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皮膚科医が解説!アトピー性皮膚炎に使われる外用薬の効果と安全性を徹底比較

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、世界中で成人の1~3%、小児の15~20%が罹患していると推定される、非常に頻度の高い慢性炎症性皮膚疾患です。湿疹とかゆみを繰り返す難治性の経過をたどることが多く、患者のQOLを大きく損なう要因となっています。

これまで、アトピー性皮膚炎の治療には様々な外用薬が使用されてきましたが、それぞれの薬剤の効果と安全性を比較した質の高いエビデンスは限られていました。そのような中、カナダ・マックマスター大学のChu氏らの研究チームが、大規模なシステマティックレビューとネットワークメタ分析を行い、外用薬の有効性と安全性について多角的に評価した研究結果を発表しました。

本研究では、1967年から2022年までに発表された219件の無作為化比較試験(RCT)を対象に、43,123人の患者データを詳細に解析しています。評価対象となったのは、ステロイド外用薬、カルシニューリン阻害薬、PDE4阻害薬、JAK阻害薬、抗菌薬など、実に68種類に及ぶ外用薬でした。

研究チームは、アトピー性皮膚炎の重症度スコア、かゆみ、睡眠障害、QOL、急性増悪、有害事象など、患者にとって重要な7つのアウトカムに対する各外用薬の効果を、質の高いエビデンスに基づいて評価しました。治療効果の指標としては、SCORAD(Scoring Atopic Dermatitis)やEASI(Eczema Area and Severity Index)といった国際的に広く用いられている評価尺度を採用しています。

【ピメクロリムス軟膏とタクロリムス軟膏の高い有効性が明らかに】

解析の結果、カルシニューリン阻害薬であるピメクロリムス軟膏(本邦未承認)とタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)が、アトピー性皮膚炎の症状改善に非常に効果的であることが高い確実性で示されました。

特にピメクロリムス軟膏は、7つのアウトカムのうち6つで有意な改善効果を示し、そのうち2つのアウトカムでは最も高い効果が認められました。一方、タクロリムス軟膏は用量によって若干結果が異なり、高用量(0.1%)製剤では5つのアウトカムを改善し、そのうち2つで最高の効果を示しましたが、低用量(0.03%)製剤では5つのアウトカムを改善するものの、最高の効果を示したのは1つのアウトカムのみでした。

これらのカルシニューリン阻害薬は、ステロイド外用薬の長期使用に伴う皮膚萎縮などの副作用リスクを回避できる点でも優れていると考えられます。ただし、カルシニューリン阻害薬にも刺激感などの局所副作用があり、使用部位や塗布量、治療期間については十分に注意する必要があるでしょう。患者の状態を見極めながら、保湿剤などの基本的なスキンケアを併用し、必要最小限の薬剤使用を心がけることが肝要だと思われます。

【ステロイド外用薬の至適使用について新たな知見】

ステロイド外用薬については、本研究により効果と安全性のバランスに関する新たな知見が得られました。中でもストロングクラスとベリーストロングクラスは、複数のアウトカムで高い有効性が認められる一方で、有害事象のリスク上昇は認められませんでした。

一方、最も高力価のストロンゲストクラスは、アトピー性皮膚炎の重症度スコアを最も強く改善しましたが、長期使用における副作用リスクについては懸念が残ります。逆に、低力価のミディアムクラスとウィーククラスの効果は限定的であり、単独での使用は推奨されないことが示唆されました。

本研究の結果は、ステロイド外用薬を力価に応じて使い分けることの重要性を裏付けるものと言えるでしょう。すなわち、中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対しては、ストロングクラスまたはベリーストロングクラスを第一選択とし、病変の部位や性状、患者の年齢などを考慮した上で、より高力価または低力価の製剤を適宜使用していくという戦略が望ましいと考えられます。

【新しい外用薬の可能性と課題】

近年開発が進む新しい外用薬についても、本研究により有望な結果が得られました。JAK阻害薬であるデルゴシチニブ軟膏とルキソリチニブ軟膏は、いずれも4つのアウトカムで有意な改善効果を示し、特にデルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)はQOL改善において最高の効果が認められました。

PDE4阻害薬のクリサボロール軟膏(本邦未承認)とジファミラスト軟膏(モイゼルト軟膏)は中等度の効果を示しましたが、安全性に関するエビデンスが十分でないという課題が明らかになりました。今後、これらの新薬については、長期の有効性と安全性を検証するための大規模な臨床試験が必要とされるでしょう。

一方、本研究では抗菌薬外用薬の有効性は低いことが示されました。アトピー性皮膚炎の病態形成には皮膚バリア機能の異常が深く関与しており、単に皮膚常在菌を減らすだけでは根本的な解決にはつながらないと考えられます。むしろ、保湿剤などを用いて皮膚バリアを強化することが、炎症のコントロールにつながる可能性があります。

【患者さん視点で外用薬の使用を最適化】

本研究の大きな特徴は、患者視点のアウトカムに焦点を当てて外用薬の効果を評価した点にあります。アトピー性皮膚炎は、そのかゆみの強さゆえに睡眠障害を引き起こし、楽しみや生きがいを奪うなど、患者のQOLに多大な影響を及ぼします。単に皮膚症状の改善だけでなく、患者の生活の質をトータルに改善することこそが治療の目標であり、そのために外用薬の選択と使用法を最適化していく必要があるでしょう。

また、アトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症することが多く、長期的な経過をたどる慢性疾患でもあります。小児への安全性や、思春期以降の患者のアドヒアランスなども考慮に入れながら、成長・発達段階に応じた治療戦略を立てることが重要です。

本研究で示された知見は、今後のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインの改訂や、新薬開発の方向性に大きな影響を与えると予想されます。現場の皮膚科医には、エビデンスに基づいた適切な外用薬の選択と使用法を患者に提案しつつ、保湿剤などの基本的スキンケアの重要性を伝えていくことが求められるでしょう。そして何より大切なのは、一人ひとりの患者の状態や価値観に寄り添い、オーダーメイドの治療を提供することだと筆者は考えます。

参考文献:

Chu DK et al. Topical treatments for atopic dermatitis (eczema): Systematic review and network meta-analysis of randomized trials. J Allergy Clin Immunol. 2023 Jun 28;S0091-6749(23)01113-2.

https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(23)01113-2/fulltext

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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