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不当懲戒請求者に対する訴訟の東京高裁判決について

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
私を訴えた事件で懲戒請求者が裁判所に出した書面の一部(赤線は筆者が加工)

 一昨年来、インターネット上で、弁護士会ないし特定の弁護士に対する懲戒請求を呼びかけているあるブログサイトに賛同した者が、同サイトに掲載されている懲戒請求の雛形を利用し、付和雷同的に多数人が集中して一部の弁護士に懲戒請求を行う事例が問題となっておりました。

 私もなぜかその対象とされ、そのことについては、下記記事に書いております。

<大量懲戒請求>提訴に至る経緯とその意義について

提訴までの事実経過のおさらい

 上記記事には詳細を記載しましたが、本件を少しおさらいします。

 

 まず、私に対する懲戒請求の理由は、

違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し,その活動を推進する行為は,日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である

 というものでした。

 しかし、そもそも私は東京弁護士会の役員でもなく、この声明の発出に一切関与していませんでしたので、なんで懲戒請求されたのだろうか? という思いでした。と、同時に、だんだんと増え続ける見ず知らずの人からの懲戒請求書を見て、得も言われぬ恐怖心を感じていました。

 さらに、北周士弁護士及び嶋崎量弁護士が、Twitter上において、私に対する多数の懲戒請求について同情的な投稿をしたところ、それを理由に、多数の懲戒請求を受けるに至り、これは誰かが止めないと止まらないと思い、北弁護士、嶋崎弁護士とも相談して、懲戒請求者に対して損害賠償請求をすることを決め、昨年6月には記者会見を開きました。

 なお、懲戒請求の件数は、私に対し3種類・約3000件、北弁護士・嶋崎弁護士に対しては1種類・約960件に及びました。

不当な懲戒請求は不法行為となる

 前提として、弁護士法にあるとおり、弁護士に対する懲戒請求は、誰でもできるようになっています。

 つまり、依頼者や事件関係者などの縛りはありません。

 こうした弁護士懲戒制度の趣旨は、「深い教養の維持と高い品性の陶冶が求められる弁護士の業務活動を戒め、もって国民の基本的人権及び社会正義の実現に資する点にある」とされております。

 もっとも、だからと言って、事実無根のことで懲戒請求をすることは許されず、それは場合によっては、虚偽告訴罪(刑法172条)として、刑事事件にもなります。

 また、民事においても、根拠のない懲戒請求は、不法行為に当たるという確立した最高裁判例があります。

 詳しく言うと、弁護士への懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成する最高裁判例とされているのです。

 そして、本件各懲戒請求は、その懲戒請求理由の内容や方法を見る限り、さらに、その後の法廷における彼ら・彼女らの主張を見る限り、この弁護士懲戒制度の趣旨に沿ったものではなく、単に、ブログ主が目をつけた個々の弁護士を攻撃するために、その弁護士たちの自由な活動や業務を妨害し、その名誉等を毀損することそのものを目的としたものと言わざるを得ません。

 これは、前記の弁護士懲戒制度の趣旨を大きく逸脱するものと断ぜざるを得ません。

それぞれ提訴へ

 こうした最高裁判例等を踏まえ、昨年11月2日、私と北弁護士は懲戒請求者ら6名を被告として東京地裁に損害賠償請求訴訟を提起し、嶋崎弁護士も同年11月30日に横浜地裁に同様に提訴致しました。

 その後も順次提訴を重ね、現在、私と北弁護士の提訴した事件数は29件(被告数約330名、大阪地裁、広島地裁、福岡地裁に提訴したものも含む)、嶋崎弁護士の提訴した事件数は18件(被告数約170名)となっています。

 そして、今後も提訴を予定しております。

判決が下され始める

 既に、嶋崎弁護士の事件で、2019年4月11日に横浜地裁(石橋俊一裁判長)において懲戒請求をした者1名につき33万円(請求額全部認容)の賠償を命じる判決がありました。

懲戒請求で「余命」読者6人に各33万円の支払い命令 嶋崎弁護士勝訴

 さらに、同年4月12日には私と北弁護士の事件で、東京地裁(谷口安史裁判長)において懲戒請求をした者1名につき30万円(一部認容)の賠償を命じる判決が下されました。

ブログ懲戒請求に賠償命令 「根拠ない」弁護士側勝訴

 その後も、慰謝料額や弁護士費用を認容するか・しないかで違いは見られるものの、順次判決が下され、既にその判決数は10件を超えています。

 そして、いずれの判決においても、懲戒請求者の行った3名の弁護士に対する懲戒請求は不法行為であると認定されました。

逆に提訴される

 そうした中で、私や北弁護士、嶋崎弁護士を、懲戒請求者らが逆に提訴してくるという事件も起きました。

 私たちが懲戒請求者らを提訴すると予告したり、和解を呼びかけたことや、実際に裁判をしていることで精神的に傷ついたという主張でした。

 私に対するものは、懲戒請求者ら103名が慰謝料5150万円を求めるという訴訟でした。

 しかし、上記のうち私に対する裁判で、裁判長が、被害の具体的な内容を主張するように懲戒請求者らに求めたところ、次のような主張を含んだものでした。

佐々木亮の存在そのものが被害をもたらしていると言っても過言ではない。

 これにはさすがに絶句しましたが、彼らの隠さざる本心なのだと思います。

 なお、この事件は既に結審しており、2019年12月25日が判決日となっております。

初の東京高裁判決

 そして、嶋崎弁護士及び佐々木・北弁護士が原告となっている事件において、初の高等裁判所での判決が言い渡されました。

 まず、2019年9月18日、東京高等裁判所第11民事部(野山宏裁判長)において、横浜地裁で満額認容された判決に対し懲戒請求者らが控訴した事件につき、控訴棄却の判決がありました(嶋崎弁護士の完全勝訴)。

 同判決において裁判所は、「なお書き」において「全く根拠のない懲戒請求を多数申し立てる行為は、弁護士法58条2項により事案の調査義務を負う弁護士会に対する迷惑行為に当たり、弁護士会に無用な事務及び無用な費用の膨大な負担を負わせることにより、公益を害する行為となる」と、今般の懲戒請求者らの懲戒請求を厳しく断じています。

 また、2019年10月3日、東京高等裁判所第2民事部(白石史子裁判長)において、東京地裁で30万円認容された判決に対し懲戒請求者らが控訴し、佐々木・北弁護士が敗訴部分(3万円分)を附帯控訴した事件について、懲戒請求者らの控訴を棄却し、佐々木・北弁護士の附帯控訴を認容して、原判決の懲戒請求者1名について30万円との判決を33万円に変更する判決が下されました(私・北弁護士の完全勝訴)。

 同判決では、「懲戒請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、懲戒請求事実上及び法律上の根拠が欠けていないことについて通常人としての普通の注意を払うべきである」として、今回の懲戒請求については、「通常人であれば普通の注意を払うことにより、本件各懲戒請求1及び2が事実上又は法律上の根拠を欠くことは知り得たというべき」としました。

 両高裁判決は、共に、懲戒請求者がした1件の懲戒請求につき1つの不法行為が成立すると判断しており、また、3名の弁護士が受けた精神的苦痛の内容として、「見ず知らずの者から不当な害意を向けられるという恐怖を感じたこと」を評価し、1つの不法行為につき慰謝料30万円が相当と判断しています(また、3万円の弁護士費用も認容)。

大量懲戒請求に見る我が国の病理

 大量懲戒請求は、驚くことに、高齢者がほとんどという印象です。

 もちろん、1000名もいるので、中には若い人がいるのかもしれませんが、少なくとも、この事件をきっかけに接触した私に対して懲戒請求をした人たちは、私より世代が上という印象を持ちました。

 和解した人の中には、なぜこんなことをしたのかを手紙などで教えてくれる人もいます。

 多くは、「ブログの記載を信じ込んでしまった」「日本のためになることだと洗脳されていた」というものです。

 私はこうした社会現象を分析する専門家ではありませんが、おそらく、彼らの心のどこかにある、日本を誇りに思いたいという気持ちの裏返しとして隣国を蔑みたいという気持ちがあり、その隙間にうまくブログの内容が入り込んだのではないでしょうか。そして、同種の主張をするまとめサイトやその他のブログ、YouTubeなどの動画を見て気持ちを強めていき、さらには実際に売られている書籍を読んで確信を得たのではないかと思います。

 しかし、普通に考える力があれば、仮にそうした主張を信じたとしても、無関係の弁護士を次々と懲戒請求をするような行為を起こすことはないでしょう。ところが、これを易々とやってしまう高齢者が多数いるということは、今の我が国の閉塞感が、若者だけでなく、高齢者に対しても形を変えて影響を与えているのだろうと思われます。

 裁判はまだまだ続きます。引き続きご注目ください。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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