【公演直前インタビュー】レナード衛藤が叩き出す“次世代型祝祭パフォーマンス”
世界を舞台に活躍する太鼓奏者、レナード衛藤が“レオクラシックス・トリオ”を率いて、ダンス・アンサンブルと合体。2018年10月10日(水)、東京・マイナビBLITZ赤坂でスペシャル・ライヴを行う。
さまざまなパフォーマーとのコラボレーションを通じて、独自の世界観を浮き彫りにしてきたレナード衛藤だが、今回の公演ではレオクラシックス・トリオを率いて出演。9人編成のダンス・アンサンブルと生み出すライヴ・スペクタクルは“和太鼓×ダンスの邂逅”に留まることなく、新しいアート・フォームの確立へと向かう大きな一歩だ。
公演を目前に迎えたレナード衛藤、振付&ダンス・アンサンブルの一員である前田新奈、同じくダンス・アンサンブルの一員である田所いおりの3人に、“Leo”に向けての抱負を語ってもらった。
<太鼓奏者の視点で作ったプロジェクト>
●今回のプロジェクトは“自らのアフリカ体験をもとに叩き出す次世代型祝祭パフォーマンス”とのことですが、そのコンセプトについて教えて下さい。
レナード:“次世代型”といっても最新の機材を投入とか、出演者がすごい若いとか、そういうのではないんですよ。太鼓とダンスの関係というのを突き詰めていったら、盆踊りというシステムが最強だということに気付いたんです。真ん中に和太鼓があって、その周囲、太鼓のヴァイブレーションが拡がる範囲がひとつのコミュニティであり、その太鼓を中心としてみんなが踊っているという様式は最強ですね。ただ僕は、やはりプロフェッショナルとして、超絶技巧な盆踊りをやりたいんですよ。
●超絶技巧な盆踊り...?
レナード:メインの楽器vsバック・ダンサー、あるいはダンサーvs伴奏の和太鼓というような図式ではなく、太鼓と踊りがひとつの“絵”になるものを作りたかった。それに一番近いのが盆踊りだったんです。それは同時に、ひとつの相互理解でもある。踊れない太鼓には意味がないし、踊る方も音楽を理解しなければならない。作品性も大事だけど、ライヴ感も入れたいし、昔の『ソウル・トレイン』みたいに自由に踊りを入れるシーンを作ってみたかったんです。
●レナードさんと前田さん・田所さんはいつから交流があるのですか?
レナード: 1984、5年かな?僕が鼓童でやっていた頃、石井眞木さんの作曲で、ダンスとのコラボレーションをすることになったんです。それまで鼓童の単独でやってきたけど、それが初めての共演プロジェクトで、田所さんはそのバレエ・カンパニーに所属していたんです。
田所:私にとっても、和太鼓との共演というのは衝撃でしたね。
レナード:前田さんはヨーロッパに文化庁の在外研修とかをされていたんで、自分が行く前に、相談しようと思ったんです。
●前田さんが今回、振り付けを担当されるにあたって、レナードさんからどんな要望がありましたか?
前田:あまり「ああして、こうして」という指示はないけれど、「こういう風に見せたい」というポイントははっきり主張されますね。それに対して私が幾つかアイディアを出していきます。私が出したものをレナードさんが「これ、良いと思う」とおっしゃることもあるし、「うーん、イマイチ」という時もあって、徐々に固めていきます。
レナード:今回のプロジェクトの個性は、太鼓奏者の視点で作っていることなんです。ダンスと和太鼓のコラボレーションだったら、それほど珍しいものでもないんですよ。でも太鼓奏者がここまでヴィジョンを持って、それをダンスに反映させているというのは、他にないと思いますね。ただ、僕のリズムをどんな“絵”にするかは、振付家の前田さんと石井竜一さんにお任せしている部分もあります。石井さんには「バレエの振りで作って下さい」とか、一方、前田さんのリズムの取り方は独自のスタンスがあって、僕のものと異なることもあるので、稽古場で擦り合わせをしながら作っていきます。太鼓とダンスだと、カウントの取り方が違って、ダンスの方が細かく取るんです。
<生の太鼓に身体を投げ出していく本能的な喜び>
●クラシック・バレエには歴史にのっとった様式があるので、和太鼓と新しいスタイルを築き上げていくのでは、かなり勝手が違うのではないでしょうか?
前田:バレエにおけるダンサーの役割は、一定の“形”を肉体の芯に入れていくことにあるんです。もう、生まれつきの動きであるかのように、ね。そんな制御された動きに慣れている仕事だから、レナードさんとの作業は自由さがありますね。最初はそれがチャレンジだったけど、それを超えて、生の太鼓を聴くと、血がザワザワ騒ぎますよ(笑)。生の太鼓に身体を投げ出していく本能的な喜びがあります。
レナード:クラシック・バレエと和太鼓に共通するのは、“空間”や“間”の使い方なんです。ロックやポップのミュージシャンは音を詰めていかないと間が持たないけど、バレエと太鼓の場合、“静寂”が一番雄弁だったりする。よく振付家や演出家が「ちょっと和物は面白いから、和太鼓とか入れてみようよ」と言って失敗するのは、“間”を判っていないからですね。幸い僕は太鼓をやる前、ドラムスをやっていた頃から(モーリス)ベジャールが好きで、舞踏もちょいちょい見ていたんで、そんな視点も持っていたかも知れません。
●クラシック・バレエとレナードさんとの共演では、身体の表現はどのように異なりますか?
田所:かなり異なりますね。クラシックの動きとは違う動作が多いし、筋肉の使う場所も違う。今までなったことのない部分が筋肉痛になったり、首はもうしょっちゅう、ムチ打ち状態になっています。
●前田さん・田所さんは2人ともバレエの先生もやられているわけですが、レナードさんとの公演日程の合間にレッスンがあったりすると、スイッチの切り替えは難しいですか?
前田:いや、大丈夫ですよ(笑)。
田所:基本、身体に染みついているものなので、指導に関しては、問題ないですよね。レナードさんとの公演の余韻に浸っていたいというのはありますけど。
レナード:精神的なスイッチの切り替えは、確かにあるでしょうね。クラシックの場合は規律があって、“揃う”ことが前提となっている。でも僕とやる時には、きっちりマス目に合わせるのではなく、マス目は歪んでいるけど全体の大きさは変わらない、みたいな。譜面がなくて、「ここは自由にヨロシク」というパートもあるし。そういう意味で、ダンスの技術よりもコンセプトに付いてこれるか...という部分がある。それを理解できなくて、一緒に出来なかった人もいるし。
田所:自由に踊っていい、自分をオープンにするというのは、最初は躊躇がありますね。でも、太鼓の音をずっと聴いていると、身体が動くのは自然の反応ですからね。
●今回のダンス・アンサンブルには前田さん・田所さんを含め9人のダンサーが参加しますが、レナードさんは彼らにどんなパフォーマンスを求めていますか?
レナード:お客さんにアピールするのも大事だけど、それよりも太鼓と向き合う、大地と向き合う、大地のエネルギーを剥ぎ取って自分のものにするような、上に伸びていくようなイメージで踊ってもらいたい。暴れて欲しいんですよ、ケガのない範囲で(笑)。
●今回、18歳以下のお客さんには低価格でチケットが売られますが、今回の公演で、若者たちにどんなところを見て欲しいですか?
レナード:音楽が自由であることを見て欲しいですね。しかめっ面でやる必要はない。楽しければ笑えばいいんですよ。そして楽しくやるには“いい音”を出すのがいいんだ、ということを知って欲しい。テクニックやスキルも良いけれど、気持ちのいい音を追求して欲しい。
前田:見て欲しいところ、といったら“全部!”なんですけど、見るよりも、躍動感を感じて欲しいですね。私も外の仕事でレナードさんの曲を使わせていただいて、振り付けをすることがあるんですけど、生徒さんたちがみんな、身体が喜んじゃって、病みつきになるんです。バレエをやっている若い子は毎日が忙しいし、他のジャンルの音楽に触れる機会がなかなかないんですけど、早いうちにいろんな音楽の世界に接してもらいたいですね。
田所:和太鼓がお祭りの中心、盆踊りの真ん中となって、私たちがそれと一体になって踊る。和太鼓はただドンドン、ドンドンと鳴らすのではなく、感情の起伏を表現する楽器なのであると。かつて私が衝撃を受けて、それから30年以上経って、また一緒にこの世界に関われることに喜びを感じるし、それをみんなと共有したいと考えています。
【"Leo" レナード衛藤 × ダンス・アンサンブル】
2018年10月10日(水)東京・マイナビBLITZ赤坂
開場18:00 開演19:00
レオクラシックス・トリオ レナード衛藤(太鼓)、山内利一(太鼓)、阿部一成(笛)
ダンス・アンサンブル 森本京子、田所いおり、前田新奈、泉有香、田島由佳、水谷彩乃
石井竜一、新井悠汰、飛永嘉尉
【2016年のインタビュー】
2016年のインタビュー前編:https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20160518-00057825/
2016年のインタビュー後編:https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20160523-00057983/