女子大生に性的暴行の日本人男性がシンガポールでむち打ち刑に 日本でも可能か
7月1日にシンガポールの裁判所が下した有罪判決が話題となっている。女子大生に性的暴行を加えたとされる38歳の日本人男性に対し、17年6ヶ月の禁錮刑に加え、20回のむち打ち刑が言い渡されたという。シンガポールで日本人にむち打ち刑が科されるのは初めてだ。
日本にもむち打ち刑があった
報道によると、男性は女子大生と面識がなく、繁華街で泥酔して嘔吐している女子大生を見つけると、タクシーで男性の自宅まで連れ込み、性的暴行を加えたばかりか、その状況を撮影して友人に送るなどした。女子大生は事件後、PTSDに罹患している。
裁判所は残忍で残虐な犯行だと断罪し、男性に対して禁錮刑だけでなく、むち打ち刑も科した。シンガポールでは、性犯罪などに及んだ50歳未満の男であれば、最高で24回までむちでたたく刑罰が可能となっているからだ。裸にして台に拘束し、むちで尻をたたいて執行するやり方である。
こうしたむち打ち刑は中東諸国などイスラム教の信仰国でも現存しているが、非人道的だとして国際社会から非難されており、2020年にはサウジアラビアの最高裁が廃止を表明した。
日本でも大宝律令や養老律令の時代からむち打ち刑が最も軽い刑罰として定められており、以後、連綿と続けられてきた歴史がある。江戸時代には軽微な窃盗犯に敲(たたき)と呼ばれるむち打ち刑が科され、公開処刑によって肩や背中、尻を50回とか100回ほどたたかれていた。時代劇で出てくる「100たたきの刑」とは、まさにこのことだ。
受刑者を裸にして大衆の目にさらし、肉体的苦痛と精神的苦痛を同時に与えることで、二度と再犯に及ばないようにしようという狙いがあった。しかし、明治の文明開化に伴って野蛮だという批判の声が上がり、1873年に法令上は廃止された。それでも地方都市などを中心に懲役刑の代替として事実上続けられてきたが、旧刑法が施行された1882年には完全に廃止されて現在に至っている。
性犯罪の厳罰化に向けた法改正が必要
今回の報道を受け、ネット上では日本でも犯罪者、特に幼児や児童に対する性犯罪者にむち打ち刑を科すべきだと考える人も多いようだ。
しかし、憲法は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と規定している。最高裁の判例によると、「残虐な刑罰」とは「不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰」を意味するので、いまではむち打ち刑はNGということになる。だったらなぜ死刑が存続しているのかだが、絞首刑は他の執行方法に比べて特に人道上残虐だとは認められないというのが最高裁の理屈だ。
ただ、今回の男はむち打ち刑だけでなく、17年6ヶ月の禁錮刑にも処されている。むしろ後者のほうが刑罰は重い。日本で同じ犯罪に及べば不同意性交罪や不同意性交致傷罪に問われるものの、日本の裁判所の量刑相場からすると、被害者が1名の場合、そこまで長期の刑罰に処されることはない。
例えば米国では、有罪になった犯罪ごとに刑を決め、単純に合算するシステムとなっている。しかも、「ワンストライクアウト法」や児童への性虐待を対象とした「ジェシカ法」といった特別な法律を制定している州もあり、これらと組み合わせることで、少女4人に対する性的暴行に問われた男に対し、275年半の拘禁刑が言い渡された例もある。性犯罪を厳罰化するためには、むち打ち刑の復活ではなく、端的に法定刑を重くする法改正が先決だ。(了)
【参考】
・米国で性犯罪者に275年半の拘禁刑 「ワンストライクアウト法」とは?(Yahoo!ニュース エキスパート 前田恒彦)
・「百敲(ひゃくたたき)」の刑、吉宗は計算ずくだった(國學院大學メディア)
・【不名誉】日本人初のむち打ち20回と禁錮17年半の判決…シンガポールで女性暴行した罪で元美容師の日本人男(38)に(FNNプライムオンライン)