への休業要請緩和については、東京都・大阪府は(従前の)「生活必需品売場を除く全面休業」を維持し、兵庫県は政府の要請をさらに短縮した「(売場関係なく)夜7時までの営業時間短縮」とし、愛知県は政府の要請通り「(売場関係なく)夜8時までの営業時間短縮」とする方向で検討していると報じられています。政府の要請が実態と即していないと判断され自治体毎に温度差が出れば、結果として都道府県境またぎの人流が発生することになります。このような決着になるのであれば、欧州やオセアニアのような厳格なロックダウンというメリハリの効いた対応の方が効果が高かったのではないか、という指摘も出てくることは当然でしょう。

すでに起こった未来は体系的に見つけられる

 例えば、緊急事態宣言の解除が本当に数週間後に可能かどうかという点を見てみましょう。緊急事態宣言の解除については、解除基準としてステージ4から脱却してステージ3に入っていることというのがこれまでの説明でした。

 また、昨日7日の首相記者会見では、尾身会長が以下のように述べてます。

ステージ3に入って、しかもステージ2の方に安定的な下降傾向が認められるということが非常に重要。それからもう一つは、感染者の数も重要ですけれども、解除に当たっては医療状況のひっ迫というものが改善されているということが重要だと思います。

 それから、今回は明らかに変異株の影響というのが前回に比べて極めて重要な要素になっていますので、今回は、いずれ解除するときには、今まで以上に慎重にやる必要があると思います。

(中略)

普通、我々感染症の専門家の常識を考えると、下げ止まっても、大まかな目安ですけれども、2~3週間はぐっと我慢するということが次の大きなリバウンドになるまでの時間稼ぎをできるということで、そういうことが必要だと思います。

 では、実際にステージ3に入るのはいつでしょうか?

 政府が緊急事態宣言解除の目安とする「ステージ3(感染急増)」とは、東京都であれば新規感染者数が7日平均で500人という目安になります。まず新規陽性者数が今現在でどれぐらいかを見てみたいと思います。

東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用(2021年5月8日取得)
東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用(2021年5月8日取得)

 上図でもわかるように、東京都では4月15日に7日平均で500人という「ステージ3(感染急増)」基準を超えた、GW期間中を除けば一本調子で増え続けていることがわかります。ではGW期間中に感染者が激増したのは実際に「感染縮小傾向」に転じたと見なして良いのでしょうか。先行指標である「発熱相談センター相談件数」や「コロナコールセンター相談件数」を見てみましょう。

東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用(2021年5月8日取得)
東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用(2021年5月8日取得)

東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用(2021年5月8日取得)
東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用(2021年5月8日取得)

 これらの先行指標はGW期間中も上昇傾向にありました。特に発熱相談センターの件数は、(かかりつけ医などがGW期間中休業になってコールセンターへの電話が増えるといった傾向を踏まえても)急増しており、今後の感染拡大を予期させるものです。

大統領自由勲章を受章する経営学者P.F.ドラッカー氏
大統領自由勲章を受章する経営学者P.F.ドラッカー氏写真:ロイター/アフロ

 経営学者P.F.ドラッカー氏は、「すでに起こった未来は体系的に見つけられる」(『創造する経営者』)という言葉を残しています。人口や社会や経済といった「変化」は、更なる「変化」をもたらすが、そこにはタイムラグがあり、体系的に見つけることができるという意味です。例えば今年の「出生数減少」は、6年後の「小学校入学者減少」であり、20年後の「年金支払者減少」であり「労働者減少」であるように、今起きている問題は将来に対する確実性のある未来だと言えばわかりやすいでしょうか。これらは不確実な予測や想像ではなく、将来的に必ずやってくる未来であり、その事象を「すでに起こった未来(the future that has already happened)」と名付けました。

 コロナに関する一連の政策決定こそ、まさにこの「すでに起こった未来」を活用すべきなのです。コロナも、実際の感染から発症、検査結果の判明(陽性確定)、重症者にはタイムラグがあります。このタイムラグを意識した政策決定が、少なくとも政府にはできていないと筆者はみています。東京都や大阪府はこういった先行指標の数字も見ていますが、それでも東京都ではまだモニタリング指標ではないことから、「今後どういった傾向になるか」という将来の観察としてはこれでもまだ不十分かも知れません。来週、再来週の医療供給体制がどうなるのか、という点を考えれば、中長期的な対応とまでは言わずとも、場当たり的な対応は防げるはずです。いずれにせよ、限られたリソース(医療資源)を適切に分配していても資源に上限がある以上、このGW明けの状況からどうやって「5月31日」に緊急事態宣言が終えられると考えているのか、明確な「未来」を首相が提示しなければ、政府に対する信頼が下がり続けるだけでなく、自粛要請の実質的効果も下がり続けるだけです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

大濱崎卓真の最近の記事