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「誰でも国の補助金を受けとれます」SNS上にはびこる、対極性を使うセミナー商法とは!?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:IngramPublishing/イメージマート)

SNS上には、私たちをだまそうとする、まやかしの情報が数多く存在します。

国民生活センターの取材から、コロナ禍に乗じた、新たな悪質商法がみえてきました。それは「国から、誰でも補助金がもらえる」というものです。この誘い文句の先には、いったい何が待っているのでしょうか?

「今年に入ってから『国からの補助金が受け取れる』といった宣伝をSNS上で見た人が連絡を取り、契約金を払ってしまうという相談が寄せられています」(国民生活センター)

40代女性は、SNS上で「補助金がもらえる」との内容を見て連絡をとりました。すると「詳しい内容は、セミナーで説明をする」と言われます。向かった先の会場で聞かされたのは、国からの補助金とはまったく関係ない、副業への支援話でした。そこでサポート契約を勧められて、60万円ほどを払いました。

セミナーへの誘導の仕方も、巧みです。

60代女性はコロナ禍で仕事が少なくなるなか、SNSで「経済対策のご案内」との文面を見て、先に進むと「誰でも受け取れる補助金がある」との説明がなされていました。興味をもってクリックすると、セミナー募集のページに飛び、「募集終了まで、あと〇人」という期限を切ったような表示が出てきます。女性は焦らされてしまい、申し込みをしています。

会場には多い時で20~30人がおり、あらゆる年代の男女が参加していたといいます。なかには、すでに「連絡が取れなくなった業者もいる」とのことです。

今、多くの人がコロナ禍で仕事が減り、いかにして収入を増やそうかと考えており、そこにつけ込んだものといえます。

ここからみえてくるのは、入口と出口、仮想と現実……。対極性をうまく使いながら誘導する手口です。

SNSから誘い込むきっかけは「コロナ蔓延により、誰でも一律で受け取れる、国からの補助金がある」です。しかし、セミナーで説明を受けた後に、話をされるのは、副業サポートの契約です。入口と出口の話がまったく違います。

これは悪質商法でよくみられるもので、入口には「希望」「期待」「夢」を抱かせるような言葉をちりばめて、体のいい話をして誘い入れますが、実際にお金を払う段階の出口では、まったく違う内容の話が展開されます。

今、こうした入口と出口の対極性をうまく使って、だます傾向がみられます。

「入口と出口の話が違っていれば、その時点で、断ればいいじゃないか!」

そう思う人もいるかもしれません。確かにその通りなのですが、実際には、それがなかなかできない事情もあります。

多くの悪質商法では、相手をだますために、自分たちの有利な環境に引き込もうとします。キャッチセールでも路上で声をかけて、その場で契約するのではなく、いったん勧誘場所へ連れ込みます。そこには、契約のスペシャリストが待っており、さらにその人物に指南する経験豊富な責任者もいるので、閉鎖された環境に連れ込まれた人はかなりの確率で契約をさせられることになります。

まさに、このセミナーもそうで、誘いこまれると、言葉巧みなスペシャリストが手ぐすね引いて待っており、断って帰るのが本当に難しくなります。

騙されないためには、アウェーの環境に誘い込まれないようにすることが大事になります。

仮想と現実の対極性の傾向あり

ここにはもうひとつの対極性も使われています。

それは、仮想と現実を使ったやり口です。

SNSというバーチャルな世界で興味を引かせて、リアルな勧誘の場に引き込みます。

しかも説明をセミナー方式で行うことで、より相手の気持ちを高揚させて、業者の話を受け入れさせやすくさせています。セミナーではその場で感じた疑問をすぐに口にできず、反論もできない状況なので、とてもだまされやすいのです。一方的に嘘の話を吹きかけることも可能なので、マインドコントロールをもくろむ、カルト集団や詐欺的商法でよく使われます。

私もこうしたセミナーに度々、行っていますが、本当に話は面白く、伝えられる言葉からは夢や希望を感じられて、盛り上がりは最高潮に達します。潜入取材と割り切って参加していても、自分の心が高揚しているのを感じる時がよくあります。

また、誘い込まれた美人の女性から「今日のお話は良かったでしょ!」と言われると、「いいえ」と否定できない自分もいたりします。セミナー直後の精神状態で、勧誘を受けることは本当に危険なのです。

最近は、ネットという仮想の世界で出会い、そこから、現実の勧誘に誘い込む手口が多く発生しています。

今年3月、SKE元メンバーらが、出会い系サイトで知り合った男性らから、投資の助言名目でお金をだまし取っていたとして、逮捕された事件がありました。ここで、彼女を含むグループでは、サイトで出会った後に、ホテルのロビーなどで説明して、直接に契約させる手を使っていました。

仮想から現実に引き込まれると、組織対個人の関係で話をされてしまうので、一気にだまされてしまう可能性は高まってしまうのです。

先月の記事 フォローしたら、だまされる!SNS上で横行する、緻密に計算された情報詐欺。歴の浅い男性は要注意!でも、実は「入口と出口」という対極性が使われていました。

「公営ギャンブルの儲け情報で必ず勝てる」といった情報をSNS上の宣伝(入口)に、載せます。それを見て興味を持ってフォローした人に「もしこの情報で勝てなかったら返金する」とダイレクトメールで送ります。その金額も1万円ほどの安い値段なので購入します。

しかし出口にも罠が仕掛けられていました。いい加減なギャンブル情報なので、当然、負けがこむことになりますが、これこそが狙いでした。損をさせてお金を取り返したいという気持ちになっているところへ、別な転売話などの嘘話を持ち掛けて、さらに多額をだまし取るのです。

これから進む出口の先に、希望の光が差し込むように思わされて、誘導されます。しかし出口にみえる光はまやかしです。

自分が最初に誘われた入口と出口の関係性を見て、おかしいと思えば、話を断ってください。

仮想(SNS)から現実(セミナー)に連れ込まれて、その場の勢いで契約をしたとしても、家に戻って冷静になり「だまされたかもしれない」との疑問を抱けば、ためらわずに「188」の消費者ホットラインへの相談を忘れないようにしてください。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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