百貨店が営業再開すべきでないと考えるこれだけの理由 新型コロナ感染を食い止めよ
百貨店が揺れている。営業を再開すべきかどうか。この判断は、生活者が企業の姿勢を知るためのリトマス試験紙になるだろう。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言が東京都など7都府県に出されたのは4月7日夜のこと。不特定の多くの人々が集まる、しかも、顧客に高齢者層を多く持つ百貨店各社は、当然、休業を要請されるであろうと予想していた。すでに、その前の週末(4月4、5日)には多くが臨時休業し、逆に営業していた百貨店にはクレームが入ったり、SNSでプチ炎上したりするほどだった。
東京都の対応案(6日夜発表)には、商業施設と並び、百貨店が含まれていた。翌7日には臨時休業を相次ぎ発表。しかし、10日午後に東京都の小池百合子知事が記者会見で休業要請を公表したのは、「遊興施設など」「大学や学習塾など」「運動や遊技のための施設」「劇場など」「集会や展示を行う施設」「商業施設」の6業態で、百貨店は含まれなかった。
百貨店の2019年の年間売上高は総額で5兆7547億円(前年比1.4%減)で、ピーク時の1991年の9兆7130億円に比べて4割以上減少している。
この3年だけでも、三越の千葉店、多摩センター店、木更津店、伊勢丹の松戸店、府中店、相模原店、大丸山科店、井筒屋宇部店、愛知の丸栄、山梨の山交百貨店、島根の一畑百貨店出雲店などが閉店。今後も高島屋港南台店、西武の岡崎店、大津店、そごうの西神店、徳島店、川口店、三越恵比寿店、松坂屋豊田店などの閉店が控えている。
とくに衣料品の売上高は、かつて4兆円近くあったものが、2019年は1兆6833億円と6割近く減少。ファーストリテイリングのユニクロが国内外で販売する1兆8989億円(うち、国内8729億円、海外1兆260億円。2019年8月期実績)をも下回るほどである。
百貨店はもはや、生活インフラではない
それでも、百貨店を主な購入場所として使われている人も存在しているし、筆者も百貨店のファンの一人だ。だが、しいて言えば、「百貨店はもはや、社会の生活インフラではない」。むしろ人々の気持ちに華やぎを与える、重要な生活文化発信拠点である。
日に日に感染者や死者が増え、医療崩壊が目前といわれ(もしかしたら、すでに始まっているのかもしれないが…)、人々が不安に駆られている今、百貨店は営業を続けるべきではない。私見だが、百貨店は平和産業であり、平和の象徴だ。社会潮流を真っ先にとらえる時代の映し鏡であってほしいとも願う。であればこそ、今、人々が何をすべきか、自ら行動で示すべきではないだろうか。
自社の都合だけでなく、「このままでは取引先が潰れる」「経済を回さなければ」という使命感もあるだろう。インバウンド頼みだった売上げが今回の新型コロナ騒動で一気に急ブレーキがかかってしまったり、暖冬の影響で、書き入れ時に利益率の高い衣料品が売れなかったため、少しでも売上げを取り戻したいという気持ちもあるだろう。
だが、今は直接的に人命がかかっている状態だ。感染者がこのまま増加の一途をたどれば、緊急事態宣言や外出自粛の期間はどんどん長引くばかりだ。よけいに景気を悪化させ、生活者の収入が減り、防衛意識が高まり、消費回復は見込めない状況になる。少しでも早く日常生活を取り戻すことが、百貨店の早期再生につながるはずだ。
もう一つ、真剣に考えなければならないのは、販売員の問題だ。日本の百貨店のほとんどは、取引先依存の販売体制である。百歩譲って、自社社員だけで運営するならまだしも、感染の恐怖に不安に駆られる取引先の販売員らを人身御供にするようなことはあってはならない。
食品売り場、通称「デパ地下」については、経産省から営業してほしいとの要望があったと報道などで伝えられている。しかし、デパ地下は一番客数が多いフロアだ。対面販売型が多く、しかも、その名の通り地下にあることがほとんどで、けっして換気が良いとはいえない。3密の条件がそろいやすいというわけだ。
さらに、一度休業を決めたものを、急遽再開せよと言われても、生鮮品や、賞味期限の短い加工食品などは、そう簡単に商品の調達を再開することはできない。生産者や供給者に無理を言って止めた商品調達を、「やっぱりやります、お願いします」といっても、新たな混乱を招くだけだ。また、冷蔵庫、冷凍庫などが多く設備されている食品売り場は、一度電気を止めてしまうと、再稼働させても十分な温度に達するまでにも時間がかかる。エネルギー効率も悪い。
大切な顧客にも、従業員にも、取引先にも、不要不急の外出をさせないためには、百貨店は当面、このまま休業すべきである。いや、休業してくれませんか? 少なくとも、こんな時期に再開した百貨店の名前を、私は、絶対に、忘れない。