再開発が嫌いでも、下北沢のことは嫌いにならないでください
■11月21日に小田急電鉄が小田急小田原線(代々木上原~梅ヶ丘間)の線路跡地利用についての構想を発表しました。
小田急小田原線(代々木上原駅~梅ヶ丘駅間) 上部利用の施設配置(ゾーニング構想)のお知らせ!
小田急線小田原線の一部線路地下化に伴い、東北沢・下北沢・世田谷代田の各駅が地下に潜り、この3駅をつなぐ地上線路の撤去が始まったのが今年3月。参考:小田急線下北沢駅が見納め-明日から地下化、別れを告げる人の姿も(下北沢経済新聞)
その後7月には旧下北沢駅舎の解体も始まりました。参考:旧下北沢駅舎、解体工事始まる-南北仮通路も供用開始(下北沢経済新聞)
私の会社は下北沢駅北口から徒歩1分の距離にあり、窓からは使われなくなった地上線路と下北沢駅前食品市場の屋根が見えます。最近の下北沢駅周辺は、南口と北口をつなぐ仮通路の位置が変わったり(工事完成までに何度も位置が変わるそうです)、南口にあるスーパーOzeki(3階建て)と同じくらいの高さのクレーンが毎日稼働していたり、何かと慌ただしいです。
使われなくなった地上線路は以前から「緑道になるのでは」という噂があったりしましたが、21日の発表によると東北沢~世田谷代田はこんな風に変わるのだそうです。
■この発表を受けて、私が編集長を務める下北沢経済新聞では下記のような記事を出しました。
この記事についてや、構想発表を報じる記事についてコメントをつけているツイートを見ると、どちらかというと否定的なものが多いのがわかります。
「下北もスイーツゾーンにしたら魅力が下がると思う」
「気持ち悪いなあ」
「あんまりこぎれいだと、ぽくないんだよなぁ。ま、人が街を作るだろう」
下北沢のいわゆる「再開発」については、以前から反対運動や再開発を考える取り組みがあり、そのひとつである「SHIMOKITA VOICE」は今年の夏で7回目を迎えました。
7年間という短い期間とはいえ、地域ニュースサイトという注目度の低い媒体とはいえ、下北沢でメディアを運営している者として、下北沢再開発問題について触れるときほど、言葉を選んで慎重にならなければならないと感じることはありません。これはほんと難しいです。いろんな人の意見を聞けば聞くほど、「黙って事実のみを伝える」というスタンスにいることが楽に思えます(もっとも下北沢経済新聞は記者の主観を入れず、中立的な立場から発信するという運営方針なので、もともと賛成・反対をサイト上で明らかにすることはありません)。
再開発について、これまでいろいろな意見や意見の対立を見聞きしました。数年前、新しい下北沢駅の構想が発表されたときに賛成する内容の投稿をした住人の方のブログが炎上したことがありました。「反対しているのは下北沢に住んでいる人ではなくて、ここ数年で下北沢を好きになった人。単に反対運動がしたいだけの人」という声もあり、これに対して「下北沢の再開発に意見していいのは現在の住人だけなのか」という反論がありました。反対運動のひとつ「Save the 下北沢」では、「街は誰のもの?」というタイトルで何度かイベントを行っていましたが、「街は誰のもの?」という問いかけは、「誰ならば街の問題に“口出し”していいのか」という問いかけです。参考:「街は誰のもの?」(Save the 下北沢)
■私自身としては、現在の街並みが大きく変わることには、やはりさみしいという気持ちがあります。狭い路地が小さな古着店や飲食店がたくさん並び、ニューヨークのイーストビレッジのようと言われたり、「現実を縮小した物語のような街」と言われたりする下北沢が、その個性的な趣を失うのは残念です。
ただ一方で、「下北沢が好きな人はいても、下北沢でお金を落としてくれる人が少ない」「企業を誘致できない街」「狭い道や階段をあがっていく店ばかりで、ベビーカーの家族連れが利用しづらい」といった声があり、下北沢で商売をする多くの店が集客に頭を悩ませているのも事実です。もちろん再開発が起こったからといって生き残れる店ばかりではないでしょうが、下北沢で商売をする人、暮らす人が「変わってほしい」と望む気持ちにも切実なものがあります。(※もちろん、なかには昔から店を開いているいる人で再開発反対派もいます)。20年前の下北沢、10年前の下北沢、現在の下北沢が好きな人もやがて年を取ります。変わらないことにこだわった結果がシャッター街、では笑えません。
■変わってほしいけど変わってほしくない。変わらないでほしいけれど変わってほしい。この問題を考えるとき、救いの言葉として思い出すのが、2009年に閉店した駄菓子屋のおばあさんの言葉です。生まれも育ちも下北沢で、嫁いできた18歳から62年間店に立ち続けたこの女性は、取材に対して「どんなに変わっても、ここが下北沢であることには変わりない。これからも街のために世話を焼きたい」と語ってくれました。
下北沢は音楽・演劇・古着の街とよく言われます。若者が多い街という印象を持っている人も多いと思います。「サブカル臭が嫌い」という人もいます。けれど、いったん街の中に入ってみると、音楽・演劇・古着がそれほど興味がない人もたくさんいることがわかります。当たり前です。若者ばかりがいるわけではなく、地元の高齢者たちが集まる隠れ家のような店がいくつもあります(個人店を開く人たちは、むしろ『地元客に愛されたい』と言います)。いったん下北沢に住んだり、下北沢で働いたり、下北沢に頻繁に通うようになると、「音楽・演劇・古着の街」というイメージが、いかに表面的なものだったのかがわかります。
私は下北沢が好きなので、表面的なイメージだけで下北沢を「嫌い」「興味がない」「つまらなそう」と言われるとやはり残念に感じます。それと同じように、「下北沢が変わる」ことを「下北沢が終わる」と考えることを残念に感じます。また、よく下北沢を知らない人に、「下北沢は再開発反対派と賛成派があって、なんかややこしいことになってる街」というイメージがつくのも残念です。下北沢が変わっていくことにため息をつくより、下北沢が変わっても下北沢を見続けたいと思います。恐らく反対派の人の中にも、下北沢が変わっても下北沢にこだわる人は多いはずです(そう思いたいです)。
■下北沢の再開発が予定通り行われることはもう翻らないと思われます(その割には、取り壊し準備のために2年前に多くの店が閉店した駅前食品市場の取り壊しが未だに進みませんが)。記事に対するコメントで「人が街をつくる」というものがありましたが、まったくそのとおりで、いる人が変わらなければ、下北沢の半分は変わりません。街の変化を肯定的に、希望を持って考えるために何ができるのか。考え続けていきたいと思います。
新しい下北沢駅はとにかく深いし、工事はあと何年も終わらないと言うし、駅前の工事が何年も続いたら「下北沢は工事の街」というイメージがついてしまうと心配する声もあります。工事前の踏切がなかなか開かない下北沢も不便でしたが、今の下北沢もやはり不便です。それでもまあ、いいではないか、見届けようと思っています。