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トラスショックを思い出せ、帰ってきた債券自警団?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2022年9月に英国でトラスショックが起きたことを覚えているであろうか。英ポンドが対ドルで過去最安値を記録し、英国債が大きく売られたという出来事である。

 ジョンソンの党首辞任を受けて行われた保守党党首選挙で勝利し、2022年9月6日に首相に任命されたのがメアリー・エリザベス・トラス氏であった。英国で3人目の女性首相で、女王エリザベス2世に任命された最後の首相でもあった。

 トラス英政権は1972年以来の大規模な減税を打ち出した。クワーテング英財務相は不動産購入時の印紙税を削減。個人や企業が直面する光熱費の高騰に対し、今後6カ月間で600億ポンド(約9兆5000億円)を拠出して支援することを確認。高額所得者に対する45%の所得税最高税率を廃止し、基礎税率も20%から19%に引き下げる。ロンドンの金融街シティーに対する規制自由化も約束し、バンカーの賞与制限は撤廃する。

 英債務管理庁(DMO)は23日、2023会計年度(2022年4月~2023年3月)の国債発行額が1939億ポンドに増額されると発表。4月時点では1315億ポンドを計画していた。

 イングランド銀行は22日に0.5%の利上げ決定を発表し、保有する英国債の市場での売却を始めると発表した。これを受けて英国債は22日に10年債利回りは3.49%と16日の3.31%から大きく上昇していたが、トラス政権の1972年以来の大型減税と国債増発を受けて、火に油が注がれた格好となった。

 23日のロンドン市場では英国債の利回りが急騰した。2年債利回りは前日より一時、0.4%あまり上昇して4%を上回り、2008年10月以来約14年ぶりの水準となった。政府債務増への懸念とともに、減税策がインフレをさらに加速させかねないとの懸念も強まったのである。

 これをきっかけに英国の10年債利回りだけでなく、米国債の利回りも上昇圧力も加わった。これについて「債券自警団」が戻ってきたと表現する向きもあった。英国の10年債利回りも、一時4%を超えてきたのである。

 その後、英国の10年債利回りは3%あたりまで低下したが、今年2月あたりから再び上昇基調となり、トラスショック以来の4%台に上昇してきている。23日には4.15%、そして4月の英CPIが予想を上回ったこともあり、24日には4.20%に上昇した。

 英政府統計局によると3月の公的部門による借り入れが215億ポンドと3月としては遡ることができる1993年以降、過去2番目の大きさとなっていた。これもひとつの要因とされたようだが、財政悪化を受けて再び「債券自警団」が戻ってきた可能性がある。これは決して他人事ではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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