成分表のカロリーってどうやって決めているの?
私たち栄養士は食品成分表を使って栄養計算をします。成分表には食品毎に100gあたりのエネルギー(カロリー)値と各栄養素の含有量が示されていて、食材の使用量をかけあわせ、合計し、一食当たりの栄養価を求めたりします。単純に栄養価の合計を計算するだけであれば、成分表や計算ソフトがあれば誰でも可能ですが、どの食材を当てはめたら良いのか、廃棄率はどう考えるのかなど、使いこなすのにもちょっとしたコツが存在します。
そんな食品成分表ですが、一般の人でもお世話になることが多いのが「カロリー※1」計算ではないでしょうか。お菓子などの包装にある栄養表示でも、「カロリー」の項目だけはチェックする人も多いかと思います。私たちが気になる食品の「カロリー」ですが、これらはいったいどうやって決められているのでしょうか。「日本食品標準成分表2015版」を参考に、食品の「カロリー」とは何かを考えてみます。少し専門的な記述のある記事になりますが、ご了承下さい。
■物理的燃焼と生理的燃焼
エネルギー源として重要な炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質を3大栄養素といいますが、これらを実験的に完全に燃やすと、それぞれ1gあたり4.1kcal、9.4kcal、5.7kcalの熱を発生させます。私たちが普通に食べものから摂取する場合には、一部は消化吸収できないまま排泄されてしまうため、実験的に燃焼させた時よりも少ないエネルギーしか得られません。3大栄養素が私たちの体の中でどれぐらい利用され、熱になるのかは実際に食品を食べてもらい、発生する熱や呼気の成分等を求め、消化吸収率を調べる必要があります。ルブナーとアトウォーターという学者の研究により、体で利用できるエネルギーの値は、1gあたり炭水化物4kcal、脂質9kcal、タンパク質4kcalほどであると明らかになりました。この値が簡単な栄養計算などでよく使われているアトウォーターのエネルギー換算係数と呼ばれるものです。ダイエットの記事などでもよく登場しますね。
エネルギー換算係数と食品に含まれている3大栄養素の量が分かれば、食品の「カロリー」が計算できるのかというと、そうはいきません。実は食品によって体の中での利用のされ方や消化吸収率に違いがあるので、本当の「カロリー」を調べるためには食品毎に実験しなければなりません。一般的な傾向として、動物性食品は消化吸収率が高く、穀類や種実類は低い傾向があります。食品標準成分表では、主要な食品などでは調査研究を基にした換算係数を、それ以外の食品にはFAO/WHO報告の換算係数を利用することで、実際に利用できる「カロリー」に近づける努力をしています。ただし、十分な報告がない食品についてはアトウォーターの係数が使用されていますし、消化吸収率に個人差が大きい食品(主にキノコや藻類)では、暫定的にアトウォーターの係数で求めた「カロリー」を半分にした値を成分値に載せています。
同じ炭水化物、脂質、タンパク質といっても食品によって利用のされかたが違いますし、さらに消化吸収率に個人差の大きい食品があることもおぼえておいて下さい。
■3大栄養素以外にもカロリーが
3大栄養素の他にも「カロリー」を持つ栄養成分があります。お酒などに含まれているアルコールやお酢の酸味成分酢酸です。それぞれ1gあたり7.1kcal、3.5kcalと高いエネルギー換算係数であり、体重コントロールを考える場合には無視できない存在です。
※参考→アルコールはエンプティカロリーだから太らないって本当?
酢酸のような酸味成分であるクエン酸やリンゴ酸といった有機酸も「カロリー」を持つことが知られていますが、これらの成分は成分表のエネルギー計算に反映していません。成分表の「カロリー」は厳密なものではないと知った上で利用するのが大切です。(私たち管理栄養士であれば)
なんとなく太る元になりそうなコレステロールは体内でエネルギー源として利用されませんので、実はノンカロリーであることも付け加えておきます。
■食べ方でもカロリーは違う?
食品成分表に掲載されている「カロリー」はどうやって求められたものか、なんとなく分かっていただけたかと思います。栄養価計算で求めた3大栄養素の量※2にアトウォーターの係数を掛けても、カロリーを合計した値と同じにならないのはこのためです。
同じ量の脂質やタンパク質を食べても、食品の選び方によって摂取「カロリー」が違うということもあるわけで、もしかしたら太りにくい食べ方に応用できるかも知れません。
これだけではなく、更に食べ方によっても食事の「カロリー」には差が現れます。あまり食べていないのに太ってしまうとおっしゃる方はたいてい食べた事自体を忘れているケースが多いのですが、中には本当にそれほど多くは食べていないこともあるようです。基礎代謝が低い場合がまず考えられますが、もしかしたら消化吸収機能が高かったり、消化しやすい料理や食材を食べている影響※3もあるかもしれません。
料理法によっても消化吸収は変化します。極端な例ですが、デンプンの多い食品で説明してみましょう。生のデンプンをそのまま食べると消化不良を起こしてお腹を壊してしまうことがあります。生のデンプンは水と一緒に加熱してあげることでβ-デンプンに変化し、速やかに消化吸収することができるようになります。じゃが芋やお米を生で食べないのはこのためですね。成分表を見ればたくさんの「カロリー」を持っている食品ですが、食べ方を間違うとその「カロリー」をちゃんと利用できないのです。
穀類やナッツ、繊維質の強い野菜などは細かく切ったり、しっかりと火を加えることで消化吸収率はアップします。食べやすいからと精製度の高い食品や柔らかく調理した食品ばかり食べると、太りやすくなったり糖尿病のリスクが高くなるというのは、こうした理由が関係してそうですね。
※1 ここでは食品の持つ人間が体内で利用可能なエネルギーのこと。単位は kcal ジュールという単位が推奨されてもカロリーなぐらい、エネルギーといえばカロリーという言葉が定着している。文字数が少ないので名詞として使いやすかったからと考えれば理解できなくもない。「 」で表示しているのはこの名詞としてカロリーを用いたい場面とする。
※2 量についても、炭水化物については実測ではなく、他の成分からの差し引きで求められる食品がほとんどであるので、成分表の炭水化物項目は糖質とイコールではない、ということも。細かいルールを説明するときりがないので本文中では言及しないこととした。
※3 この記事の趣旨と外れてしまうため言及しないが、量の割に太るやせるという話は、食事誘導性熱産生(DIT)の影響を無視できないと思う。糖質は低く、タンパク質は高いため、タンパク質をあまりとらないと太りやすいかも知れない。