日本の支援が大きな成果-戦争被害の子ども達のリハビリ支援、パレスチナ・ガザ地区
2014年夏のイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃からこの夏で3年。ガザ攻撃では、2251人以上が死亡、1万1000人が負傷した。国連によれば負傷者の3,374人は子どもで、負傷による後遺症を抱える子ども達もおよそ900人いるという。こうした子ども達への、日本のNPOによるリハビリ支援が成果を上げている。特定非営利活動法人パレスチナ子どものキャンペーン(CCP)の現地担当者に話を聞いた。
◯立てなかった子どもが学校に通えるように
CCPは1986年、内戦下のレバノンでの難民支援をきっかけに設立され、1992年にガザで最初のろう学校を開校、2009年にはガザでの農業支援を開始するなどの活動を続けている。2014年のイスラエルによる大規模な攻撃で深刻な被害を被ったガザの人々のために、CCPは緊急人道支援を開始。炊き出しや支援物資の配布を行い、2015年からは攻撃により負傷し後遺症を抱える子ども達のためのリハビリ支援を行っている。ガザ現地での調整や視察を行っているCCPの駐在員の一人、原文次郎さんは「子ども達の生命力には驚かされる」と言う。
「自力で立ち上がれなかった子が、歩き回れるようになるなど、劇的に回復する子ども達を何人も観てきました。勿論、それぞれの怪我や症状にもよるので、全ての子ども達が元通りに回復するわけではありませんが、リハビリをするのとしないのでは、明らかに違いがあります」(原さん)。
CCPによるリハビリ支援を受けた一人、イブラヒムくん(12 歳)は、2014年8月、自宅近くの爆撃で、左足を膝下から失った。
「イブラヒムくんが、ドイツで治療を受けガザに戻った時は、筋力が弱り、車イスから立ち上がることもできませんでした。そこで、1年ほど前から当会はガザ出身の理学療法士を派遣し、イブラヒムくんのリハビリを開始しました。イブラヒムくんは理学療法士の指導の下、ゴムバンドを使った筋力トレーニングや、投げたボールを受け取ることでの瞬発力を培うトレーニングを受けました。週3回のトレーニングを続けた結果、今では義足をつけて自宅から学校まで歩いて通うことができるようになりました。自転車も器用に乗りこなすようになり、私もその回復ぶりに驚いています」。
今でこそ、元気に学校に通っているイブラヒムくんだが、当初は片足を失ったストレスから、学校に行くことを嫌がり、友達との関わりも避けていたという。
「そのためカウンセラーが35回の面談を行い、ストレス緩和に務めた結果、イブラヒムくんは前向きになり学校にも行くようになりました」(原さん)。
2015年から現在に至るまで、CCPのリハビリ支援を受けたガザの子ども達は785人に上る。これらの子ども達には、イブラヒムくんのように劇的な回復を見せた子ども達も少なくない。たとえば、マハーセンさん(11歳)は、避難していた国連管理の学校が攻撃された際に硬い爆発物の破片が突き刺さり、腕が動かせなくなって、ものも持てなくなってしまったが、CCPのリハビリ支援を受けて、日常生活に支障ないまでに快復した。やはり負傷により全く歩くことができない状態だったサヘールちゃん(3歳)も、リハビリにより歩けるようになった。
◯継続的なケアによる心身の回復、現地人材の活用
原さんはリハビリ支援が必要とされる背景について、こう語る。
「2014年のガザ攻撃で負傷した子ども達には、初期段階の傷の治療や手当てを受けていても、その後、医療ケアを継続して受けられる環境にない子どもが少なくありません。このため、身体の機能回復訓練が行われずに、日常生活に不自由を感じているケースが多くあります。リハビリが必要な場合は診療所や病院などに通院することも全くできないという訳ではないのですが、弱った筋力を強化したり、神経に刺激を与えて機能を回復させる理学療法によるトレーニングやマッサージで効果を上げるためには、週2回、3回以上という高い頻度で、時には半年や一年に渡る継続的なケアが必要です。一方で、ガザの人々の多くは紛争により家や生活の糧を失ったり、あるいはガザが2007年以来の封鎖状態にある中でヒトやモノの移動が十分にできない中で経済的に疲弊している状態の中で、収入源も限られて貧しい人々が多いのです。また、子どもたちには付き添いが必要であるので、週2、3回の頻度で数ヶ月に渡るケアを継続するために交通費を負担し、時間を掛けて診療機関に通うことは患者や家族には大きな負担となります。このため通院を途中で止めてしまい。治療が継続できないケースも少なくありません。リハビリ支援が遅れたり、できなかったりすると、その後の子ども達の心身の健全な発達に影響する恐れがあり、緊急性の高い支援と言えるでしょう」
【動画】ガザ訪問診療 CCPウェブサイトより
これらの問題に対応するために、行われているのがCCPによるリハビリ支援なのだ。
「私達CCPのリハビリ支援では、医師、理学療法士、看護師、ソーシャルワーカー、心理専門家からなる医療チームが患者さんの家庭を定期的に訪問してニーズを把握し、必要とされるケアを提供する支援です。家庭に居ながら高い頻度で継続的な支援を受けることが可能になるので、患者さんや家族の負担が軽減され、治療の効果が期待できます。また、後遺症を負った子ども達は、身体の問題から始まって、気持ちが前向きにならなかったり、家族や友だちとの対話が無くなり、関係が悪くなるなどの心の問題を抱えることも少なくないのですが、運動機能が回復するとともに自信を取り戻し、家族や友だちとのコミュニケーションが回復したり、物事に積極的に取り組むようになったケースが出てきています」(原さん)
CCPがガザ在住の理学療法士を派遣することは、現地の人材活用という効果もある。パレスチナの教育水準は決して低くなく、医療技術を学んだ若者達は多くいる。しかし、医療機関の予算不足や人の出入りが厳しく制限されているガザから出ることから難しいなどの理由から、医療技術を学んだ人々も普段は別の仕事をしているが、CCPが資金を提供することで、こうした人々も自身の医療技術を活用できるというわけだ。リハビリ支援に参加しているガザの理学療法士達の一人、アラーさんは「CCPの事業は、多い場合は毎日リハビリ支援ができるなど回数も多く、期間も二年目に入り、とても充実しています。補助器具の提供など患者さんへの支援がたくさんできていることも、とても嬉しいです」と語る。
◯戦争被害者のその後にもよりそう支援を継続させたい
2014年のガザ攻撃の際は筆者も現場で取材しており、非常に痛ましい姿の子ども達を大勢見てきた。それだけに、日本のNPOが、ガザ攻撃で被害を受けた子ども達を支援し、それが大きな成果を上げていることは、とても感慨深いことだ。CCPによるガザの子ども達へのリハビリ支援は、ジャパン・プラットホームの助成金、つまり外務省の資金によるもので、今のところ2018年1月までの予算だという。「その後も予算が確保されればリハビリ支援を継続したいと考えています。リハビリを中断することによる筋力の衰えや心理状態の悪化が心配です。」「一般の方からのご寄付にも期待しています」(原さん)とのことだ。日本の報道での緊急人道支援といえば、食糧や生活必需品、医薬品の配布、救急医療などの支援が多く報じられるが、戦争被害者の困難は長期にわたって続く。戦争被害者のその後にもよりそう、CCPのような支援の在り方に、より多くの関心と支援がむけられることを、この間、紛争地で取材してきたジャーナリストの一人として、切に願う。
(了)
*パレスチナ子どものキャンペーンのウェブサイト http://ccp-ngo.jp/
*本記事では、子ども達や現地スタッフのプライバシーに配慮し、フルネームではなく、ファーストネームだけでの紹介としております。