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アトピー性皮膚炎の痒みによる睡眠不足が社会に与える経済的な負担

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎と痒み、睡眠障害の関係】

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能がうまく働かないことで、炎症が長く続く皮膚の病気です。この病気の主な症状の一つが、激しい痒みです。この痒みが、夜ぐっすり眠れなくなる原因になっています。

英国では、中等症から重症のアトピー性皮膚炎の人の61%が、睡眠の問題を抱えていると報告されています。痒みのせいで寝付きが悪くなったり、夜中に目が覚めてしまったりして、十分な睡眠がとれなくなるのです。

睡眠不足は、短い期間では頭痛や腹痛、気持ちが不安定になったりする原因になります。長い期間睡眠不足が続くと、心臓や血管の病気、肥満や糖尿病、うつ病や不安障害になるリスクが高くなることもわかっています。アトピー性皮膚炎の人の睡眠の問題は、皮膚だけの問題ではなく、体全体の健康に大きな影響を与える可能性があります。

【睡眠障害による経済的な損失】

アトピー性皮膚炎の痒みによる睡眠の問題は、医療にかかるお金が増えるだけでなく、仕事の効率が下がることで、社会に大きな経済的な損失をもたらしています。英国の研究グループが行った計算によると、2022年から2026年の5年間で、平均して毎年821,142人の中くらいから重いアトピー性皮膚炎の人が睡眠の問題に悩まされ、一人当たり毎年約70万円の経済的な負担が生じると考えられています。

その内訳は、会社を休んだり、仕事中の効率が下がったりすることによる間接的な損失が68%を占め、治療費や病院に行くためにかかるお金が32%となっています。睡眠の問題による損失のうち、仕事中の効率の低下が最も大きな割合を占めているのが特徴です。睡眠は、心とカラダの健康を保ち、日中の力を最大限に発揮するための土台です。その睡眠の質が長く悪くなることによる悪影響は、とてつもなく大きいと言えるでしょう。

【適切な治療とケアの大切さ】

アトピー性皮膚炎の痒みと睡眠の問題による経済的な損失を減らすには、一人一人に合った適切な治療とケアがとても大切です。まずは皮膚の炎症を抑え、バリア機能を回復させることで痒みを和らげることが重要です。かゆみに悩まされいる方は、ぜひお近くの皮膚科専門医にご相談ください。

参考文献:

- Barbarot S, et al. Epidemiology of atopic dermatitis in adults: results from an international survey. Allergy. 2018;73(6):1284-1293.

- Girolomoni G, et al. The economic and psychosocial comorbidity burden among adults with moderate-to-severe atopic dermatitis in Europe: analysis of a cross-sectional survey. Dermatol Ther (Heidelb). 2021;11(1):117-130.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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