300万円分の無断キャンセル事件発生! ホテル・旅館の予約やキャンセルで留意したいこと
栃木県の那須塩原や日光エリアにあるホテル・旅館で、同一名義人による複数予約の上に無断キャンセルが相次いだ問題がニュースを賑わした。無断キャンセルされたのは7施設の宿泊予約で同一の男性名義によるもののほか、別の人物(7施設予約の男性と同一グループとみられる)名義によるものが1施設1件、施設側の被害額は計約300万円にも上るとされる。予約日程は2020年1月2日もしくは3日から1泊の日程で温泉宿にとっては正月の書き入れ時、すなわち超繁忙日だった。
仮押さえ・複数予約
今回の件は大きなニュースになったが、ホテルや旅館のキャンセル問題は業界では従前より看過できない課題とされている。頭書の件では電話での予約申し込みで、報道によるとキャンセルの理由も不明とのことだが、特徴的な事実として「複数施設の同時予約」という点がある。
いま、宿泊予約はいわゆる予約サイト(OTA(Online Travel Agent):ネット上の旅行会社)が隆盛を誇っており、利用したことがあるという人は多いだろう。多頻度旅行者であれば複数の予約サイト会員という方もいるかもしれない。予約サイト間で料金が異なることから予約サイトを比較するサイトも人気を誇っている。
ネット予約の魅力は情報量の多さ、そして予約のしやすさといえるだろう。気軽に予約できるのがネット予約の魅力とも言い換えられる。そのため、旅行予定が未確定でもとりあえず仮押さえしておくというケース、また、希望日に本命のホテルが満室の場合に別のホテルをとりあえず確保しておくといった仮押さえもみられる。
予約サイトによっては同日に複数予約しようとすると「別の施設が既に予約済み」といった注意喚起がなされることもある(とはいえ予約は続行できる)。いずれにせよキャンセル料発生以前としても、単なる仮押さえにとどまらないような過度な複数予約は、当該施設が他者から予約を受ける機会を損失させる行為という認識を持ちつつ、節度ある予約サイトの活用をしたいものだ。
キャンセル料
基本的に宿泊施設ではキャンセル規定を設けており、ダイレクトな予約、宿泊予約サイト経由にかかわらず予約の際に表示、掲示される。たとえば3日前から30%、前日50%、当日(不泊)100%という例もあれば、もっと早くからキャンセル料を発生させるケース、連絡さえすれば当日でもキャンセル料が発生しない場合など規定は施設により様々である。しかしながら、連絡無しの不泊(業界では“ノーショー”といわれる)について100%というのはほぼ共通している。
仮押さえであろうが本押さえであろうが、キャンセル料が発生する前にキャンセルをすれば基本的に問題はないが、キャンセル料が発生する期間に入ってからのキャンセル、ノーショーの場合は様々な問題を惹起させる。そのひとつが“キャンセル料請求問題”とされる。
どんな事情があろうと必ず請求するという施設もあるが、たとえば病気や事故、交通機関の不通といったやむを得ない事情の場合、キャンセル料の請求をしないことを暗黙の了解とするホテルは多い。昨年9月の台風の際にも キャンセル料の請求をしないことを表明するホテルが相次いだことは記憶に新しい。
実務的には債権回収の手間という問題もある。キャンセル料の請求書を送付しても無視される場合や、そもそも不達だったような場合、特に少額であれば調査や法的手続きをとる経費や時間をどう考えるのかといった問題だ。また、あまりに強硬な姿勢をとってネットで中傷されることを危惧する宿泊業者もいる。
頭書の300万円のようなケースであれば、悪質性の高さから法的手続きという選択肢はある種当然と思われ、事実手続きをとる方向という報道もあった。いずれにせよ金額の多寡にかかわらず、電話の予約にしろ予約サイトでポチッとクリックする予約にしろ、予約は契約の申し込みであり、施設側の承諾により成立する法律行為であることを利用者は改めて認識する必要がある(法律的には予約そのものが本契約とする説がある)。
結局、この無断キャンセルの件では、予約した男性のグループを名乗る男女3人が施設を訪れて謝罪した。ただし予約した本人ではないといい、当該男性が勝手に予約、無断キャンセルになっていたことも知らなかったと弁明したという。施設側は引き続き法的手続きを検討しているという。
予約時・予約後の対応
一方、今回の件で注視したいのは予約時と予約後の対応だ。被害に遭った施設の中には宿泊予定日の約2週間前、当該男性へ電話をした際に不通だったという。電話が不通=即キャンセル扱いという規定にする選択肢もあるが、電話が不通であっても当日現れる可能性がある以上(電話不通が別の何らかの原因による可能性も含め)一方的なキャンセル扱いは別の意味でリスキーかもしれない。
いわゆる“性善説”からのスタンスともとれるが、「日本人は世界でも例外的に性善説を信奉している国民」「日本社会に秩序があるのも性善説を前提にしているからである」という学者もいる。他方、旅行者もネットを介したグローバルな中にあって匿名性も高まっており、旅行者を受け容れる側も相応の準備や対策を講じる必要に迫られている。
足並み揃わない事前決済標準化
そもそも、予防策として事前の一時金預かりや事前クレジット決済を標準化すべきという声は業界でも強い。海外のホテルを予約する場合にはクレジットカード情報の提供(事前決済や番号控えなど)は一般的であるが、日本ではなかなか足並みが揃わないのが実情だ。理由としてはやはり施設側の予約萎縮への懸念という点といわれる。利用者の中には、流動的な予定の中で事前決済は宿泊できなかった時のリスク、と考える人もいるということだろうか。
前述のキャンセル料発生の起算点についても数週間前などもっと早くすれば良いという考えもあるが、そのような施設はごく少数派。これもやはりあまりに早く設定すると予約の萎縮で他の施設へお客を奪われるという懸念が施設側にあるのだろう。いずれにせよ、宿泊業界全般という規模で事前決済標準化について共通したガイドライン策定等、何らかの検討が進むことを期待したい。
予約金が条件の人気ホテル
人気の高いホテルや旅館では予約金の入金を予約成立条件にする施設も一部見られる。たとえばディズニーホテル。実際に聞いた話では、ディズニーランドへの旅を予定している主宰者がまだ確定していない友人・知人のホテルまで複数仮押さえ、直前になってキャンセルし他者の予約機会を奪うようなケースがあったという。
ディズニーランドへ行くこと、ディズニーホテルへ宿泊することが目的となるホテル予約ゆえ、予約できなければディズニーランドそのものへの旅を諦めざるを得ない状況になることだろう。
以上のようなことからも、ディズニーホテルでは現在申込金制度をとっており予約時に所定の申込金を支払う必要がある。申込金は宿泊料金の一部として取り扱われる。残額は宿泊当日に精算する方法で、取消の場合は取消料の一部として扱われる。施設側からすると理想的ではあるが、大人気施設ゆえに可能な強気のスタンスともいえる。
キャンセル連絡から逃げたい心理?
無論初めから施設に被害を与えようと悪意を持った予約行為は論外であるが、仮押さえも含め複数の宿泊施設を同時に予約、本命が決まったところで他の複数施設をいざキャンセルというケースがあるかもしれない。また、仮押さえや複数予約でなくともやむを得ない事情で、キャンセル料発生期間内にキャンセルしなくてはならないこともあるだろう。
ネット予約ではキャンセルもネット上で可能であるが、直前の場合は宿へ直接連絡するよう表示される。既にネット経由のキャンセルが出来ない押し迫った時点で電話する必要があるところ、連絡しにくいとズルズルそのまま放置してしまったという人の話を聞いたことがある。単にキャンセルし忘れたというケースも含めて決して許されることではないが、キャンセルにまつわる個々人の心理的な問題はなかなか根深いものがある。
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前述の通り宿泊予約は契約行為であり、キャンセル料は契約解除に伴う違約金という性質だ。ホテルなどに備え付けられている宿泊約款をみると、予約者からの契約解除(キャンセル)や違約金(キャンセル料)についての規定がある一方で、宿泊施設からの(宿泊約款に定め無き事由による)契約解除についても違約金等の規定も見られる。
もし、こうした規定がなければ、宿泊施設は予約者に対して「部屋は用意できませんでした」と補償もせず一方的なキャンセル(契約破棄)ができてしまうことになる。
ゲスト、施設、各々の信頼関係や秩序のもとに宿泊業は成り立っている。