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今年注目の幼児教育はコレ!元カリスマバイヤーの美人教師が教えるレッジョ・エミリアとは?

宮下幸恵NY在住フリーライター
影ができたカボチャを描く4歳の子供

ニューズウィーク誌『国際的なロールモデルに』

「レッジョ・エミリア」という言葉を、耳にした事はありますか?

ワインとチーズ? いえいえ、イタリア北部のレッジョ・エミリアという小さな都市で第二次大戦後に始まった幼児教育の理念。1991年ニューズウィーク誌「世界のベストスクール」という特集で取り上げられ、一躍世界の注目を集めたのです。

ニューズウィーク誌では、「第二次大戦後、日本やドイツ、オランダは国を再建するのと同様に、多くはアメリカの教育システムを用いて学校を再建してきたが、これらの国の児童はアメリカの児童より科学、数学、ほかの技術系科目で優れている」と指摘。ならば、世界の最も優秀な学校に習え!という企画のなか、幼児教育でレッジョ・エミリアの独創的な教育法がピックアップされたのだ。

第二次大戦後のイタリア北部の街で、母親や教師たちの間で学校を再建するなか、ローリス・マラグッツィという男性教師が中心になり、子供はすべて違う個性を持ち、出来ないものではなく出来る事に目を向けて才能を伸ばしていくというものだ。

では、実際に何が面白くて、何がほかの教育方法と違うのか? 授業風景を見れば百聞は一見にしかず! 大人でも「へえ〜」とつい口をついて出てしまうほど、目からウロコの授業なのだ。

バリー真由さん。こんな美人教師なら、頑張って勉強しちゃう?!
バリー真由さん。こんな美人教師なら、頑張って勉強しちゃう?!

ニューヨーク・マンハッタンで、1人の日本人女性がレッジョ・エミリアの手法を取り入れたクラスを教えている。バリー真由さんだ。10歳と1歳の2児のママさんだとは思えないかわいらしい女性が、イタリアの教育メソッドを英語でアメリカ人の生徒に教えている。

テーマは光と影

1952年開校の長い歴史のなか、2007年からレッジョ・エミリアを取り入れたThe First Presbyterian Church Nursery Schoolhttp://www.fpcns.org/welcome/で、就学前の児童に指導を行っている。

1クラスは30分。もともと、この学校では1クラス10〜12人になんと先生が4人もつく贅沢な手厚いサポートが人気でもあるが、真由さんが担当するクラスにも1度に4人の生徒が代わる代わるクラスを訪れる。

カラフルなビーズも教材に。
カラフルなビーズも教材に。

木工作業につかう道具から、色とりどりの鉛筆、画材道具などがきれいに並べられ、かわいい色合いに心躍る。私が見学したのは、ニューヨークの厳しさ寒さが一段落した1月末のある日。この日最初のクラスにやってきたのは、4歳の女の子2人、男の子2人の4人だ。

クラスはショータイム!!

先週までのクラスを思い出しながら、真由さんが子供たちに聞く。

「影は何色だったか、覚えてる?」

「灰色!」。「黒!」と子供たちが元気に答えていくと、「薄い灰色よ!」という女の子も。

「そうね、じゃあ、影が出来る時はどういう時?」

「光がないいとき!」

そう。まずは見本を見せるのではなく、子供たちに聞き、想像させる。これがレッジョの基本だ。

「じゃあ、赤い光で出来る影は何色だろう?」

そう聞いて子供たちにまた考えさせると、これからが実演タイム。部屋の電気を消し、青、赤、黄色のセロファンで覆ったフラッシュライトを使えば、さながらショータイムの始まりだ。

最初、赤い光で出来る影は「赤だ」と答えていた子供たちも、実際に、真っ暗な部屋のなかで赤い光に照らされた真由さんの手の影は、「黒い」事に気づく。

さらに、「赤い光に、青い光をあてたら何色になる?」と聞き、実践してみせる。

「ターコイズ!」「ピンク!」

私は4歳の時にターコイズなんて色も言葉も知らなかったけれど、子供たちは間髪入れず色を見つけていく。

先生主導ではなく、生徒主導

フラッシュライトで足下を照らす子供たち
フラッシュライトで足下を照らす子供たち

フラッシュライトを手にした子供たちは、喜々として周りにあるいろんなものを照らす。

例えば、ある女の子が、スーパーマーケットの紙袋を照らし、「ここ、ママが好きなスーパーなの!」と言う。一見、脱線しそうな流れでも、真由さんは優しく「そうなの。じゃあ、この紙袋を照らしてみる? 何色に見える? 」とほかの子供たちにも同じ経験を共有させる。

誰かが自分のスニーカーを照らした時も、みんなに同じ事をさせるのだ。「そっちじゃなくて、こっちを見て!」と注意はしない。元に戻そうとする先生主導型指導ではなく、子供が興味を示したものにみんなの関心を集めていく生徒主導型。脱線しそうでしない子供たちは、大きなうねりとなって1つの方向へ進んでいくのだ。

青い光と赤い光から出来る影は?

青い光だけ当てると、影は黒色
青い光だけ当てると、影は黒色

今度はテーブルの上に、かぼちゃをおいて置いてみよう。

最初は青い光だけを当てて、かぼちゃの影を観察。次に、赤い光を当てて、影がどう変化するのかを見てみるのだ。

すると、青い光だけでは黒かったカボチャの影が、赤い光が混ざる事で、色が薄まり赤い影に!!

赤い光がプラスされ影は赤色に!!
赤い光がプラスされ影は赤色に!!

光と影という日常必ず目にする事象を使い、それがアートにも科学の勉強にもなっていくのだ。

ファッション界でのキャリアを捨てて

子供の注意を引くために、時にはミュージカル風に言葉に抑揚をつけたりと、テンポよく授業を進めていく真由さん。教育畑一筋かと思えば、いえいえ。前職は、誰もが憧れるファッション業界で華々しいキャリアを積んでいた。

日本でファッションを専攻し、「バイトして、バイトして」留学費用を自分で稼ぎ渡米。ニューヨークで再びファッションの勉強をすると、1995年から、世界で爆発的人気となったテレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティー」で主人公のサラ・ジェシカ・パーカーの衣装を手がけたスタイリスト、パトリシア・フィールドの右腕として働き始めた。

フィールドの元でアシスタントバイヤーを勤めると、その後はマネージャーへ昇格。さらには、インターネットサイトを通じた販売をまかされるようになり、最先端の流行を追った。

「自分が仕入れた商品を購入してくださるお客様の喜ぶ顔を見て幸せになっていました」

仕事に脂がのっていた2002年9月、待望の第一子となる長男を出産。セレブスタイリストとの仕事に「産休の『さ』の字もなかった」と産後5日目には、自宅でカスタマーサービスの電話対応など、休む間もなく仕事を続けた。

「当時はエレベーターのないアパートの6階に住んでいたんですけど、抱っこ紐で息子を背負ってお店に顔を出したりしてましたよ〜」

そんなめまぐるしい毎日を過ごしていたが、フルタイムで働くより、子供との時間を大切にしようと決意する。

ファッション界を夢見る女の子なら、誰もが憧れるニューヨークでのセレブスタイリストとの仕事。退職を申し出たとき、返ってきたボスの言葉は・・・。

「私のビジネスだって赤ちゃんなのよ。その赤ちゃんを大切にできないの?」

これで吹っ切れた。

「ファッション界は誰かを蹴落としてっていう世界。私はそういうの、向いてないから」

「専業主婦になったんです」と笑うが、これまで仕事に向けられていたエネルギーは、今度は興味のあった幼児教育へと注がれる。ニューヨーク在住日本人向け幼稚園でボランティアをするなど、少しずつ教育現場に触れる機会を増やしていった。

そんな時だった。たまたま夫の知人だったThe First Presbyterian Church Nursery Schoolのエレン・ジーマン・ディレクター(校長)から、工作クラスの教員に空きが出た事を聞き、すぐさま立候補。教員免許は持っていなかったため、指導の基本を学ぶクラスを取りながら、先生としての第一歩が始まった。

「内心、資格なしで新しい分野に足を運ぶのは怖かった」。しかし、「ほかの先生のクラスを見学するときは、ずっとメモを取っていましたね。今はこれが天職だと思ってます。子供を通じて、自分を見つめ直す事が出来た」。

天性のセンスと勉強熱心な性格、自身の子育て経験をもとに、指導法を独学で身につけていく。今では、ジーマン校長が「彼女は、とっても優秀よ」と絶大な信頼を寄せている。

2007年からレッジョ・エミリア導入

最初は木工工作クラスの補充教員としてクラスを行っていたが、転機が訪れたのは2007年。以前からレッジョ・エミリアに惹かれていたジーマン校長が、自身の学校にレッジョ・メソッドを取り入れる事を決意。2007年春、ジーマン校長と数名の先生がイタリアへ渡り、実際にレッジョ・エミリアを視察。ニューヨークに戻ると、すぐに校舎をよりナチュラルに、子供の興味をそそるような色合いにと模様替えすると、真由さん含め教師全員でミーティングを重ねメソッドを学び、カリキュラムを練っていった。

会話は録音!!

真由さんが使うレコーダー
真由さんが使うレコーダー

レッジョ・エミリアの最大の特徴にもなるのが、コレ。授業の内容をレコーダーで録音するのだ。

真由さんの首から下がった年季が入ったレコーダーも、「たまに押し忘れたりしちゃうんですけど」、クラスが始まってから終わるまで、録音中を示す赤いランプが灯っている。

全ての授業を録音し、空いた時間にテープ起こしをするのも大事な作業。ちょこまか動く子供の指導で見落としがちな小さな会話を広い、子供がどこに興味を示し、以前のクラスとどう違うのか、授業の反省点も洗い出す材料にする。

ハイテクも教材に

さらに、インターネットや電子機器もふんだんに授業に使う。

「デジカメで写真を撮りますし、自分の好きな動物についてリサーチするのに、コンピューターを使ったりしますよ。それに、『雨が降ったら影はどこに行くのか』と質問すると、『自分たちの体の中に入っていく』『空にもどる』と言う子供も。子供の発想でとても面白いんです」

考えさえ、実験して、確かめる。これが大きな基本プロセスだ。

「日本では、折り紙なら決まった折り方でみんな同じ物が出来ますよね。長男が通った日本語の補習校では、折り紙の色まで同じだったんです(笑)。でも、レッジョは違う。紙1枚あれば、破ってもいいし、はさみで切ってもいいし、丸めてもいい。フォークで穴をあけて、そこから世界を覗いてみてもいい」

1つの物から出来るものは、1つとは限らない。豊かな想像力のある子供なら、なおさらだ。これが、将来に役立つ柔軟な思考を育てていく。

第二次大戦後に始まり、22年前の雑誌特集で注目を集めながら、まだまだ知名度は低いレッジョ・エミリア教育。でもいつか、真由さんのクラスから、歴史に名を残す偉人が出てくるかもしれない。

NY在住フリーライター

NY在住元スポーツ紙記者。2006年からアメリカを拠点にフリーとして活動。宮里藍らが活躍する米女子ゴルフツアーを中心に取材し、新聞、雑誌など幅広く執筆。2011年第一子をNYで出産後、子供のイヤイヤ期がきっかけでコーチングの手法を学び、メンタル/ライフコーチとしても活動。書籍では『「ダメ母」の私を変えたHAPPY子育てコーチング』(佐々木のり子、青木理恵著、PHP文庫)の編集を担当。

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