29年ぶり優勝の韓国LG「沖縄の泡盛」で乾杯 元球団オーナーから受け継いだ四半世紀超のロマンがあった
韓国KBOリーグはLGツインズが韓国シリーズを制して3度目のチャンピオンになった。LGの優勝は29年ぶり、韓国シリーズ出場も21年ぶりだ。韓国ではLGが公式戦を1位で終えシリーズ直行が決まった時から、ある「酒甕(さかがめ)」の話題で盛り上がった。
「あの酒はまだ飲めるのか?」
「あの酒」とはLGが前回優勝した1994年の翌95年に端を発する。当時沖縄で春季キャンプを行った際にLGの初代球団オーナー、ク・ボンム前LGグループ会長(故人)が「今年も優勝したら祝勝会で飲もう」と持ち帰った沖縄の特産品・泡盛の酒甕のことを指す。
しかしその後のLGは優勝から大きく遠ざかり、ク前会長は18年5月に73歳で逝去。ク前会長が買った泡盛の甕3つは球団施設に貯蔵され続け、そのうちの1つは2軍施設に展示されていた。
その泡盛の名は「はんたばる」。端っこを意味する沖縄の方言で、地名にもなっている。それはどんな酒か。はんたばるを製造、販売する泰石(たいこく)酒造の安田泰治社長に訊いた。
はんたばるは純粋な泡盛ではなく「甲乙混和酒」に分類される。泡盛は焼酎類に属するが焼酎とは製造法が異なり、一般的な焼酎は「甲類焼酎」、泡盛は「乙類焼酎」に分けられる。はんたばるは泡盛と焼酎がブレンドされた酒。沖縄で甲乙混和酒を造っているのは泰石酒造だけだ。
泰石酒造は90年代にLGがキャンプを行ったうるま市(当時の名称は具志川市)に所在。安田社長はLGが沖縄にやってきた頃のことを覚えていた。
「地元の商工会青年部と当時のLGの宿泊先(春日観光ホテル)のみんなで、『LGを応援しよう』と活動しました」
安田社長らは具志川球場で選手たちにキムチチゲを振る舞った。一方のLGの選手・コーチは週末に地元の少年少女を相手に野球教室を開催。交流を重ねていった。
安田社長はLG関係者が28年前にはんたばるを購入したことも記憶していた。「優勝したら祝勝会で飲むと聞きました」。その当時のはんたばるの甕が今もあることを安田社長に伝えると、「28年も大事に置いていてくれて嬉しいです。びっくりしました」と驚いた。そして「韓国で話題になっているとはまったく知りませんでした」と話した。
29年ぶりの優勝でようやう蓋を開くことになったはんたばるの甕。しかし当時の酒を今でも飲めるのか。安田社長は「はんたばるが入った甕はピンホール状の小さな穴が開いていて蓋はいびつです。密封されていないので、かなり蒸発しているのではないでしょうか。我々は蒸発した酒のことを『天使の分け前』と呼んでいます。もうだいぶ天使にあげてしまいましたね(笑)」
では29年ぶりの美酒は?すると安田社長は「10月下旬にLGの人たち3人がはんたばるを買いに来ました」と教えてくれた。事情を聞いたホテル(2020年キャンプの宿泊先)の営業担当者がはんたばるを予約。「1斗甕(18リットル)、3升甕(5.4リットル)、5升甕(9リットル)の3つを1人ひとつずつ持って帰られましたよ」と安田社長は話した。
LGが韓国シリーズを4勝1敗で制した4日後の11月17日、LGはソウル市内で球団とグループ関係者約160人を集めて祝勝会を開催。その式典の乾杯ではんたばるが振る舞われた。
はんたばるを造る泰石酒造の社員は安田社長を含めて3人。家族だけで運営している。大きくはない酒蔵で造られた酒が韓国で多くの野球ファンに注目され、LG球団とファンにとって特別な存在になった。
自らが造った酒が四半世紀を超えても大事にされ続け、優勝をきっかけに改めて買い求められたことについて安田社長は興奮気味にこう話した。
「ものすごくロマンを感じます」